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今日もヤベェよ! アリスさん!  作者: 錯乱坊☆ちぇりぃ丸
第2章 トラックにはねられて異世界転移した私はやがて最強に。そして衝撃の結末が!
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第二章 結編

 私がアーサー王として王位についてから二年の歳月が流れました。


「王様からドンペリの注文が入りました。超あざぁ~す」

「超あざぁ~す」


 ここは王都の夜の繁華街にあるホストクラブ。私の行きつけの店です。

 今宵もイケメンたちがドンペリ一本で恭しく頭を垂れてくれています。


「いやぁ、こうして街が復興して店を再開できるのは王様のおかげです。しかも毎晩のようにご来店下さるなんて」


 イケメンひしめく長めのソファの中央に座る私のところに、ボーイではなくて店のオーナーがドンペリを給仕しつつ、いつものように挨拶にやってきました。


「そりゃ私は最強ですからね。最強が王様になれば王都のひとつやふたつ、あっという間に復興しちゃいますよ」


 西の山脈から出てこない黒の女王軍の警戒にまわしていた前線軍を縮小して、復興のための大工部隊にしてしまいましたから。この私の想像を創造するクリエイトの魔法もありましたし。


「いやぁ、マジでアーサー様が王様の時代に生まれてきて良かった」


 人気ナンバー1美少年ホストのパーシバル君がドンペリを注いでくれます。


「こんな可愛い年下の男子たちに囲まれて、私もこの時代に来て良かったわ」

「何言ってるんですか王様。本当は俺たちと同い年のくせに。あ、よく見たら年下か。近隣の王様とかから王女様だと間違えられません?」

「なんて嬉しいことを言ってくれるんでしょう。そんないい子にはモエシャントン注文しちゃいます。あ、オーナーまだ居たの? オッサンには興味ないですから。さっさとここにいる全員分のモエシャントン持ってきて!」

