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蒼零戦姫  作者: ジョンソン(P)
第一章
4/10

殴り込み

霧雨(キリサメ) (アオイ)

8月21日生まれ

年齢 27歳

身長・スリーサイズ 183cm B93 W61 H91

髪色・髪型 黒色 ポニーテール(ロング)

目の色 群青色

趣味 妹を愛でる ゲーム スポーツ観戦

好きな食べ物 あん肝

嫌いな食べ物 ラム肉


霧雨(キリサメ) 藍香(アイカ)

6月12日生まれ

年齢 25歳

身長・スリーサイズ 172cm B84 W57 H86

髪色・髪型 濃茶色 ショートボブ

目の色 青藍色

趣味 人助け ガーデニング お笑い鑑賞(漫才派)

好きな食べ物 蒼雅の手料理

嫌いな食べ物 インスタント麺

―――――――――――――――


「がはっ!!!?」


「おら、さっさと吐きな!」


「わたっ、わたしは...なにもしらっ、ぐふっ!」


「まだシラを切るつもりかい?強情だねぇ!」


「ゲボッ!ゴホァッ!!?」


「やめろ」


「ああん?」


「部屋を血で汚すつもりか?」


「そんなもの、下賎な連中(親衛隊)に掃除させりゃいいじゃないの」


「そういうことを言ってるんじゃない。間違えて殺すようなことがあれば、会長に迷惑をかけることになる」


「今さら何を言ってんだかねぇ。人死なんざ珍しくもない」


「それはあくまで外での話しだ」


「心配しなさんな。死なない程度に痛めつけることには慣れてるからねぇ!」


「ぐふぅっ!!!」


「非効率的なことを...君」


「はぁ、ふぅ、な、なん...です、か」


「本当に何も知らない?李滅龍のマネージャーさん」


「し、知りません!事務所も寝耳に水で、ほんと、書類と金だけ置いて消えたんです!!」


「編入理由も分からないと...芸能事務所って、そんな一方的に辞められるもの?」


「無理です!先方との契約や、向こう数年の予定等、諸々の調整もありますし!ツアーライブのチケットだって予約が始まってて!」


「でも、現に逃げられてんじゃないのさ!」


「ひっ!」


「やめろ愛美(マナミ)!」


ガチャ



「そこまで」


「っ!会長っ、お疲れ様です」


「...何しに来たのさ、椿」


「彼女が何も知らないのは本当のことでしょう。そろそろ解放させてあげましょう」


「分かりました...君、帰っていいぞ」


「え...」


「聞こえなかったのか?帰っていいと言った。ただし...」


「今日の事を口外しようものなら、命の保証はしない。君も、君の関係者も」


「ち・な・み・に、警察に言っても無意味だからね。既に手は回してあるからさ♪」


「こ、これが...レム女生徒会...」


「さ、早く消えなさい。さもないと愛美が本当に殺しかねないから♪」


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!!!!」



「...さて、邪魔者は消えたわ。愛美、レナ」


「はっ」


「なんだい?」


「李滅龍のことはしばらく様子見しましょう。それよりも、霧雨蒼雅よ。計画を次の段階に進める」


「そうかい、ついに動くのか」


「...」


「そのためにも、中等部3年の藤堂琉菜、それから高等部1年の葛城龍の動向には目を光らせておきなさい」


「葛城龍?なぜあの子を監視するんだい?」


「彼女も霧雨と同じ不良の分類。だけど霧雨と違い多くの仲間と結託している。これ以上勢力を伸ばされると厄介よ」


「ならさっさと潰しちまおうじゃないか」


「愛美、なんでも力づくで解決しようとするのは良くないわよ。レナの慎重さを見習いなさい」


「つまらないことを言うねぇ...分かったよ」


「レナ、明日の朝、全役員に通達よ」


「"戦姫の宴"...これをもって、計画を次のフェーズに移行する」


「了解しました、会長」


―――――――――――――――



失われた詩 1



全てが焼かれ、跡形も消えた。


この星に存在する生命、文化は根絶し、種の進化すら断たれてしまった。


これが汝の望みか。これが神の選択か。



ならば、せめて己が、この星の礎となろう。


運命か、遺されてしまった身として、宿命を背負おう。


彼女の意志を守るため、私は命を捧げよう。


大地に眠りし魂は、星が潰えぬ限り、永遠となる。


遠き未来のため、この大地に我が身を、礎を刻み、守ることを誓おう。


いつか、この星が再び息吹くことを信じて。




―――――――――――――――




蒼雅「朝か…」


5時30分。

この時期のこの時間はまだ少し暗い。


蒼雅「雪は降ってない...今日は少し暖かくなるかもね」


窓を開けて空気を入れ替える。


冷たい風が気だるい体に喝を入れてくれる。


蒼雅「んーっ...さて、朝の支度をしましょうか」


今日も一日が始まる。



―――――――――――――――



「はぁーい、注目~」


朝のHR。

間延びした声が開始を告げた。


「今日は~、このクラスに入ることになった子を紹介しま~す」


おっとりとした話し方をする担任...穂村早苗(ホムラ サナエ)先生は、少しご機嫌な様子。


蒼雅「...はぁ」

間違いなくアイツのことよね。まさか同じクラスだとは。なんとなく嫌な予感はしていたが…


早苗「なんとぉ~、テレビで有名な子よ~」


蒼雅「早苗ちゃん、それ言っちゃうとサプライズにならないわよ」


早苗「あら、確かにそうね~。先生うっかり」


クラスが少しザワつく。


八雲「蒼雅、あんた誰が来るか知ってんの?」


蒼雅「...まぁ」


八雲「マジ?」


早苗「それじゃ~、どうぞ~」


早苗ちゃんの合図でドアが開く。


滅龍「ども〜」


瞬間


「「「えぇぇぇぇぇぇ!!!??」」」


クラスがどよめいた。


梢「こ、この子って、確か!」


菜々子「?知っている方ですか?」


瑞希「ちょなこはあまりバラエティとか見ないもんね。あの子は最近テレビで引っ張りだこのアイドルだよ」


