王位の簒奪
物語が動き始めます。
アルトへの恋心を自覚した。
自覚してしまうと、咲はアルトに対してかなり挙動不審になってしまった。
アルトはそんな咲を心配してどうしたのか尋ねて来るが
『あなたに恋してしまったから』
なんて言える猛者はいないだろう。
「……はぁ」
思わずため息が漏れるのも仕方がない。
今まで、実の子供のように可愛がってきた。
そんな彼に恋愛感情を抱いてしまうなんて。
そうして悶々と考え込んでいた咲だったが、今日が特別な日である事を思い出し、ハッと顔を上げた。
今日はアルトの誕生日。
アルトは自分の産まれた日を知らないというので、咲がアルトを拾った日を誕生日としたのだ。
アルトは今武術を学びに伯爵邸に行っている。
咲は急いでこの日のために買い込んだ食材を引っ張り出して来た。
……アルトが帰って来る前までに驚くような料理を作ろう!
「しっかりしろ!今日はアルトを喜ばせるんだから!」
そう呟いて己の頬を叩くと、咲はアルトのためにいつもより豪華な夕食を作り始めたのだった。
分厚い肉のステーキにふわふわのパンそして、木苺のジャムを塗った甘酸っぱいケーキ。
ステーキの分厚さは咲とアルトでだいぶ違う。
アルトの方が咲よりだいぶ大きい。
……アルトはよく食べるから
と咲は苦笑した。
咲はアルトの帰りを待ちながら、今までの生活に想いを馳せていた。
一緒にご飯を食べて、買い物をして……とても楽しい日々を過ごした。
アルトなしでの生活などもう絶対に考えられない。
「……平和な日々だなぁ」
こんな生活がずっと続けば良いと思いながら咲は目を閉じた。
どうやらうたた寝をしていたらしい。
咲は目を覚ますと窓の外を見た。
もう日暮れだ。
「……アルト、遅いなぁ。」
少し不審に思っていたが、扉が開く音に咲はパッと顔を向けた。
「アルト!お帰りなさ……」
……咲の言葉は最後まで続かなかった。
何故ならそこには、今まで以上に必死の形相を浮かべたアルトがいたからだ。
アルトは咲に近づくと、強く咲を抱きしめた。
「ちょ……アルトっ……何を……」
突然の事に咲は赤面し戸惑うが、アルトは離してくれない。
アルトは力強く咲を抱きしめる。
「……大丈夫です、咲。私が貴方を必ず守るから。」
そう譫言のように繰り返すアルトにどうしたのかと咲は心配になった。
尋常ではないアルトの様子に、咲は何とかしてアルトから離れると真っ直ぐにその目を見つめた。
「どうしたの?何かあったの?」
そう問うと、数秒の間の後アルトはゆっくりと口を開いてくれた。
「魔持ちのある貴族によって、王位が簒奪されました。」
その言葉に咲は目を見開いた。
王位の簒奪?
少女漫画の世界でそんなものなかった。
そんなの知らない。
そこで一つの可能性に行き当たり咲は青褪める。
もしかして、私がこの世界に来たことで何か歯車が狂ってしまったのか。
私が、この世界の歴史を変えるような何かをしてしまったのか。
そう思うと咲は立っていられなくなった。
私が大勢の人の運命を変えてしまった。
……なんて罪深い。
咲の頬に一筋の涙が伝った。
悲劇は加速し始める。
次回も読んでくれると嬉しいです。