「超あざぁ~す」


 芸術的なお顔立ちの少年たちが元気な声をあげ、髭のオーナーは急いで酒蔵へ走って行きました。


「いやぁ、アーサーさんは俺たちのプリンセス、いやキングだわ」


 ガラハッド君がイケボで誉めたたえてきます。ここは大人として謙遜しなければ。


「ふふふ。もはや私は王の器には収まりきれません。いわば神!」

「ウェ~イ! アーサーさま、マジゴッド!」


 そのとき、扉が勢い良く開いて、一人の女性が駆けこんできました。まったく、人が夢の空間にいるというのに不躾な女ですね。一体どこの田舎者でしょう。


「王様、ここにいらっしゃったんですね。探しましたよ」

「あら」


 その女性は公爵令嬢さんでした。今は秘書官として口うるさく働いております。


「どうしたんですか慌てちゃって」

「まだ御公務の途中と存じ上げます。表に馬車を待たせております故、お城に戻られてください」

「え~、もう五時過ぎですよ。まだ働かせるなんて王城はブラック企業ですか」

「意味の分からないことを言わないでください。王職は民のために24時間です。さぁ、戻りますよ!」


 公爵令嬢さんは私の服を掴んで立ち上がらせると、店の扉へ引っ張っていきます。寂しそうな顔で私を見つめる少年たち。ああ、心が締め付けられる。


「アーサー様ぁ!」

「そんな悲しそうな声を出さないで、子犬キャラのボールス君。ああ、もっとボールス君の私を求める声が聞きたい」

「アーサー様ぁ! 帰らないでぇ!」


 きゅぅぅぅん。


「アーサー様ぁ。まだモエシャントンが……」

「そっちの心配ですか! モエシャントンはみんなで飲んでおいて。お代はいつもどおり王国へつけといて下さい!」

「さすが神のアーサー王!」

「本当に神になったあかつきには、王位をパーシバル君に譲ります」

「アーサー王様マジ・サンキュ! ウェ~イ!」

「いい加減にして下さい!」


 怒ってしまった公爵令嬢さんに店の外まで連れ出され、待機していた箱馬車に連れ込まれます。出発する箱馬車。


「王様。もう二度と、あのような下品な店には行かないでくださいね」

「ちょっとくらい良いではないですか。仕事の息抜きです」

「毎晩通っているのに『ちょっとくらい』という言葉をご利用ですか。息抜きと仰いますが、今日はお仕事していませんでしたよね」


 う……公爵令嬢め。よく見ている……そうだ、良いこと考えました。



 翌日。

 王の仕事は多岐に及びます。午前中は大勢の大臣や貴族たちとの会議の日です。


「アーサー王、黒の女王軍に侵攻されてからというもの、失業者の数が一向に減りません」

「王様、西側の村や町は未だ復旧されておりません。戦争で夫を失った母子家庭が貧困に喘いでおります」

「アーサー王様、アナタが実行した増税のせいで、生活が立ち行かなくなった王都民が連日のように城門で抗議していますぞ。どうお考えか!」


 会議室では大臣と貴族が私に詰め寄ってきました。しかし私は王。敢然と立ち向かいます。


「多くの民が苦しんでいるようですね」

「左様です。税率は黒の女王軍が攻めてくる以前よりも高いのです。このままでは王国民は飢えてしまうでしょう」


 貴族の抗議に私は反論します。


「飢えって大げさな。お腹がすいているだけですよね。パンがないのならクリエイトの食パン(78円)が20円引きになるのを待って食べればいいじゃない」

「クリエイトは王様の創造の魔法ですよね?」

「近所のドラッグストアですよ!」

違法魔薬ドラッグを国民に売ったらいけません。王、再考を!」

「違います。ドラッグストアっていうのは……ああ、どうして分かってくれないんですか」


 う~ん。たまには真剣に物事を考えてみましょう。


「全員が失業者になり、全ての母子家庭が貧困になり、王都民全員の生活が危いのですか」

「まさか。しかし多くの国民が苦しんでおります」

「それでは貧困ではない者たちを国民の鑑とし、それ以外の国民の生活スタイルを改めた方が良いのでは」

「一部の者は運のいい者にすぎません。百人に一人、千人に一人の人間を国民の基準にするなんて」

「困窮している国民は努力をしているのでしょうか」

「はぁ?」

「努力は素晴らしいものです。私は学園生活や黒の女王討伐時においては努力を重ね、勝利し、今の生活を築きました」


 大臣や貴族たちはポカンとしてしまいました。仕方ないですね。


「例の物を」


 近くにいたイケメンの執務官に目配せすると、部屋を出ていきました。しばらくすると大量の本を載せたカートを押して戻ってきました。


「これらの本は、いかに努力が素晴らしいかを解説したものです。私の経験談に基づき書かせていただきました」

「貴重な紙をその様なモノに。まさか国費で製本したのですか!」


 大臣の一人が不満げに声を荒げます。


「この本は良いものです。これを国民に配りましょう。そうすれば自身の力で貧困を乗り越えられるはずです」

「王、国民に必要なのは本ではなく救済だ」


 努力しようという気持ちさえあれば、国民は自力で何とかするはずです。

 さて、お腹がすきましたし、会議にも飽きてきましたね。


「それではみなさん。あとは読書会なんて如何でしょうか。読めば名案が浮かぶことでしょう。私は部屋に戻ってお菓子でも食べていますね」

「まだ話は終わっておりません」


 会議は終わらせようと思わなければ、永遠に続いてしまうものなのです。私は足早に会議室をあとにしたのでした。



「王様、これはどういうことですか」


 午後、執務室の机に置かれた大量の書類を前にしていると、公爵令嬢さんがプリプリと怒ってきました。いつものことですがね。


「どうしましたか?」

「王城内に妙な部屋が出来ておりました。ナイトクラブ『ナイツ・オブ・ラウンド』。なんだかよく分からないアクセサリーをつけたチャラい男たちが在籍していましたよ。しかも王様から騎士の称号を貰ったと戯言を」

「それは私が城内に作ったホストクラブです。行きつけのホストクラブを丸々移設しました。従業員には騎士の称号をあげました」

「なんで!」

「だって貴女、店には行くなと言ったではないですか。だから城内に店に代わる部屋を用意したのです」

「そんな。だからってどこの馬の骨だか分からない男たちに騎士にすることないではないですか」

「だって王と接する仕事に就くには騎士の称号が必要なんでしょう。ちなみに隣にはべらせているのは騎士・トリスタン君です」

「アーサー王様は大変だね」


 トリスタン君は私を労ってくれました。公爵令嬢さんは呆れた表情を浮かべます。失礼な。


「王様、話を変えましょう。北方の伯爵領が食糧難に陥りそうです。農作物が病気で全滅したとのことです」

「では東の国から小麦を大量に輸入して北方へ送りましょう」

「我が国は財政難になりかけております。外国の輸入に頼るのはどうかと」

「では北方の民を見殺しにしろというのですか」

「昨年、私やほかの臣下が農業改革に着手しろって言いましたよね。でも来年でいいって王様が仰るから放置しておいたら、この結果です。せめて東の国の外交に力を入れていれば、格安で小麦をわけてくれたかもしれませんが」