クラスのほとんどがザワつく。皆予想外の人物に驚いてるみたい。


八雲「あんた、なんで教えてくんなかったの?」


蒼雅「話すほどのことじゃないと思って、ね」


八雲「むー...昨日の夜に話題を振ったのはそういうことだったんだね」


早苗「はいはーい注目してね~」


早苗ちゃんが手をパンパンと叩く。


早苗「それじゃあ自己紹介しましょうか~」


滅龍「はい...皆さんはじめまして!李滅龍です!」


「「「きゃー!!!」」」



滅龍が笑顔で自己紹介すると、黄色い声が上がる。うちって意外とミーハーな連中もいるのよね。


早苗「色々聞きたいこともあるでしょうから~、1時限目の私の授業は自由時間にしま~す」


八雲「やった!」


早苗ちゃんはうちのクラスに少々甘い。それでいいのか担任。


早苗「とりあえず、HR始めますね~。滅龍さんの席は~」


早苗ちゃんが辺りを見渡す。嫌な予感がする。


早苗「あ!丁度蒼雅さんの隣が空いてますね~」


蒼雅「...やっぱりね」


わざとらしい。空いてるとこなんて私の隣くらいしかない。


滅龍「へぇ~...」


滅龍は私を見ると、ニヤニヤと笑う。


早苗「それじゃ~、席についてね」


滅龍「はい」


滅龍は私の隣に座り、こちらを見る。


滅龍「よ・ろ・し・く・ね♡」


蒼雅「お断りよ」


滅龍「ひひっ」

ニタニタと笑う滅龍。腹立つわね。


早苗「それじゃあHR始めま~す」



―――――――――――――――



蒼雅「ったく…よりによって、なんでA組(うち)に来るのかしら」


滅龍「アタシが決めてるわけじゃないから、知ったこっちゃないわ」


1時限目前の休み時間に、人気のない廊下の端へ滅龍を連れてきた。


蒼雅「アンタに1つ、言っておくことがあるわ」


滅龍「何かしら」


蒼雅「ここは金持ちのボンボンが通う学校。荒事の対極にいる連中ばかり。だからこの学校にいる間、昨日のような振る舞いはやめてもらいたい」


滅龍「はっ!なんだ、そんなこと」


滅龍「流石に弁えてるわよ。自分が有名人だって自覚はあるし。...それに」


滅龍は瞳をギラつかせる。


滅龍「アンタと殺り合うの時は、2人っきりがいいからなァ」


蒼雅「...1人で行動するのは控えた方が良さそうね」


滅龍「...アンタ、なんで戦うことに消極的なわけ?あれだけ強いってことは、それなりにやってきたんでしょ?」


蒼雅「だからこそよ。争いなんて無い方が良い。平和が1番よ」


滅龍「刺激がなくてつまらなそうな考えね」


蒼雅「今でも十分刺激的な生活を送ってるわ」


滅龍「そうは見えないけど」


蒼雅「...」


滅龍「思うところはあるみたいね」


蒼雅「別に...」


滅龍「だけどアンタも災難ね...平穏を願ってても、立場なのか環境なのか、そうさせてくれないみたいね」


廊下に目をやると、5人程が横一列に並んでこちらに歩いてくるのが見えた 。


滅龍「今日学校に来た時から張り詰めた空気を感じていたけど、これってアンタのせいだったわけだ」


蒼雅「どうかしら。明らかおかしいタイミングの編入に誰かしらが怪しんだとか?」


滅龍「だったら好都合」


滅龍の目付きが変わる。ひと目でわかるほど凶悪に歪んだ。


滅龍「アイツら皆殺しにして、親玉に会わせてもらうとしよう」


蒼雅「待ちなさい。さっき言ったことと違うじゃない。転校初日に悪目立ちする気?」


滅龍「誰も見てないしいいでしょ」


蒼雅「そもそも、まだアンタの客って決まったわけじゃないでしょ?」


滅龍「ケッ...」


話している内に、連中が私達の前に立ち塞がった。


「…他の奴と一緒だとはな」


「そっちは放っておきなさい。霧雨蒼雅、少し付き合ってくれる?」


やはり、私に用があったか。


蒼雅「誰よ、アンタ達」


タイを見るに高等部の連中ね。どいつも知らないわね。


「答える義理はない。黙って付いてこい」


蒼雅「嫌よ。何者も分からないやつに理由もなくついて行くわけないでしょ」


滅龍「えー?ついて行ってみてもいーんじゃない?」


蒼雅「あんたは黙ってなさい」


「チッ…大人しく従えよっ!」

シュッ!


連中の1人が懐から何かを取り出し、私に突きつけてきた。


私はその場を動く事無く手首を掴み捻りあげる。


「うぐぁっ!」


蒼雅「スタンガン?…物騒なもの持ってるわねー」


「は、離せ!」


蒼雅「分かった」

スパァン!


「ぐあぁっ!」


私は手首捻りあげながら相手の顎を掌底で叩き、その勢いのまま相手を吹き飛ばした。


「こいつ!」


今度は隣にいた奴が私に攻撃を仕掛けてくる。


蒼雅「今度はバタフライナイフか…」


私は体を半歩後ろに下げ、足を出した。


「ぬわっ!」

ドンッ


相手は盛大にコケた。


蒼雅「はい、行ってらっしゃい」


ドゴォ!


「んぐっ!!」


コケた相手の腹部を蹴り飛ばし、さっき吹き飛ばした奴と同じ方向に吹き飛ばした。


「ぐへぇ!」


「あがっ!」


2人はそのままぶつかり、その衝撃で気絶する。


「こいつっ!」


蒼雅「どこのアホか知らないけれど、暴れたいのなら他所でやってくれないかしら?朝から余計な体力を使いたくないわ」


「クソガキがぁ!」


滅龍「…」


連中の1人が滅龍を後ろから抱き寄せ、ナイフを顔に突き付けた。


「大人しくしとけよ。さもないと友達の顔に穴が空くぞ?」


蒼雅「あちゃー…」

つい頭を抱えた。しーらない。


滅龍「いやーん、蒼雅ちゃん助けてぇ」


「へっ、どうするよ!?」


蒼雅「アホらし…好きにしなさいよ」


「あん?」


滅龍「連れないなぁ…美少女アイドルを助けるチャンスだってのに」


蒼雅「知るか…自分で美少女とか言うな」


「なに呑気に喋ってんだ!ああっ!?」


滅龍「うるせェなァ…耳元で喋んなよ」


滅龍の目付きが変わる。


「へ?」


滅龍はおもむろにナイフの刃を噛み


バキン!


そのままへし折った。


「ちょっ」


滅龍「べっ…オラァ!」


ドゴォ!


