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推しの愛しの幻想曲  作者: 雪斗
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アルトの願い

異世界レッツゴー!

アルトと一緒に生活を始めて一年経った。

あの荒廃した小屋はアルトの魔法と金の力によって見事な家に生まれ変わった。

決して贅沢ではないけれど、幸せな生活を送れているから咲は満足だった。


そして、アルトが魔法を学び始めた。

先生はいないが、天才だからか書物だけで充分な様だ。

因みに私は聖属性魔法以外はからっきし駄目だ。


聖属性魔法は千年に一人使い手がいるかいないかと言われている凄い魔法なのだ。

この魔法だけは努力や才能で得ることは出来ない。

聖属性魔法が使えるのは神に愛された者だけ。

つまり私は神に愛された少女なのだ。

……人選しくじってるよ神様


アルトは聖属性魔法以外は全て使える。咲は聖属性魔法を使える。

……だから丁度良いのかも知れない。















平穏な日々が続いていたある日、アルトにお願いされた。


「武術が習いたいのです。」


その言葉に咲は目を見開いた。

漫画の中の世界でアルトは強かった、圧倒的に。

それは魔法だけでなく身体能力も人並み外れているからだろう。


アルトの願うことは全て叶えてあげたい。

咲はそう思うのだが……

武術だけは師が必要だ。

咲の表情からアルトは言いたいことを悟ったのだろう。


「分かっています。『魔持ち』の人間を教えてくれる人なんていないと……でも、どうしても習いたいのです!」


その必死な様子に咲は決意した。

私に武術関連の伝は全くないし、仮にあったとしても黒を持つアルトを教えてくれる者はいないだろう。

だが、方法ならひとつだけあるではないか。


漫画の世界でアルトを凄腕の暗殺者にしたのは、主人公の父親、伯爵の手の者だ。

ならば、伯爵に頼みに行こう。

アルトに武術を教えてくれる師を紹介して欲しいと。


普通の貴族ならば了承しないだろうが、漫画の中の世界で、アルトを拾ったのだ。

きっと、何かある筈。














シンプルながらも清楚な白のドレスの裾が風に靡く。金のレースが胸元を彩り、咲の白磁の肌を際立たせる。髪は一つに纏め紅の蝶の髪飾りをつけており、赤と銀の対比が鮮やかで艶かしい。

……お嬢様、咲様降臨である。


咲はとある伯爵邸の前でしゃがみ込んでいた。

端から見れば具合が悪そうである。


伯爵家に伝なんて物がある訳がない咲が、伯爵に会うにはこうする他ないのだ。

端から見た咲は銀の髪も相まってどう見ても高位貴族の令嬢である。


そして伯爵家に一台の馬車が戻ってきた。

馬車は咲の近くで止まると、中から三十代前半の端正な顔立ちの男性が降りてきた。

服装からして間違いなくこの人が伯爵だろう。


「大丈夫ですか、ご令嬢。」


咲は顔を上げると涙で濡れた瞳で伯爵を見つめた。

伯爵は咲の秀麗な美貌に一瞬固まったが、すぐに柔和な笑みを浮かべた。


「従者や護衛は如何したのですか?貴方の様な高貴な方が何故お一人でこんな所に?」

「お忍びで数名の供をつけて出掛けていたのですが、何者かに襲われてしまって……」


悲しげにそう告げる咲を痛ましげに伯爵は見つめた。


「……靴も脱げてしまって、途方に暮れておりましたの。」

「……宜しければ、私の屋敷で暫しお過ごし下さい。代わりの靴を用意し、ご令嬢のお屋敷に遣いを出しますから。」


咲はその言葉に目を輝かせると微笑んだ。


「有り難う御座います。」


因みにこの白のドレスは咲が一目惚れして買ったもので、あの純白のドレスとは違います。

次回も読んでくれると嬉しいです。

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