「だって農業の勉強するのも外交も面倒なんですもの」

「それが王職です」

「王様になれば楽しい毎日を送れると思ったんですけどね」

「王職が楽しいワケがありません。国内の食料を少しずつ北方に送りつつ、東の国には使いに陳情を持たせて、少しでも安く小麦を譲っていただきましょう」

「陳情書くのって王の仕事ですよね。面倒です。あ、財政難が怖いのなら税を上げればいいではないですか」

「先代の王の時代に比べ、今の税は十分高いです。ただでさえ南方では現王政権への抗議運動が盛んだというのに。このままでは独立国を作られてしまうかもしれません」


 恐ろしい国民ですよ。そんなに元気なのであれば黒の女王軍と戦えばよかったのに。実際に戦って勝利したのは私だというのに。


「転移前の世界では税金が上がっても抗議運動なんてなかったんですけどね。そうだ。思い出しました。消費税を導入しましょう」

「なんですか。それ」

「物を買うと税金を課せられるんです。手始めに商品の購入代金の5パーセントを余計に払わせる税金なんて如何でしょうか」

「バカなことを。そんなことしたら買い控えが起こり、経済は回らなくなります」

「必要必需品は買わざるを得ないではないですか。薬や食糧とか」

「なんてことを。王様は暴君になりたいんですか! 民は王国で暮らすことを不シアワセだと感じるはずです」


 消費税を導入しただけで暴君なんて酷い国です。そのうち国民は慣れると思うんですけどね。


「それと王様。王城の地下に幽閉しているエルフの女王のことですが」

「解放してやれっていうんですか。いけませんよ。敵の女王です。人質がいるから黒の女王軍の残党は大人しくしているんです」

「エルフの全てが好戦的な者とは限りません。エルフたちと、平和的な関係を」

「王都が襲われたことを忘れたんですか。私は国民のことを思っているからこその判断をしたんですけどね」


 私はトリスタン君をツンツンとつつきました。


「アーサー王様は頑張ってるよ」


 トリスタン君は私の頭を撫でてくれます。キャハッ。

 それを見た公爵令嬢さんがムッとしております。うらやましいのかな?


「王様。その殿方を執務室から追い出して下さい。仕事の邪魔です」

「なんて可哀相なことを言うんですか。トリスタン君は今日の特別執務官ですよ。朝食のときからずっと隣にいてくれているんです」

「だから朝から隣にいたんですか。王様気付いていますか? 彼は朝から『大変だね』『頑張ってるね』『キミは悪くないよ』の三種類しか発していませんよ」

「そ、それは、トリスタン君は北東の国から来たばかりで、言葉が喋れないというか」

「北東の国は同じ言語圏です」

「ああ、もう! そんな言葉でも必要としている、か弱い女がここにいるんです!」

「飢えに苦しむ国民はもっと、か弱いのです。ついに王都でも今年だけで餓死者が200人を越えてしまいました。やはり国民に税を課しすぎたのかと。税制について再考を願います」

「面倒ですね。面倒。メンドロイド、メンドク星人、メンドクセイバーさん……」

「キミは悪くないよ」


 トリスタン君が耳元で囁いてくれました。


「そうだ。チームアリスをここに集めて、みんなで仕事を分業しましょう」

「王様、チームアリスの面々は各界で職務に就いておりますが」

「いえ、ホストクラブのみなさんのことです。彼らイケメンが現役のチームアリスです」

「え……やだ……」


 公爵令嬢さんは泣きそうな、それでいて怒りの表情を湛えました。


「やめて下さい王様。チームアリスの名はこの世界に平和をもたらした勇者たちの部隊名。歴史に名を残す存在です。それを、よく分からない男たちに」

「いいじゃないですか。私の部隊なんだから好きにしたって」

「いい加減にして下さい!」


 ことさら大きな声を出す公爵令嬢さん。


「もう我慢の限界です。王職に就いて浮かれてしまうことは、少し分かります。だから最初のうちは目をつぶっていました。しかし、王様はいつまで経っても王の自覚はない、夜遊びはする、私たちの声を聞いてくれない」

「王職は疲れるんですよ」


 目線を落とした公爵令嬢さんは静かにつぶやきました。


「アリスさん」

「アーサー王です」

「本当のアリスさんに戻って下さい。以前のほうが好きでした……」

「以前って……本当の私ってどういうことですか。レンコンに穴を開けるようなつまらない仕事をしている私のほうが良かったって言うんですか。私はやっとシアワセを手に入れたんですよ。それなのに。私はシアワセになるなって言いたいんですか!」

 公爵令嬢さんは悲しそうな顔して頭を振りました。

「アリスさん……」

「私をその名で呼ぶな!」


 廊下にまで響いたであろう、私の声。心の中で、何かが吹っ切れたような気がしました。


「だいたい出会ったときから気にくわなかったんですよ。公爵令嬢で生まれつき魔力が高くて、学園では優秀で人気者。私の人生にケンカ売ってるんですか。そりゃ美少女に生まれたら勝ったも同然。余裕が生まれて何事にも素直に努力して成積伸ばすでしょうよ」

「え、私、そんな」

「私みたいに金で釣らなくても男は寄ってくるでしょう。公爵家の美少女ならね。ホスト狂いがバカみたいに見えますか。ええ、バカですよ。死んで、転移してようやく手にしたお金で、やっと男をはべらせることが出来たんです」

「あの……」

「何年つまらない人生を送って死んだと思いますか。二年くらい贅沢したっていいではないですか。子供のころから安穏と暮らしている世間知らずのお嬢さんには、やっとエサにありつけた者の喜びなんて分からないでしょうがね!」

「私は……世間知らずなんかじゃない……」

「貴女は秘書官クビですよ。王の気持ちをまるで理解していない。後任はこちらで勝手に決めます。公爵家にでも戻ればいいんじゃないですか」


 そこまで言うと、公爵令嬢さんは泣いていました。彼女の泣き顔が、私の心の黒い部分を加速させます。


「泣けばいいってもんじゃないでしょう。私なんて、泣いたって誰も助けてくれなかった。泣いたら迷惑と思われていた人間なんです。貴女を見ているとイライラします。とっとと消えて下さい。それとも王の仕事を邪魔したいのですか!」