「んぐっ!」


肘打ちを鳩尾に喰らい、相手はうずくまる。


滅龍「オイてめェ…アタシの顔になんつーもん突きつけてくれてンだよ?」


「がっ…!」


滅龍は片手で首をおもむろに掴み、ゆっくりと相手を持ち上げた。


滅龍「ま、アンタの粗末なナイフ捌きじゃ、撫でることすら出来ないけどねー 」


「がっ、はぁ…」


「その子を離しなさい!」


相手の仲間が叫ぶ。


滅龍「いいぜ…ほらよォッッ!!」


滅龍は首を掴んだまま、叫んだ女に向かって投げつけた!


「キャアァァァッッ!!!」


ドゴォン!!


ぶつかった2人はそのまままとめて吹き飛んでいく。


蒼雅「デタラメなバワーね…」


滅龍「アレくらいならアンタも出来るでしょ?」


蒼雅「流石にあそこまでは飛ばないわ」


かなり長い距離吹き飛んでいったのを遠目に眺める。気絶してるわね。


滅龍「ったく、なーにがお嬢様よ。こんな物騒なもの携帯しといてよく言うわ」


蒼雅「…お嬢様って言っても色々あるんでしょ」


とは言っても、ここまでの蛮行は初めて見たかも。凶器を持ち出すなんて…


滅龍「さてと…ねぇ、こいつどうする?」


滅龍が残った1人を指さした。


「ひっ!」


蒼雅「何もしてこないなら放っておきなさい。そろそろ授業も始まるし」


「ほっ…」


滅龍「えー?拷問して親玉吐かせよーよ」


「ひっ!」


蒼雅「そんなことして誰が得するの」


「ほっ…」


蒼雅「…いや待て、割とアリかもね」


「えぇ!?」


少し考えたが、確かに親玉を潰せば、今後絡まれることはないかもしれないわね。


滅龍「でしょ?…んじゃま、洗いざらい吐かせようか」


蒼雅「血は流さないようにね。掃除面倒だし」


滅龍「大丈夫大丈夫。精々へし折っていくだけだし。色々」


「あ…あ…」


蒼雅「折るより、繋がってるところ外してった方がいいんじゃない?流石に戻せないと可哀想でしょ」


滅龍「また力加減が難しい事を…ま、とりあえず左肩から試していこうかな」


「分かった!話す、話すから!」


蒼雅「ギブが早すぎるわね…」


滅龍「あーあ、せっかくの人力脱臼祭りが…それだけ試しちゃだめ?」


「い、嫌っ!」


蒼雅「こらこら。快く協力してくれるんだから、やめなさい」


滅龍「はいはい」


蒼雅「それじゃ、時間もないし、手短にね」



―――――――――――――――



「わ、わわわ…やっぱ霧雨先輩はおっかないッス…で、でも李滅龍も同じくらいおっかない…」


「な、なぁ美衣?あたし、やっぱやめるわ」


「えぇ!?な、何でッスか!?」


「わ、私も…流石に霧雨は怖いし…」


「李滅龍も、ヤバすぎってゆーか…」


「だ、駄目ッスよ!ここで帰ったら(リョウ)さんにどやされるッスよ!?」


「いや…流石に龍さんより怖いでしょ、あの2人」


「なー?」


「うぅ…」


「ごめんな、美衣。この埋め合わせはまた今度してやっからさ。そ、それじゃ教室戻るわ」





「うぅ…先輩たちの役立たずっ!」


「はぁ…ウチ一人になっちゃったッス…どうすれば」


「やめて帰ったら確実に龍さんに殺されるッス…でもあの二人に下手に接触したら…」


「うぅ…考えろ、考えろウチ~!」


「…はっ!そうだ、この手があったッス!」


「ふっふっふ、我ながら妙案ッスね~!」



―――――――――――――――



蒼雅「高等部1年C組、鬼屋敷(オニヤシキ) (シノブ)、か」


1限目の終わり。教室にて。


あの後、洗いざらい吐かせ、気絶した連中を階段裏の倉庫にぶち込み、しれっと授業に出た。


滅龍「なに、知ってんの?」


蒼雅「名前だけね」


昨日八雲から送られた生徒会リストに載っていた名前。確か…


蒼雅「生徒会会計…2人いるうちの1人か」


滅龍「生徒会長、多賀城(タガジョウ) 椿(ツバキ)の部下ってわけね」


蒼雅「…よく知ってるわね」

昨日情報収集してただけはある。


滅龍「ま、生徒会長くらいはね。この学校じゃ教師より権力があるみたいだしー」


蒼雅「…そうね。名家の令嬢に大企業の息女、政治家の娘や大御所芸能人の娘などなど…そんな生徒がいる中でトップに君臨してるとなれば、もはや学園を牛耳っていると言っても過言じゃないわ」


滅龍「で、そんなやつの下にいる連中も、それなりの地位があるってわけだ。なんだっけ、鬼屋敷だっけ?そいつはどの程度なんだ?」


蒼雅「さぁね。ま、何にせよ、高等部1年C組に乗り込むのが手っ取り早いわ」


滅龍「ひひっ、んじゃ早速」


蒼雅「待て待て。アンタは引っ込んでなさい」


滅龍「は?なんでよ」


蒼雅「アイツらは私が狙いだったわ。だからこれは私の問題よ。首を突っ込まないで頂戴」


滅龍「はっ!別にそんなんじゃないわ。アタシだって個人的に用があんだ。だからアンタを利用してる。まだ学園のことはよく分からないからね」


滅龍は体をずいっと寄せてくる。


滅龍「案内してよね、クラスメイトさん」


蒼雅「はぁ…勝手にしなさいよ」

調子が狂う。こいつは隙あらば私を狙ってくるだろうけど、今はそんな雰囲気が微塵も感じられない…本当に別の目的があるのかしら。


八雲「もうすっかり仲良しだね」


蒼雅「どこがよ…ったく」


滅龍「貴方は確か…神代さんだっけ」

滅龍は八雲に対し、明らかに取り繕った態度で話しかけた。


八雲「八雲でいいよ。蒼雅とは前々から知り合いだったの?」


滅龍「ううん。知り合ったばっかだよ」


八雲「…その割には仲が良いみたいだけど」


蒼雅「誤解よ」

八雲は怪訝な様子で私を見たあと、ニコニコと笑いながら滅龍に向かった。


八雲「ね!良かったら昼休み学校案内してあげよっか?ここめっちゃ広いから昼だけじゃ回りきれないけど」


滅龍「んー…申し出はありがたいけど…」

滅龍は指に手を当てながら考える素振りを見せ


ギュッ!


私の腕に抱きついてきた。


滅龍「せっかくだから蒼雅ちゃんに案内してもらうよ!」


蒼雅「ちょっと!離しなさいよ!」


滅龍「やだー♪」


力強っ!こいつ、ガチでホールドしてるわね!


