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第2話 白龍(バカ親)が、林仲の村にやってきた

 山賊との戦いから、二週間。

 林仲の村は、平穏を取り戻しつつあった。

 

 領主の館で引き取ることになった、孤児と老人の世話は概ね上手くいっている。

 てか、ヒミコに仕事を丸投げしただけなんだけどね。


 まあ、弟を失った悲しみから立ち直らせるために、ヒミコに仕事を振ったのは正解だったと思う。


 ヒミコの表情に明るさが戻ってきていた。


 そうそう、孤児や老人を押しつけなかった代わりに、相続問題や整地問題では、村人から大幅な譲歩を引き出すことに成功した。

 

 今も昔も老人の介護とか子育ては、みんなやりたくない仕事みたいだ。


 そして、この二週間で、村の地図が完成した。


 まあ、定規とかメジャーがないので、正確な地図ではない。

 だが、誤差は10%以内の使える地図だ。


 この地図から推測すると、この村の農地の収穫量は、おおよそ人口の120人分だ。


 始めて、この数字が出てきたときは、自分の計算間違いを疑って、何度も計算をやり直した。


 だが、計算は間違ってはいなかったのだ。


 この時代の農村なら、自給自足が当然なのに、この村では人口の半分程度しか養えていなかった。


 そりゃあ、貧村になるわけだ。


 ちなみに、不足している食糧は、近くの森からの採取+狩り+鉱山への出稼ぎで補っていた。


 当然、足りないので、人減らし(女性を売春宿に売り飛ばす)が頻繁に起こっていたのだ。

 

 正直に言おう、俺にはこの村を裕福にする方法が思いつかない。


「……鉱山から、きんでも出てくれないかな?」とマコトが呟くと、名主のグエンが強い口調で反論してきた。


「私は、絶対に出て欲しくありません!」

 若干の沈黙の後、マコトが質問した。


「……何で、そんなに嫌がるんだ?」

 正直、金になる資源が出て、喜ばない人間の気持ちがよく解らなかった。


 そこで、身を乗り出して、名主のグエンが強い口調で語り掛けてきた。


「昔、この近くの鉱山から、きんが大量に産出されていました」

 マコトが羨望の眼差しを向けていると、名主のグエンが唇を噛みしめた。


「……その結果、東国が大量の兵力を送り込んできて、この地は戦いが絶えませんでした」


 もしかして、これが『資源の呪い』という現象か? 

 俺も近くに、金になる資源が出たら奪い取りに行きたくなる。


 学校の授業とかで習ったときは、いまいち解らなかったが、当事者になると冗談にならないな……


 マコトが顔を引きつらせていると、ヒミコが報告にやってきた。


「マコト様、寄り親の白龍様がいらっしゃいました」

 うん?

 

「寄り親である、本人が来たのか?」

 こちらが問いかけると、ヒミコが大きく頷いた。


「はい、五十名の兵を率いて、来ました」

 こちらが報告して、すぐに寄り親、本人がきたのか……


 領主である、シンが死んだからか? 


 いや、寄子(部下)が一人死んだぐらいで、上級貴族の当主が動くのは変だ。

 たぶん、娘が心配で来たのだろう。


 その予想を裏付けるかのように、エクレアが部屋からそっと出て行こうとしていた。


「おい、エクレア逃げるな!」

 頬を膨らませて、エクレアが反論してきた。


「……だって、恥ずかしいんです……」 

 まあ、気持ちはわかるよ。


「でも、仕事を放り投げて駆けつけてくれた親なんだから、ちゃんと会いなさい」

 こちらが強い口調で指示すると、エクレアが渋々と頷いた。


「……はい……」

 こっちは、これでよしと。


「それじゃあ、寄り親を出迎えよう」


 マコトたちが屋敷の前に移動すると、こちらを発見した白龍が駆け寄ってきた。そして、領主である俺をスルーして、白龍が娘に抱きついた。


「エクレアちゃん、無事でよかった! お父さんは、凄く心配したんだよ!」


 ああ、部下が見ているのに、ハデに泣いちゃって。

 領主としての威厳は、どこにいったんだよ?

 

 ちなみに、エクレアは凄く困っていた。

 まあ、本気では嫌がってないみたいだから、大丈夫そうだな。


 そんなことを考えていると、白龍が口をひらいた。


「こんな危ないところでの修行は止めて、早くお家に帰ろう!」

 まあ、そうなるよね。


 正直なところ、今回の戦いで、エクレアが死んでいても不思議はなかった。

 だから、白龍の判断は正しいと思う。


 そこで、父親から離れて、エクレアが言葉を発した。


「いえ、私はここで修行を続けたいと思います」

 いや、俺としては責任が取れないし、帰って欲しいんだけどな…………


 そんなこちらの視線を無視して、エクレアが言葉を続けた。 


「……今回の戦いで、戦うことの意味。戦後の復興など、色々なことを知ることが出来ました」


 まあ、危険だが経験を積むには、これ以上の場所はそんなにないだろう。


 娘の成長を喜んでいた白龍だが、すぐに首を横に振った。


「駄目だ! エクレアちゃんは、ワシと一緒に帰るの!」


 駄々っ子かよ。

 感情的にはならずに、ちゃんと説得しろよ。


 そんなことを考えながら眺めていると、エクレアが声を荒げた。


「お父様なんて、知りません!」と言い残して、エクレアがその場を離れた。


「エクレアちゃん!」と叫んで、白龍が泣き崩れた。


 寄り親としての威厳、0ですね。

 てか、仕事の話をしたいんだけど…………


 白龍の部下に目で尋ねると、そっぽを向いた。

 どいつもこいつも、面倒事を押しつけやがって。

 

「ゴホン!」と、わざとらしい咳払いをしてから、マコトが話しかけた。


「白龍様、お久しぶりです」

 涙を拭ってから、白龍が立ち上がった。


「マコトさん、お久しぶりです。前領主である、シンさんの死について、お悔やみを申し上げます」


 うお、いきなり真面目モードに移行してきたな。


 マコトが面食らっていると、白龍が話を進めてきた。


「それで、今後のことについて相談したいんですけど、大丈夫ですか?」

 こちらとしても、聞きたいことがあったので異存はなかった。


「はい。ヒミコ、白龍様の部下たちを離れに案内してくれ」


「わかりました」と答えた、ヒミコが白龍の部下を案内していく。

 こっちは、これでよしと。


「それじゃあ、白龍さんは、私の執務室に」

 こちらが呼び掛けると、白龍が大きく頷いた。


「ええ、行きましょう」

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