 公爵令嬢さんはゆっくりと執務室の扉へと向かいます。そして彼女は振り向きました。


「さようなら。素敵だったアリスさん」


 そして執務室から出て行きました。ああ、つまらない気分になってしまいましたね。


「キミは悪くないよ」


 トリスタン君が耳元でささやいてくれても、心は晴れないのでした。



 城内に設けたナイトクラブ『ナイツ・オブ・ラウンド』で酒を浴びるように飲み、自室に就いた頃にはフラフラ。なんとかベッドに倒れこんで意識を失いました。


 そしてその夜、不思議な夢を見ました。

 そこは全方向が白い空間。目の前に白衣に身を包んだ髭モジャで杖を持ったハゲた爺さんが現れたのです。白衣と言ってもお医者様ではなく、なんとなく神様のような。


「アリスよ。大いなる力と王の権力を己が欲望のために使いおって。罰として毎日、お主の力をひとつずつ奪い取る。それが嫌ならば大いなる力を正しく使い、民にうやまわれる正しい王へと生まれ変わるのじゃ。そうでもないとお主はいずれ元のつまらない女に……」

「はっ!」


 気付けば朝でした。ここは自室。ベッドの上。何だったんでしょうね、さっきの夢。

 神様っぽい爺さんが出てきて私の力を奪い取るとか言っていましたが。そもそも神様って、押しに弱い癖毛の少女だったはず。だったら、あの爺さんは何者なのか。


「ま、いいか。ただの夢だし」

「アーサー王! 起きていらっしゃいますか!」

「朝からイケボ! わーい! モーニングイケメンだ! 今日は誰かにゃ? 入ってきてぇん」

「何を仰ってるんですか!」


 『ナイツ・オブ・ラウンド』の誰かと思いきや、扉を開けてやって来たのは騎士団長の息子さんでした。


「どうして息子さんが?」

「どうしたもこうしたも。南東の伯爵領で魔獣『目から角ウサギ』が大量発生したから王国軍で討伐しているんです。あとで王が装甲車に乗って駆けつけてくれるっていうから、交戦しながら待っていたのに、全然来てくれやしない」

「そういえば、そんな話ありましたね」


 南東の伯爵領で大量の魔獣が現れたと言うので王国軍を向かわせ、あとから私が装甲車に乗って追いつき、ともに戦闘を開始する手はずでした。すっかり忘れていました。

 騎士団長の息子さんは、父親である騎士団長の補佐役として王国軍に就いております。


「魔獣が勢力を拡大させ、合流場所まで押し寄せてきたんです。王が来てくれないから戦線は大混乱。多くの将兵が負傷しています。聖騎士の力を視野に置いた作戦でしたので人員不足です。今すぐ戦場におもむき下さい。一緒に行きましょう」

「え~。遠いですよぉ」

 


 一週間後。南東の伯爵領。

 そこでは『目から角ウサギ』が村や畑、人々を見境なく襲っておりました。王国軍は必死の抵抗をしておりますが、押されぎみのご様子。


「ありゃまぁ。大変ですね」

「王が駆けつけるのが遅いから戦線が後退して被害が拡大したのです」

「だって馬車が遅いんですもん」


 お城の庭に停めてあった装甲車は、なぜか完全分解されておりました。クリエイトの魔法をかけようにも、魔法が発動しません。仕方なく王様専用の馬車でここまで来た次第です。


「王。馬車が装甲車よりも遅いことは分かるのですが」


 騎士団長の息子さんは呆れ顔で私を睨みます。


「なにも箱馬車の中で男たちと酒盛りしながら来ることもないでしょう。しかも道の駅や飲食店を見つけるたびに立ち寄るし。だいたい馬車が遅すぎます。何ちんたら走っているんです?」

「だって速く走ったらキャビンの中でお酒飲めないじゃないですか。あと旅先にあるお店って気になるし」


 長旅は飽きると思い、『ナイツ・オブ・ラウンド』全員連れてやってきたのです。箱馬車の中でゲームしたり、お酒飲んだり、行く先々の名産品を食べたりして、とっても楽しかったです。


「……王、とりあえず目の前にいる魔獣を魔法で吹き飛ばして下さいよ」


 多くの将兵が待っていましたとばかりに輝く瞳で私を見据えます。『ナイツ・オブ・ラウンド』の面々も期待の眼差しを向けてきます。では、一丁ブチかましますか。


「わかりましたよ。発動! ディメンションブラスト!」

「…………王?」


 何も起こりませんでした。もう一回……あれ? 下っ腹に力を込めて……ん? 殺意を全開にして……え~嘘ぉ。


「なにも起こりませんね」


 遠方で暴れ狂う『目から角ウサギ』にかざした手からは、何も生まれません。それどころか体内に渦巻く魔力そのものが感じ取れないような。まさか、これって……


「私の魔法、今日は日曜日?」

「王!」


 騎士団長の息子さんが必死の形相で煽ってきます。こうなったら。


「王国軍の勇者たちよ! 傾注!」


 私が大声を上げると将兵たちが再びこちらに目を向けます。


「我はギレイシャ王国の王アーサーである! 魔獣と戦う勇敢な戦いぶりをこの目に収めに来た! その剣と誇りに賭け、必ずや魔獣を打倒して見せよ! この南東伯爵領の平和は諸君らの騎士道にかかっている! いまこそ日頃の成果を見せるときだ!」