八雲「そ、そうなんだ。じゃあ仕方ないね…」

八雲の顔が引きつる。


蒼雅「…変な勘違いしないでよ?」


八雲「なんのことかにゃー?」

八雲は引きつった笑顔で答える。


蒼雅「…はぁ、めんどくさい」


滅龍「八雲さん、愛しの彼女を取っちゃってごめんね?」


八雲「は、はぁ!?べつにそんなんじゃないし!」


滅龍「大丈夫、ちょっと借りるだけだから」


八雲「…」


蒼雅「…」

八雲の表情が一瞬険しくなった気がする。

…滅龍に対して何か気付いたようね。


八雲「…」

八雲がこちらを見て、小さく頷いた。

多分八雲も私の表情から悟ったのだろう。流石親友、分かってくれたみたいね。


キーンコーン


滅龍「っと、次の授業の準備しないとー」


八雲「だね」


蒼雅「…」


2限目前に昼休みの予定が埋まってしまった。


…なるほど。高等1Cに乗り込む名分を得たってわけね。

私と2人で行動すること、上級生の教室棟に行くことに関して違和感を持たれないために。


やってくれるわね、ったく。




―――――――――――――――


職員室


閃梨「え?李滅龍の監視ですか?」


「ええ。生徒会からの要請でね」


閃梨「何故ですか?」


「さぁ?理由は聞かされてないわ」


閃梨「…いくら生徒会からでも、理由もなく生徒1人の監視なんて無理ですよ」


「難しく考えなくていいわ。別に四六時中監視しろってことじゃないみたいだし。出来るだけ近くに居なさいってこと」


閃梨「…そう言われましても」


「ま、その為にわざわざ中等3Aの副担に指定されたわけだし」


閃梨「ま、待ってください!?私が3Aの副担ですか!?」


「ついさっき教頭から連絡があってね。貴方を中等3Aの副担にするって」


閃梨「前任の先生は…」


「解放されたーって喜んでたわよ」


閃梨「そんな…」


「ま、貴方にとってはむしろ好都合じゃない?なにせ3Aには、あの霧雨が居るんだし」


閃梨「…それのどこが好都合なんです?」


「貴方、彼女に随分ご執心みたいで。彼女が1年の頃から度々、指導されてるとか」


閃梨「したくてやってるわけではありません。誰も指導しないからやっているんですよ」


「そりゃ誰も得しないからよ。ただでさえ金持ち連中に気を遣わないといけないっていうのに、不良になんて構ってらんないでしょ」


閃梨「…」


「それにあの子はC待生…A待生と比べたら利益はかなり少ない。そりゃ他の生徒より多少冷遇されても仕方ないでしょ」


閃梨「っ!」


「…っと、喋りすぎたわね。次の授業があるから行くわ。さっきの件、よろしくね」


閃梨「…はい」




4限目前。

授業がない私は職員室のデスクで書類整理をする。

唐突な要請を告げ、好き勝手言い残し去っていった同僚に対し怒りの感情を覚える。


閃梨「…クズ野郎が」


「まぁ、随分口が悪いですね~。誰に似ちゃったのでしょうか~」

と、後ろから緩い口調で話しかけられる。


閃梨「早苗さん…」

穂村(ホムラ) 早苗(サナエ)先生…担当教科は国語全般で、専門分野は現代文。そして中等3ーAの担任だ。


学生時代私が世話になった先輩の1人である。


早苗「私が指名したわけじゃないけど~、急にうちの副担任にさせられちゃって、ごめんね~」


閃梨「…さっきの話、聞いてたんですね」


早苗「聞こえちゃったの~。ごめんなさいね~」


閃梨「いえ、気にしないでください。それより、少し聞きたいことが」

予備のマグカップにお茶を注いで早苗さんに差し出す。


早苗「あらあら、ありがとう。…聞きたいことって~?」


閃梨「今回の話、いつから知っていましたか?」


早苗「えっと、ついさっきかな~。そもそも、李さんは今日が初登校ですし~」


閃梨「その、李滅龍に何か問題があったんですか?生徒会が監視しろと言うくらいなら、それなりの理由はあると思うんですが」


早苗「そうね~、彼女が有名人だからってことはない~?」


閃梨「…おそらくは無いでしょう」


早苗「ん~…あ!そうね~、これが理由かは分からないんだけど~」


閃梨「何ですか?」


早苗「最初に会った時~、彼女から"黒いモヤ"のようなものが見えたの。闘気というか~殺気というか~…なんとなく、蒼雅さんに似た雰囲気を感じたの~」


閃梨「霧雨に?」


早苗「ええ。今はあまり感じないのだけれど~、あの子が入学して間もない頃に見えていたオーラと少し似てたのよね~」


閃梨「それは…気になりますね」


早苗「あくまで私の感覚よ~?」


閃梨「《嵐の舞姫》と称される程の実力を持つ貴方の意見です。十分考慮に値するでしょう」


早苗「持ち上げすぎよ~」


早苗さんはニコニコと笑いながらお茶を飲み干す。


早苗「…閃梨さん、これから大変になると思うけど、1人で背負わないようにね~」


途端、早苗さんの表情が変わる。


閃梨「と、言いますと?」


早苗「…この学園の秩序と均衡は再び崩れ始めているわ~。それも、"10年前"とは違う形で」


閃梨「…違う形?」


早苗「利権だとか、階級格差とかではない、何か別の力が働いてるような…もしかすると、この学園の環境が変わってしまう程の何かが現れそうな予感が…」


閃梨「何か、知っているんですか?」


早苗「確信はないのだけれど、生徒会の動き方や、管理体制を見ていると、そんな風に感じてしまうと言いますか~…」


早苗「李滅龍さんの時期外れの編入も、偶然とは思えないの。ただ一身上の都合で来たっていう感じでもないみたいだし」


閃梨「そうなんですか?」


早苗「…うちでは入学時の身上調書の扱いが他より緩いっていうのは知ってるかしら~?」


閃梨「ええ、まぁ」


うちの学園は入学時に提出する書類が最低限であり、中でも、身内や過去に関する情報はぼやかしても通ってしまう。


理由として学校側があらゆる手を駆使して、あらゆる情報を精査するため、隠し通すのがそもそも難しいからだ。なので書類は形でしかない。


お嬢様方に危険がないよう、殺傷に絡む犯罪歴や犯罪組織との交流や身内の不祥事等があるものはそもそも入学出来ない。そういった不穏分子を摘むことに余念はないが、それに該当しないものであれば特に咎められることもない。


