表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/6

第0章:問いになる者

夕陽が王宮を黄金色に染める中、二つの月がゆっくりとアルキヤの塔の上へと昇り始めていた。


開かれた王宮のバルコニーを暖かな風が吹き抜け、ユイの銀髪をやさしく揺らす。彼女はティーカップへと手を伸ばした。


「あと五手で君の負けだな」


駒を軽く鳴らしながら、ウィンターがナイトを動かす。


「ううん、正確には四手かな」


ユイは悪戯っぽく笑いながらビショップを滑らせた。


「……え?」


「チェック。」


ウィンターは盤面をじっと見つめた。


しばらくしてから椅子にもたれかかり、大げさなため息をつく。


「君のこと嫌いだ。」


「そうは思ってないくせに。」


ユイは紅茶を一口飲んだ。


二人はよくこうして過ごしていた。


巡回の合間に。

模擬戦の後に。

王都の政務が落ち着いた束の間に。


最近の王国は平和だった。


戦の太鼓は鳴りを潜め、

城壁の向こうに広がる畑は穏やかな緑に染まっている。


ウィンターは腕を組み、暮れゆく空を見上げた。


「なあ、ユイ。」


静かな声で彼は言う。


「善って何だと思う? それと悪は。」


ユイは目を瞬かせた。


「ずいぶん急な話ね。」


「答えてくれ。」


彼女はカップを置きながら眉をひそめた。


「そうね……善は優しさとか慈悲とか、弱い人を守ることかな。悪は……残酷なこと。理由もなく命を奪うこと。ほら、普通に考えればそういうものでしょ。」


ウィンターはゆっくり頷く。


「そうか。」


ユイは目を細めた。


「その顔、何?」


「別に。」


「今、私を馬鹿にしたでしょ。」


「してない。」


彼は嘘をつきながら、机を指先で軽く叩く。


「ただ、本当の答えじゃないと思っただけだ。」


「へえ?」


ユイは挑むように口元を吊り上げる。


「それじゃあ聞かせてもらおうかな。チェス盤の賢者様?」


だが、ウィンターは笑わなかった。


その声は静かで、どこか遠かった。


「善とは、生き続けるためのものだ。」


「……」


「悪とは、そこで終わるものだ。」


ユイは首を傾げる。


「曖昧すぎない?」


「生存の話だよ、ユイ。」


ウィンターは空を見つめたまま続ける。


「突き詰めれば、世界は優しさなんて気にしない。風は君が高潔かどうかなんて気にしないし、海も君が残酷かどうかなんて気にしない。」


彼は静かに言った。


「続くものと、終わるもの。その違いしかない。」


ユイは眉をひそめる。


「冷たい考え方ね。」


「論理の中で見つけた、唯一の温もりだ。」


ユイは身を乗り出し、彼の顔をじっと見つめた。


「最近ずっと変よ。何があったの?」


その時、ウィンターは初めて彼女を見た。


本当に彼女を見た。


「考えたことないか?」


「何を?」


「俺たちが間違った定義を受け継いできた可能性を。」


彼の声は静かだった。


「善とは何か。

悪とは何か。


もし最初から嘘だったら?」


沈黙が落ちる。


「もし敵だと思っていた人たちが、自分たちこそ正義だと信じていたら?」


ユイはしばらく答えなかった。


やがて静かに口を開く。


「じゃあ逆に聞く。」


彼女の視線は真っ直ぐだった。


「力だけが全てだって信じ始めたら、どうなるの?」


ウィンターは答えに詰まった。


そして――


「もしそうだったら?」


ユイの指先が卓上で強く握られる。


「その時は。」


彼女は迷わなかった。


「たとえあなたが私の一番大切な友達でも、止められるだけの強さを持っていたい。」


ウィンターはかすかに笑った。


けれど、その笑みは目には届いていなかった。


「皮肉な話だな。」


やがて二人の間に静寂が戻る。


最後の陽光が地平線の向こうへ沈み、

青かった空が血のような橙色へと染まっていく。


ユイは手を伸ばし、盤上の駒を並べ直した。


「あなたの番。」


優しく微笑む。


「今度は四手で負けないでね。」


ウィンターは盤面も見ずにポーンを動かした。


風は少しずつ冷たくなっていく。


そして彼は呟く。


彼女へではなく、

まるで自分自身へ語りかけるように。


「いつか、もう一度同じことを聞く。」


静かな声だった。


「だけどその時は――」


彼は目を伏せる。


「問いを投げる側じゃない。」


そして。


「問いそのものになっている。」


その言葉の意味を、

あの時のユイは理解できなかった。


だが――


いつか必ず。


彼女は理解することになる。


※本作は英語から日本語に翻訳したもののため、不自然な表現や誤りがある場合があります。お気づきの点があれば、ご指摘いただけますと幸いです。修正させていただきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