隣のいびきが凄すぎる
ディレン視点(魔王の執事)です。
初めて出会った時、なんて人の好さそうな方なんだろうと思った。
アクルスと名乗る男性に、好印象を抱いていた。だが、それも一瞬だった。
夜中。突然大きな音が隣から聞こえてきた。それがいびきだと特定するのに時間がかかった。とてもいびきとは思えない音だった。
なぜなら、いびきが二部合唱になっているからだ。一人で二部合唱はなかなかだ。
(うるさっ……!)
思わず毛布をかぶる。耳を塞いでも、まだいびきが聞こえる。
音の方向からして、アクルスのいびきだろう。あんな物静かな人なのに、夜は別人レベルでうるさいみたいだ。
(まあ、今日だけだよね。普段はこうじゃないはず……)
きっと疲れているからいびきがうるさいんだろう。明日はそこまでうるさくないはずだ。
そう思って、その夜はなんとかやり過ごした。
◇ ◇ ◇
(もう朝か……。眠いな……)
何日たっても、アクルスのいびきは止まらない。おかげでここ数日はほとんど寝ていない。そろそろノイローゼになりそうだ。
これ以上はさすがに我慢できない。
魔王に部屋を変えてもらおうと、昼過ぎに交渉しに行った。
「部屋変えてくださいよ〜。まだ余ってる部屋ありますよね?」
「ない」
「ナーシャの隣の部屋、使ってないですよね?」
「あそこは先約がある」
「そんな〜! なんとかしてくださいよ! お願いします! 一生のお願い!」
必死に頼むと、魔王はようやく真面目に考え始めた。
「そうだな……何か薬でも作ろうか? 安らかに眠れる薬とか……」
「なんかそれって、死んでませんか? 気のせい?」
「いや、気のせいじゃない」
「まだ生きていたいんですけど」
「贅沢言うな。十分生きただろ」
とても厳しいことを言う魔王である。きっとこれが普通なんだろうけど。今までが優しすぎたんだ。
「しょうがない、まともな薬を作ってやるか……」
「まともな薬ってなんですか? 怪しい雰囲気がありますけど」
「気のせいだろ」
「本当に?」
「安心しろ。お前のことは実験台にしか思ってない」
「安心できないんですけど!」
最低な発言をした魔王はニヤリと笑った。少々むかつく顔である。
「実験台になるのと、いびきに耐えるのと、どっちがマシだ?」
「実験台になります!」
即答だった。実験台の方がマシに決まってる。
「じゃあ、実験台になってもらおう」
「はい! よろこんで!」
「後で作るから、また寝る前に来てくれ」
「分かりました。ありがとうございます!」
◇ ◇ ◇
魔王から例の薬を受け取り、言われた通りにそれを飲んだ。
果たして、これで眠れるのかは分からない。今夜もアクルスのいびきは強力だ。
(うるさいけど……今日は眠れる気がする)
だんだん意識が朦朧としてきて、アクルスのいびきが次第に遠のいていった。
魔王の薬は想像以上の効き目で、そのまますぐに眠りに落ちた。
―――こうして、いびきとの戦いは終わった。
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