なので逆に言ってしまえば、そこに絡まなければ、どんな生い立ちだろうが通えてしまうのがこの学園。


実際、家族と縁を切ってこの学園に通っている子もいる。中には未成年が働いてはいけないような所で働いて、そのお金で授業料を払っている生徒もいる。


だがそれも咎められることはない。学校法人は客商売。払う物を払えば誰でも、というのが善きであり悪きでもある。


有力者のご息女に危険さえなければ、後の有象無象はどうでもいいのだ。


早苗「李滅龍さんの身上調書、名前しか記入されていなかったの。血液型も生年月日すらも、一切の情報が」


閃梨「そうなんですか?でも、そういう生徒もいるにはいますけど、何か気になることでも?」


早苗「調査を担当してる職員の報告でね、彼女の身内に関する情報と、アイドルをやる以前の過去が一切出てこなかったらしいのよ~」


閃梨「…一切?」


早苗「ええ。まるで、抜き取られたかのように~」


閃梨「そ、そんな馬鹿な…あの職員らは交友関係、行動歴…利用した店や地元の情報は大概掴めるというのに」


早苗「本当よ~。なにせ彼女の親の情報がないもの。生まれた病院、DNAの鑑定情報すら残ってないらしいの」


閃梨「…そんな人間、存在するんですか?」


早苗「…1人、心当たりはあるわね~」


閃梨「…誰です?」


早苗「それは…蒼雅さんよ~」


閃梨「え?霧雨、ですか?」

そこでアイツの名前が出るのか。


閃梨「って…いやいや、待ってください、アイツは家族が居るでしょ?母親の情報もあるし、そもそも姉はレム女の卒業生じゃないですか」


早苗「それはね~。…でも、彼女にはどうしても出てこない情報があるの~」


閃梨「なんです?」


早苗「5歳から10歳にかけての5年間の記録と、彼女の"父親"の情報よ~」


閃梨「それって、複雑な家庭環境だからってことは…」


早苗「調査の対象には、離婚歴や離婚した相手とその身内も含まれるんだけれど~、その痕跡は一切ないの。これは藍香ちゃんも同じでね~」


閃梨「病院の出産歴は?」


早苗「そこはちゃんとあったの。でもDNAの情報は消去されてるみたいね~」


閃梨「そんなことって…」


早苗「ないことも無いわ~。病院側となんらかの取引をして、情報操作するなんて、相続問題で揉めてる令嬢さんとかもよくやるみたいだし~」


閃梨「…そうなんですか」


早苗「ちなみに、精子バンクの情報にも調査が入ってるみたいだけど、提供された記録はないみたいよ」


閃梨「…何だか、頭が痛くなる話ですね」


早苗「そうね~…でも問題は」


閃梨「空白の5年間、ですか」


早苗「そうね〜」


閃梨「…そういえば、同じクラスの神代は幼なじみでしたよね?何か知ってるんじゃないんですか?」


早苗「蒼雅さん、小学校は5年生の中頃と6年生の1年半しか通ってなくてね〜。神代さんとはそこで出会ってるの。だから、幼なじみというけれど、実際はそこまで長く一緒にはいないみたいよ~」


閃梨「…であれば、姉の藍香さんは?」


早苗「うん…藍香ちゃんが学生時代、途中から休みがちになったのだけれど、それと関係はありそうなの~」


閃梨「…もしかして、妹の看病ってやつですか?」


早苗「そう。でもそれ以上のことは語らなかったわ~」


閃梨「…そうですか」

語らなかった…というより、おそらくは深く聞かなかったんだろう。


もしかすると本人達にとってはデリケートな問題なのかもしれない。


閃梨「…もし、李と霧雨の境遇が近いものだとしたら、これ以上は踏み込まない方が良いかも知れませんね。やはり、理事長に言って生徒会の要請を取り消してもらった方が…」


早苗「…いいえ、監視の話は受けるべきよ~」

意外な返答だった。


閃梨「どうして?」


早苗「下手に生徒会を刺激すれば貴方の立場が危うくなる。それに、おそらくは李滅龍さんと、そこに関わるであろう同じクラスの蒼雅さんに対して生徒会も何かしらアクションを起こすはずよ」


閃梨「ですが…」


早苗「…逆に考えるの。監視ではなく、保護観察だと。生徒会が何かしら手を打って、あの二人に危険が及びそうになったら、貴方が助けてあげられるように」


閃梨「…なるほど、そう考えれば確かに」

しかし1つ懸念がある。


閃梨「…しかし助ける、と言われましても、私は霧雨に手も足も出なかった。それだけアイツは強いですし、私の助けを必要としないでしょう」


早苗「あくまで名目の話よ~。貴方が生徒会に目を付けられないように役目を利用するための、ね」


早苗「…それに、強さとかではなく、一教師として、生徒を助けられる場面はあるはずよ。もしかすると既に助けを必要としてるのかも…」


閃梨「…どうでしょうか。まぁ、そもそも霧雨を指導するのは私の役目でもありますし、李滅龍についても、見守れるだけ見守ってやります」


早苗「その意気よ~。…さて、つい長話になっちゃったわね~」


閃梨「…すいません。相談に乗ってもらって」


早苗「全然いいわよ~…っと、そうそう」


閃梨「なんです?」


早苗「さっき言ってた蒼雅さんの過去のことだけど〜」


早苗「あの子に直接聞いてみたらどうかしら?あの子と仲良くなれば、案外あっさり教えてくれるかも」


閃梨「仲良く…はは、罪華さんみたいなことを言いますね」


早苗「それはそうよ。…あの子は私達にとって"特別な存在"だから~」


閃梨「え?」


早苗「あらいけない。余計な事を言っちゃたわね~…それじゃ、私はこれで~」


閃梨「あっ、ちょっと!」


早苗さんはそそくさと職員室を出ていった。


閃梨「アイツが特別…?どういう意味だ?」


珍しく、教師として公平性に欠ける発言をした早苗さん…彼女が言った言葉が反芻する。


閃梨(霧雨…お前は一体…?)


空白の5年間…片親の存在…気になることが多くなっていく。


霧雨…考えれば考えるほど分からなくなっていく。3年間見てきたお前は、一部ですらないのか?