「……王?」

「おわりっ。はい、歓声!」

「うおぉぉぉぉ!」


 将兵たちは雄叫びをあげ、死に物狂いで魔獣に立ち向かいます。私は騎士団長の息子に言いました。


「鼓舞しといたんで。あとはヨロシク」

「え?」

「私、もう帰りますから。魔法撃てないし。身体の調子悪いみたいだし」

「そ、そんな。王?」

「何本かエクストラポーションを置いていきますから。それなら構わないでしょう」


 こうして、南東の伯爵領への旅は終わったのでした。

 その後、多くの将兵と民間人から重軽傷者が出たものの、なんとか『目から角ウサギ』を討伐できた模様。さすが私が鼓舞した甲斐があります。



 そしてさらに半年の月日が流れました。

 私は公務のあいだのわずか三時間の昼休みを使って『ナイツ・オブ・ラウンド』の面々とテニスをしようと思いました。クリエイトの魔法でラケットとネットを作ろうとしたものの、何故か発動できず。

 仕方ないのでドッヂボールを始めたのですが、真っ先にやられてしまいました。

 その日の夜、いつものように『ナイツ・オブ・ラウンド』で酒をあおったのですが、自室への帰りに階段から足を踏み外し、捻挫ねんざしてしまいました。


「解せぬ……」


 回復魔法で捻挫を回復しようと試みましたが、やはり魔法は発動できません。そもそも最強の私が階段から足を踏み外した程度で捻挫するなんておかしいです。ドラゴンとの戦いでは大ジャンプしたあと、着地しても無事だったのに、どうして階段の一段程度の高さで捻挫してしまったのか。それに最速な私がドッヂボールでやられるなんて。

 さらに王職の専門用語は憶えたそばから忘れていくし、書類もなかなか読み進めることが出来ません。最強知力よ、どこへ行った?

 最近は身体が重いし、酒を飲めば眠くなるだけだし、揚げ物はお腹にこたえるし……


「これでは転移前の私と同じではないですか」


 一体これは、いつからなのか。何かきっかけがあったような。


「アーサー王様!」


 足を引きずりながら自室へ向かっていると背後から声がかかってきました。

 振り向けば老大臣です。


「王様、お手紙です」

「手紙? そういうのは昼間にして下さい」

「しかし昼間はろくに公務室にいらっしゃらないので渡しそびれてしまいまして」

「んもうっ。で、誰からです?」


 手紙を受けとれば、差し出し人は公爵令嬢さんでした。

 ずいぶん前に追い出してからというもの、そのまま私の前から姿を消していたのでした。公爵令嬢さんがいなくなってからというもの、公務の書類が山のように溜まっていきました。思い出してみれば、公爵令嬢さんが書類業務を手伝っていてくれていたんですよね。


「復職したいという陳情でしょうか。やれやれ、どんなことが書いてあるやら……え……」


 手紙の内容は、王城の地下に幽閉されているエルフの女王の解放。さらに黒の女王軍の残党への和平交渉役に自分を指名してほしいというお願いでした。


「自分のことよりも他人の心配ですか。あの子はどこまで!」


 急に腹の立った私は、手紙をクシャクシャにして自室へ足を向けます。


「王様? おみ足、どうされたのですか」


 捻挫で足を引きずる私に気付いた老大臣が声をかけてきました。


「足を踏み外して。そうだ、宮廷の魔法使いを呼んで下さい。回復魔法があれば捻挫なんて」

「王様が我が国で一番の魔法使いなのですから、ご自分で治されては?」

「ムカっ! もういいです! 今日は誰にも会いたくありません。部屋のまわりにはメイドや近衛を置かないでくださいね!」

 

 そうして老大臣をふっきるかのように、無理して自室に駆け込みました。無理したせいか足がジンジン痛いです。


「ううう……痛い。ムカつく……」


 どうしてこんな気持ちになるのだろう。せっかく最強の力を手に入れて、王様にまでなって、美男子にモテるようになったのに。この数ヶ月、良く考えたら魔法が使えない、体力の衰えなどの不調が続いています。何より、寂しい……。どうして?