…なんでアイツのことばかり考えているんだ私は。


でも、どうしても気になってしまうのは何故だろうか…



―――――――――――――――


昼休み。


滅龍「へぇ~…結構種類豊富ね~。だけどアレね、お嬢様学校って言う割に価格は庶民レベルなのね」


蒼雅「いいからさっさと選びなさいよ」


何故か私は滅龍(コイツ)と学食に来ている。


滅龍「冷たいな~。クラスメイトなんだから優しくしてよ」


蒼雅「高等部に行くって言ってんでしょうが」


滅龍「はいはい…んじゃこれー」


食券を選び、窓口に出す。


「あら、蒼雅様。珍しいですね」


と、カウンターの奥にいるメイドさんが話しかけてきた。


蒼雅「ええまぁ。転校生を案内するついででして…」


「蒼雅様!蒼雅様ではありませんか!」

不意に後ろから声が掛かる。


振り返ると、そこには見覚えのあるような無いような生徒が何人かいた。


蒼雅「えっと、貴方たちは…」

よく見ると一番最前にいる生徒は高等部のネクタイをしている。先輩か。


「いやですわ蒼雅様!わたくし、蒼雅様FCの会長ですわ。何度か顔を合わせていましてよ?」


蒼雅「あ、ああ、そういえば…」

思い出した。確か名前は…


蒼雅「高等部1年の(サクラ)(ノミヤ) 聖良(セイラ)…さん」


聖良「まぁ!わたくしの名前を覚えてくださってるなんて…感激ですぅ!」


「「「羨ましいです!」」」

後ろにいる他の会員らしき人が叫ぶ。


滅龍「何これ?知り合い?」


蒼雅「まぁ、うん」


「ふふっ、相変わらず人気者ね」

メイドさんが笑う。


蒼雅「いや、あの人は少し特殊といいますか…」


聖良「あら?蒼雅様、そちらの方は確か例のアイドル転校生ですわよね?」


蒼雅「えっと、はい。ちょっと案内を頼まれまして…」


滅龍「ども~?」


聖良「…ぐぬぬ、またライバルが増えますのね」

悔しそうに滅龍を睨みつける桜ノ宮先輩。


蒼雅「えと…」


聖良「分かっています!分かっていますとも!貴方は飄々としていながらも困っている人がいれば我先にと助けに行かれる性分!…そして何より美しい…」


聖良「…ですが!アイドルだろうと転校生だろうと!蒼雅様を独り占めなど少々贅沢過ぎますわよ!」


蒼雅「…えーと」

面倒くさいわね…このまま絡まれ続けられると、昼休みが終わってしまう。


「はい、出来ましたよ。3種のカツ定食特盛と、ギガ盛りトルコライスです」


蒼雅「来た!」

良いタイミングで料理が出来上がる。


滅龍「早いねぇ。さ、席につこっか蒼雅ちゃん」


蒼雅「そうね…」

これで解放され


滅龍「…あ!聖良先輩もご一緒にどうです?」


蒼雅「はぁ!?」


聖良「えぇ!?そ、そんな、わ、わたくしごときが蒼雅様とお食事を共にするなどと…」


滅龍「アタシ、この学園のことよく知らなくて…先輩がよろしければ、学園のこと教えてください!」


聖良「…な、なんて良い子なのかしら!」


蒼雅「滅龍、どういうつもりよ!」

小声で滅龍に詰め寄る。


滅龍「乗り込む前に高等部の情報を仕入れとこうと思ってね。アンタがいればいくらでも教えてくれそうだ」


蒼雅「…勝手なことを」


滅龍「そんな長居はしないさ。サクッと聞いてサラッと飯食って行っちまおうや」


蒼雅「…分かったわよ。ったく…」


私は観念して席に着いた。




―――――――――――――――



聖良「はぁ~…蒼雅様とお食事を共にするなんて、わたくし、幸せすぎて昇天してしまいそうです…」


蒼雅「…」


無言でカツを頬張る。

成り行きで桜ノ宮先輩と食事をとる事に。

ちなみに、彼女の後ろに控えていた他のメンバーには帰ってもらった。


滅龍「ちゃんと噛んで食べなよ~?」


蒼雅「うるはい」


滅龍「食べるか喋るかどっちかにしなさいよ…」


蒼雅「んく…アンタこそ、喋ってないで早く食べなさいよ…よりにもよって食堂一ボリュームあるやつ頼むなんて…」


滅龍「こんくらい食べないと持たないのよ。…てか、アンタには言われたくないわ。何枚あるのよ、そのカツ…」


聖良「…不思議ですわね。それだけ食べてもスタイルが崩れないなんて…」


蒼雅「…まぁ、それなりに鍛えてますから」


滅龍「…それより、先輩。先輩って高等部の1年、ですよね?」


聖良「ええ。それがどうかしましたか?」


滅龍「…あの、鬼屋敷忍っていうC組の生徒、知ってますか?」


聖良「…な、なぜその名前が出るんですの?もしや、お知り合いなのかしら?」


滅龍「いえいえ…その、実は」


蒼雅「さっき中等部生徒会から伝言をもらいまして。鬼屋敷先輩が滅龍の学校案内を担当してくれるらしいんです。そのために連れていくつもりだったんですが、私、鬼屋敷先輩の顔を知らなくて…」


聖良「な、なるほど…」


滅龍「…へぇ」


口から出まかせだけど、まぁ上出来でしょう。


聖良「あの人は少し変わっていると言いますか…その、正直苦手で、同じクラスですが話したことはありませんの…」


蒼雅「…同じクラスなんですね」


聖良「ええ、一応…」


滅龍「なら話は早いですね。聖良先輩、鬼屋敷先輩のところに連れて行ってください」


聖良「えぇ!?わたくし、話したことはないと先程!」


蒼雅「…駄目、でしょうか?」


聖良「~っ!そ、蒼雅様っ、そ、そんな困った表情を見せられてしまったら…断れませんわ!」


蒼雅「ありがとうございます」


聖良「っ!?そ、その笑顔は反則ですわ…!」


滅龍「…アンタ、結構悪どいよね」


蒼雅「利口と言ってちょうだい」


急ぎ目で料理を口に運ぶ。


蒼雅「んぐ…そうと決まれば、早く食べてしまいましょう」



―――――――――――――――


-高等部校舎-


聖良「ここが1年C組の教室ですわ」


蒼雅「…」


食事を終え、ようやく高等部1年C組へとたどり着いた。


滅龍「で、乗り込むの?」


蒼雅「…桜ノ宮先輩、差し支えなければ呼んでいただいても?」


聖良「だ、大丈夫ですわ。呼んでまいります」


桜ノ宮先輩は緊張した様子で教室に入っていった。


滅龍「乗り込んだ方が早くないか?」


蒼雅「桜ノ宮先輩の前で事を荒立てたくないわ。あの人の立場もあるでしょうし」


滅龍「あそ。…さて、アタシは別んとこ行くわ」


蒼雅「…鬼屋敷に用があったんじゃ?」


滅龍「アタシの用事はあくまで高等部よ。ま、鬼屋敷とやらでもいいけど、そっちはアンタに任せるわ」


蒼雅「アンタの案内って名目できてるんだけど?」


滅龍「適当に誤魔化しといてよ」


蒼雅「勝手なヤツね…好きにしなさいよ」

そもそもコイツのことは知ったこっちゃないしね。


滅龍「そうする。んじゃ、午後また」


蒼雅「はいはい」


滅龍はそう言って、上の階へと向かった。


聖良「蒼雅様、お呼び致しました…て、あら?」


蒼雅「滅龍はお手洗いに行きました…それで、鬼屋敷先輩というのは」


「…」


聖良「彼女です…鬼屋敷さん、こちらが…」


「…」

鬼屋敷と呼ばれた少女がこちらを静かに見据える。

小柄な体躯に長く綺麗な黒髪…透き通るような琥珀の瞳に白い肌…美しい顔立ちではあるが、どこか儚げな…まるで日本人形のような風貌。


「…」


蒼雅「貴方が鬼屋敷(オニヤシキ) (シノブ)…先輩」


忍「…」


蒼雅「…」


忍「…」


蒼雅「…」


聖良「…あの、どうかされました?」


蒼雅「…桜ノ宮先輩。申し訳ないのですが、席を外して貰えませんか?」


聖良「え、ええ。分かりましたわ…」


蒼雅「…案内、ありがとうございました」

桜ノ宮先輩に頭を下げる。


聖良「いえいえ!それではわたくしはこれで!」


桜ノ宮先輩が去っていくのを見送り、再び鬼屋敷先輩に向き直る。


忍「…」


蒼雅「…」


忍「…」


沈黙が続く。


蒼雅「…あの」

我慢出来ず、話しかけてみる。


忍「…おおきい」


蒼雅「…は?」


忍「…中等部の3年生?」


蒼雅「…ええ、まぁ」


忍「…むむむ」


蒼雅「あの…?」


忍「…私に何か用?」


蒼雅「えっと、はい」

何この、ペースが乱される感じは…


蒼雅「…少し場所を変えても?」

私は廊下の中央にある休憩スペースを指差した。


忍「ん」

鬼屋敷先輩は小さく頷いた。


―――――――――――――――



忍「…」

場所を移し、休憩スペースの椅子に鬼屋敷先輩と向き合って座った。


蒼雅「…鬼屋敷先輩、聞きたいことがあるのだけれど」


忍「…どうぞ?」


蒼雅「朝、高等部の生徒が5人、私の所にやってきたの。話があるからついてこい、と。私が断ったら、その5人は私に襲いかかってきた」


忍「…」


蒼雅「誰の命令かと聞いたら、その内の一人が貴方の名前を出した。何か身に覚えは?」


忍「…」

鬼屋敷先輩は私を静かに見つめている。


蒼雅「…」


忍「…そう。貴方が…」


蒼雅「…はい?」


忍「…確かに聞いてた特徴と同じ…かも」


蒼雅「何の話よ?」


忍「…生徒会役員通知。貴方を倒して生徒会長の元に連れて行けば、ご褒美が出るらしい」


蒼雅「なにそれ」


忍「…さぁ?」

鬼屋敷先輩は首を傾げた。


蒼雅「さぁ、って…アンタが言ったんでしょ」


忍「…私は興味ないから」


蒼雅「あん?アンタの指示じゃないの?」


忍「…生徒会通知にはこうも書かれていた。『腕に覚えがある者や彼女に恨みを持つ者がいれば、このゲームへ積極的に参加させること』と」


忍「…私はどうでもよかったけど、生徒会役員としての仕事を無視するわけにもいかなくて。だから適当に暇そうな生徒に募集要項を配っただけ」


蒼雅「…面倒な事を」


忍「…仕事だもの。仕方ない」


蒼雅「悪びれないのね」


忍「…悪くないもの」


蒼雅「…それで、今こうやって話している間にも、私を狙ってるヤツが徐々に増えていってるみたいだけど?」


忍「…そうなの?」


蒼雅「…この休憩スペースに4人。向こうで話してる3人。それから廊下をうろうろ歩いてるヤツが2人。で、さっき下の階から上がってきた3人。そして…」

私は窓の方に目を向けた。


蒼雅「…となりの校舎から見てる2人ね」


瞬間。


近くに座っていた生徒が何かを突き立て突っ込んできた。


反射的に体を逸らし避け、間髪入れずに拳を叩き込む。


「…っ」


相手は寸前で避けて後ろに飛び退く。


蒼雅「いきなりナイフで切りかかるなんて随分な挨拶ね…ん?」

背後に殺気を感じる。


「…!」

近くにいた別の1人が私の背後から殴りかかっていた。


蒼雅「なるほど、プランBってこと」

恐らく、先程の一撃で仕留めるのが1段階目だったのだろう。


蒼雅「ふっ」

ドガシャァ!


「…っ!!」

体を捻りつつ横に逸らし、腹部に拳を叩き込む。


蒼雅「…バレバレね」

ボディーブローで浮いた相手の身体をそのまま掴み、背後に投げ飛ばす。


「…っっ!!!」


そのまま向かいの奴にぶつける。2人して後方に吹き飛ぶ。


しかし


蒼雅「っ!」


2人は吹き飛ばされながらも体を捻り、体勢を立て直し、突っ込んできた。


「…!」


「……」


1人は高く飛び上がり、もう1人は姿勢を低くして向かってくる。


蒼雅「…そうくるのね。でもっ!」


上と前からの同時攻撃。おおよそただの喧嘩では見れない連携。


蒼雅(まとめて叩き落として…っ!)