 時計を見れば12時前でした。では、もう一度『ナイツ・オブ・ラウンド』に行ってみんなに癒してもらおうかな。


「ぎゃははっはは!」


 窓の外から男性の笑い声が響いてきました。

 窓から見下ろせばパーシバル君やガラハッド君、ボールズ君たち『ナイツ・オブ・ラウンド』の面々が王城の庭を正門の方へ歩いていくところでした。

 そういえば今晩、彼らにおこずかいをあげたんだっけ。そのお金で街に繰り出すのでしょうか。


「ぎゃははっはは!」


 どんな話をしているのか。パージバル君たちは下品な笑い声を上げながら、正門に向かいます。門番が呆れた顔をして正門横の通用門を開けてあげました。彼らは門番に目もくれず門の外へと出て行きました。


「あんな笑い方するなんて知らなかった……」


 王子様だと思っていたのにな。今晩はもう『ナイツ・オブ・ラウンド』に行っても誰もいないでしょうね。

 お酒を飲んで寂しさを紛らわそうにも、部屋の中には買い置きのお酒なんてありません。転移前に住んでいたアパートの冷蔵庫には、ビールを常備させていたのにな。


「そうだっ。ポーションを飲めばイイじゃないですか」


 お酒→飲む→飲み薬→ポーション! なんという発想の連鎖反応でしょうか。ポーションを飲めば捻挫なんて回復です。

 あ、でも、この部屋にはない。最強魔法使いの私がポーション庫でポーション飲んでいたらカッコ悪いしなぁ。

 私はベッドの上で丸まりました。ああ、足痛い。なんだか気分悪い。それに寂しい……。

 そんなときでした。


「王様。いらっしゃいますか?」


 扉を開けて入ってきたのは『ナイツ・オブ・ラウンド』の最年少メンバーであるランスロット君でした。まだあどけない顔をした子リスのような少年です。最近ホストになった子でした。


「どうしたのですか。みんなと一緒に夜の街に遊びに行ったのでは?」

「夜の街? ああ、僕にはまだ夜遊びが早い気がしたんです。それに老大臣さんの話だと王様は足を引きずっていたって。王様、今日は元気ありませんでしたよね。それで回復魔法が使えないのかなって思って、これを」


 彼はお盆を手にしていました。その上にはポーションの入った瓶とコップがありました。


「これを飲んで、大切なおみ足を治して下さい」

「ランスロット君!」


 王子様はいなくても、天使はここにいた!


「うああぁぅあ~」


 感謝だか、うれし涙の嗚咽なのか、良く分からない声が私の口から漏れてきました。両手を前に出し、まるでゾンビのようにランスロット君のもとへ向かいます。


 ザシュっ!


「え?」


 ポーションの瓶がお盆ごと床に落ちて割れ散りました。ランスロット君の手にはナイフ。赤い血が滴っております。それらを視認した直後、伸ばした腕に熱い痛みが走り、血が噴き出しました。


「痛い!」


 腕に切り傷が。ランスロット君にナイフで斬られたんです。でも、なんで?


「首元を狙ったんですが。まったく、パージバルめ。ホスト役に過ぎない僕に無理やり飲ませるから手元が狂ったじゃないか」

「ラ、ランスロット君?」

「僕の正体は、とある貴族が使わせた暗殺者なのです」

「暗殺者? 一体どこの貴族が」

「誰でもいいではないですか。この城には何人もの貴族が遣わせた幾人もの暗殺者が使用人を装って潜伏しています。そして王様が王様たる者ではないと判断されたとき、僕のような者が動くんです」

「そんな」

「先代の王の時代も、その先代の王の時代も、常に王の周囲には暗殺者がおりました。けれど、どの王も完璧でなくても殺すには惜しい人材でした。しかし、今回は違う」


 ランスロット君はナイフを向けながらこちらにゆっくりと迫ってきます。私は腕の痛みとランスロット君の言葉に驚き、後ずさりするしかありません。


「アーサー王様が王職に就いてからというもの、相次ぐ増税で国民は飢えに喘ぎ、天候不順でもないのに餓死者が増加。周辺国には挨拶しないモノだから王国との関係は悪化。南部では現政権への不満が爆発し、このままでは内乱必至です」


 ランスロット君は幼さが残る顔には似つかない、殺意のこもった眼光を送ってきました。


「アーサー王様。貴女はこの国には不要なんです。死んで別の者が王職に就いた方が良い!」


 一気に距離を詰めてくるランスロット君。


「誰か! 誰か来て!」

「無駄ですよ。メイドも近衛も近くにはいません。遠ざけたのは貴女でしょう?」

「こうなったら18キン!」


 近くにあった燈台を武器にして斬りかかりますが。

 キン!

 発動しないどころか、ナイフで叩かれてしまいました。


「だったらバ7で」


 シュバババババババ……そうやって彼の背後にまわり、この部屋で唯一の出入口まで走り、逃げおおせようとしましたが……


「発動しない?」


 私の足は運動不足の現代人のように、瞬足を発揮せずにヨタヨタと格好悪く、足も上がらず進むのみ。全速力が高校生のジョギング程度です。

 そんな早歩き並の走力ではランスロット君は突破できず。仕方なく部屋の奥へと逃げ込みます。王の部屋は三部屋分。学校の教室三個分といえば分かりやすいでしょうか。


「待って下さいよ、王様」

「誰か! 誰か助けて!」

「無駄ですよ。パーシバルたちもいない。今ごろ貴女が渡したお金で街の女を抱いているでしょうね。風俗店の女性ではありません。夜の街は不景気で閉店しています。男たちは職を失った女性を金で抱いているんです。僕の姉も」


奥へ奥へと逃げなければ。でも奥は行き止まり……


「この不景気だ。職のない女性は身体を売るしかない。男は泥棒か魔獣狩りで生き抜くしかない。なんて不景気だ。誰が不景気にしたと思いますか? 王様、貴女ですよ!」


 ランスロット君はナイフを握りしめながら向かってきていることでしょう。振り向くのが怖いから確認できませんが。

 恐い。コワイ。ヤダ。もう死にたくない。どうしてこんなことに。誰か、ダレか、ダレカ、助けて、たすけて、援けて、タスケテ……

 辿り着いた先、そこは広い広い王様の部屋の終わり。あんなに広いと思っていた、この部屋が、こんなにも狭かったなんて……


「さようなら。遊び狂いの王様」


 私は抵抗し、何度もナイフで斬りつけられ、イタイが感覚を通り越して、身体から激痛が溢れていって、それはもう、どこからどこまでが自分のカラダか分からなくナッテイッテ……



 気付けば真っ白な空間に立っておりました。身体に痛みも消えております。たしかここは神がいる空間ですね。


「神ぃー! 神ぃー!」


 一体なんだったんでしょう、さっきの世界は。せっかく最強の力を手に入れたというのに、いざというときには力は発揮されず、殺されてしまう始末。これは苦情を漏らさねば。


「アリス!」


 振り向けばお爺さんが立っておりました。白い服を着て髭モジャで杖を持っております。まるでマンガに出てくる神様のような爺さん。どこかで見たことあるような。


「アナタはどなたですか?」

「今オマエが呼んだであろう。神だ。こちらも用があってオマエの魂を召喚した」

「え? 神といえば金髪癖っ毛の美少女風の小娘だった気が」

「その者はオマエとの接触で精神を痛めて休職中だわい! 我は新任の神じゃ!」


 神と名乗るお爺さんは怒っているらしく、杖の下端をドンっと白い床に打ちつけます。背後で稲妻がピカリと閃きました。


「あの、以前の神様、心を病まれたのですか」

「オマエのせいじゃぞ。オマエは前任の神に対して数々の犯罪を行ったようじゃな。オマエには神を脅したことによる神界脅迫罪。セクハラによる神界迷惑防止条例違反。神界を糞尿で汚した神界器物損壊罪。多くの罪状が出ておる。前任の神は鬱を発症して神業を続けられなくなったのじゃ!」

「そんな! 死んでからも罪に問われるなんて」


 かつて糞尿まみれだったのは、私のせいではないのですが。

 そう思っても、今回の神はいかにも神様っぽくて気軽に愚痴はこぼせません。


「そ、そうだ。私、死んでしまったんですよ。おかしな世界でした。前任者の責任は今の神様の責任ですよね。どうしてくれるんですか!」


 神が人を転移させ、新たな人生を送らせるのであれば、それはシアワセになる事しかるべき。どうしてわざわざ殺されてしまう世界に転移させたのでしょうか。これでは地獄送りと同じです。

 私は新しい神様に抗議の視線を送りました。ところが。


「黙れェい! 最強の力を持っていながら、それを困っている人々のために使わず、さらに異世界転移者という王国民やエルフでもない第三者の立場から、両者の橋渡し役になると期待していれば、王になってワガママし放題。殺されて当然の人間じゃ!」


 神様が杖の先端でドンっと床を叩けば、背後に雷が落ち、白い床に稲妻が走ります。


「ひぃぃ。でも生まれて初めて王様になったんです。少しくらいワガママしてもいいではないですか」

「少しくらいならな! だがオマエの少しは少しではなかった。二年半以上もくだらないことに国費を使いおって。10クール以上じゃぞ! 夕方アニメなら10回はオープニングテーマが変わっておるわ!」

「うう……」

「オマエが王職を引き受け、怠けていたせいで大勢の人間が不シアワセな目に遭った。死んだ者もおる。この駄王が!」

「でも……私だって死んだんです。前の神様がくれたはずの最強の力も魔法も急に使えなくなったんですよ」

「だから夢に出てきて警告してやったじゃろうが! ワシはオマエの能力や魔法を毎日ひとつずつ奪うことで反省を促していたんじゃぞ」

「思い出した。夢に出てきた謎の爺さん!」

「反省すれば奪うのを止め、最終的には奪った能力・魔法は返還しようと思っていたのに。オマエときたら元の人間になってもワガママしおって」


 ピカっ! ピシャアアン!

 神様が怒り、床を杖で叩くたびに雷が落ちてきます。直撃こそしませんが、怖い。


「オマエのせいで多くの人間が悲しんだ。異世界で殺されただけでは足りぬ。それ相応の罰をこれから受けてもらう」

「待って下さい。私は王様初心者です。全てが全て上手くいくわけない」

「勉強できる環境はあった。王の職務に詳しい仲間もいた。それなのにオマエは」

「歴代の王だって完璧ではなかったはずです。だいたい、だった一人が頑張ったところで、必ず誰かが死んでしまうと思うんですよ! たとえ私が本気出したって限界があったでしょう。全員を悲しませないことなんて、できません」

「ほぅ」

「そもそも最初に私が生きていた世界で私が死んだから、こんなことになったんです。私を死なせた前任の神様のせいです。まったく、神様のくせに何やってたんだか」

「神のブーメラン発動! 前任者は神職初心者。神ががんばっても必ず誰かは死んでしまう。全てが全て上手くいくわけがなかろう!」

「ぐはぁぁぁ!」


 謎のダメージが私に直撃し、激しく身体を悶絶しました。


「アリスよ。次は異世界転生してもらう」

「異世界転生?」

「うむ。ワシが受け持っている世界のひとつに、とんでもない世界があってな。一見平和で豊かな世界なんじゃが、人々はお互いをさげすみ、力ある者は弱者を叩き、弱者はさらに弱き者を踏みつぶそうとする世界じゃ」

「なんて恐ろしい世界」

「時系列は前後するが、不慮の事故で死んでしまう女がいる。その女は人生をやり直すには微妙な年齢で、死を迎えるには先の長い年齢でもある。その世界では最もつまらない人生を送っている不シアワセな女だ。オマエはその女に転生し、つまらない人生を送るのだ」

「修羅の世界で生きる、つまらない人間! そんな人間に転生したら、私のセンシティブな心は崩壊してしまいます」

「それがオマエの罰なのだ。アリス、不シアワセな世界の不シアワセな女に転生せよ!」


 神様が手を上げました。これは、落雷が来る!


「神様、やめて下さい!」

「心配するな。王国ではオマエはドンペリの飲み過ぎでアルコール中毒を起こして死んだことになっている。新たな王は公爵令嬢の父親が就いた。公爵令嬢はエルフ女王を解放。エルフ軍の残党との和平交渉に成功し、西の森をエルフの特区とした。さらにエルフを呪いから解放する秘薬を作ったのだ」

「そうではなく」

「公爵令嬢は森に植樹し、エルフの住みよい環境を作った。それが周辺国から評価され、父の死とともに女王に就任。のちに慈愛ハートの女王として大陸全土に名前が轟くようになったという」

「あの」

「ちなみにオマエを殺した少年は姉と共に西の森に身を潜め、エルフと仲良く暮らしたそうだ。これが、オマエが死んでから約60年のアフターストーリー」

「話を聞いて下さい。うぎゃああああ!」


 神様が手を振り下ろしました。私に落雷直撃。走る激痛、貫く痺れ。ああ、もう、どうにでもなれ。



 気がつけば私は道の脇に立っておりました。そこは中世ヨーロッパやファンタジーゲームのような世界とは異なり、近代的なデザインの建物と道路様式となっておりました。

 私はどうやら女性に転生したようです。右手には袋に入ったピザの箱。左手には大量の缶ビールが入ったエコバッグ。


「ここは……」


 恐る恐る歩いてみます。道路を渡ろうとした、そのとき。

 一台の車が猛烈なクラクションを鳴らして目の前を横切って行きました。思わず止まる私の足。その車は車体に『ウミガメ交通』なる文字を印字させたタクシーでした。

 タクシーのあとにマゼンダとピンクのトラックが通過していきます。車体には『チェシャ猫運送(株)』の文字。


「もしかして、あのタクシーがいなかったら、トラックに跳ねられて死んでいたのでしょうか」


 あたりを見回します。懐かしい空。懐かしい風景。懐かしい空気。

私は悟りました。ここは恐ろしい世界。転生したのはつまらない人間。そうか。なるほど。つまり。


「私は私に転生したと。つまり転生先の正体は、生きづらい世界ですね」


 そして私は当り前のように帰路につき、懐かしきアパートに辿り着き、当然のようにポケットにあった鍵を使って部屋へと帰りつきました。

 ピザ、缶ビール、遅めの一人ピザパーティ。


「パーティメンバーは一人が最高。手には剣よりピザなんです。知力がなくても、ドラマを理解出来れば十分でしょう」

 そして視線の先のテレビドラマは『10年OL 井戸端池子いどばた・いけこ』の第三話。面白かったです。


 おわり


第2章、完結しました。ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

さて、連載開始の時期はランキングや作者のヤル気に関わる重要な局面なのです。今後の連載の継続をも左右すると言っても過言ではありません。

そこで読者の皆様にお願いがあります。

もしも少しでも「面白かった」「頑張ってほしい」「続きが読みたい」と感じてもらえたのなら・・・

どうか当作品の気に入った箇所を音読していただけないでしょうか。場所は教室、職場、公共交通機関で構いません。

音読することにより、当作品が多くのかたに知られ、結果として人気が上昇するというカラクリです。

さらに周囲のアナタを見る目も変わって一石二鳥!

どうぞ、よろしくお願いがします。

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