2人が私に迫る寸前、もう1つ…下から殺気を感じた。


蒼雅「うぉっ!」

咄嗟に後ろへ飛び退く。


「ちっ…」


そのまましゃがみ、前を見据える。

さっきの2人が眼前まで迫る。しかし飛び退いたおかげで勢いにブレが生じる。


蒼雅「ふっ…せいやァ!!」


「んぐぁっ…!」


「ぶふぁ!!」


上の奴の腹に拳を叩きつけつつ、体を捻り、ローリングソバットを正面の奴の顔面にぶち込む。


直撃したおかげか、今度はリカバリングすることなく、体は地面に投げ出される。


「このっ…!」


残った3人目は、懲りずに正面からやってくる。恐らくもう手はないだろう。


蒼雅「…」


いや、まだだ。


一瞬だけだが、奴の視線が左に流れた。恐らくは…


私は片足で着地し、衝撃を後ろにずらし、回転の勢いを加速させて、反対の足で回し蹴りを繰り出す。


「ぐがぁっ!」


見事に3人目の頭部に命中。そしてその勢いのまま、裏拳を繰り出す。


そして、右側…死角にいた4人目にそのまま食らわせた。


「あぐっ…」



蒼雅「"空牙獅転爪"(くうがしてんそう)…琉菜の見よう見まねだけど、上出来よね。…ま、4人目に気づかなかったら出せてなかったわ」


目の前に転がる4人。意識はあるのか、皆目を見開いている。


蒼雅「…相手が悪かったわね。…で、鬼屋敷先輩、次は貴方が相手してくれるのかしら?」


今の一連のやり取りを、驚いた様子で見ていた鬼屋敷先輩。


忍「…凄い。あの噂は本当なんだ」


蒼雅「噂?」


忍「霧雨蒼雅はニュータイプだって噂」


蒼雅「…アニメの見過ぎよ」


忍「でも実際、4人と戦って傷一つ負っていない。普通じゃないわ…。さっきまで貴方を見てた他の人たちもビビって消えちゃった」


蒼雅「褒めてくれてありがとう。で、かかってこないの?」


忍「…」


蒼雅「…時間が無いわ。さっさと終わらせましょう」


私は鬼屋敷先輩に向かいゆっくりと構えた。


「…ま、待て!」


倒れている1人が声を上げる。


「お嬢に…手を出すな!」


蒼雅「手を出すなって…先に仕掛けてきたのはそっちでしょ」


「…お嬢は戦えない。私達が守らなければいけないんだ!」


蒼雅「はぁ?」


「頼む…お嬢に手を出さないでくれ!」


蒼雅「いや別に、戦う意思がない奴に手は出さないわよ」


忍「くろむ…ありがとう。動けるなら他の3人連れて教室に戻ってて」


「し、しかし!」


忍「大丈夫。少し話すだけだから」


「…分かりました」


4人はフラフラと歩きながら教室の方へと消えて行く。



蒼雅「彼女たちは貴方の…ボディーガードか何かかしら?お嬢とか言ってたけど」


忍「古くから家に仕えている世話役の家系の子達…鬼屋敷の四大剣」


蒼雅「ふーん…」


忍「…悪かった。実力をその目で見たくてつい…」


蒼雅「そんな理由で馬鹿な連中焚き付けたの?」


忍「ううん。さっきも言ったけどそっちは生徒会の仕事」


蒼雅「貴方ねぇ」


忍「…だから悪いと言った。でも、さっきの戦いで結果的に貴方を狙う人間は減ったと思うよ」


蒼雅「そもそもアンタが余計なことしなきゃこんな事になってないわよ」


忍「それはそれ。これはこれ」


蒼雅「本当に悪いと思ってるの…?」


忍「…」


不思議そうに首を傾げる鬼屋敷先輩に、頭を抱える。


蒼雅「はぁ…まぁいいわ。とりあえず、これやめさせてくれないかしら?生徒会の仕事か何か知らないけど、いい迷惑よ。もう満足したでしょ?」


忍「…生徒会長に直接頼めば?」


蒼雅「アンタ役員でしょ?上申してくれないかしら?」


忍「それは出来ない」


蒼雅「…アンタにその権限はない、と」


忍「…」

鬼屋敷先輩は小さく頷いた。


蒼雅「じゃあ、生徒会長に会わせてくれる?」


忍「…2年の教室に行けば会えるよ?」


蒼雅「…生徒会長様は生徒会専用のサロンで、授業を受けているのでしょう?しかもそこは、生徒会執行部役員しか入れないとか」


忍「…知ってたんだ」


蒼雅「前に友人から聞いたのよ」


忍「…そう。いいよ、別に」


蒼雅「随分あっさり受け入れるのね」


忍「…今回の件、別に興味ないもの。むしろ終わってくれた方が私も楽できるからありがたいし」


蒼雅「…そう。それじゃあ早速」


「その必要は無い」


蒼雅「…やっぱり来たか」

話が早く決着したと思いきや邪魔が入る。いや、気配で分かってたけど。


蒼雅「…そういや昨日『明日を楽しみにしろ』的なことを言ってたけど、まさか生徒会主導で私を潰しに来るとは思わなかったわ」


莉子「…こんなとこで何してんのよ?」


蒼雅「鬼屋敷先輩と話してるのよ」


莉子「お願いしても無駄よ。生徒会役員を連れて行ったところで、会長はお前になんか会わないわよ」


蒼雅「行ってみないと分からないでしょ?」


莉子「素手で人殺せるような危険人物に近寄ると思う?そんな迂闊な人間じゃないわよ」


蒼雅「失礼ね。人をゴリラみたいに言って」


莉子「ゴリラじゃん」


蒼雅「黙れ豆女」


莉子「こんのぉ…!」

佐脇がキレた。沸点低いわね。


忍「…佐脇さんと知り合い?」


蒼雅「…そもそも、生徒会を嫌いになった理由がコイツ」


忍「…なるほど」


莉子「鬼屋敷!アンタ、なに仲良く話してんの!?ソイツは生徒会の中でも特級の危険人物に認定されてるヤツよ!?」


忍「…私が誰と話していようと勝手でしょ」


莉子「…チッ。風間先輩に守られてるからって調子に乗りやがって…」


忍「…姉さんは関係ないけど」


莉子「どうかしらね…風間先輩がいなけりゃ、アンタが生徒会に居座ることもなかったのに」


コイツらにも何か事情があるみたいね…


蒼雅「よく分からないけど、鬼屋敷先輩、話は通してくれるのかしら?」


忍「…私は構わないけど」


莉子「駄目に決まってるでしょ?」


忍「…だって」


蒼雅「豆女のことはどうでもいいわよ」


莉子「残念だけどねぇ、鬼屋敷より私の方が権限は上なの。私が駄目と言えば、それだけで彼女の意見は通らなくなる」


忍「…家柄の問題。1年の中でも佐脇さんは1番上」


蒼雅「…厄介な話ね」


莉子「さ、諦めて帰りなさい。もうすぐ予鈴が鳴るし」


蒼雅「ちっ…ま、いいわ。別に喧嘩売られることには慣れてるからいいけど…」

別の手を考えるしかないか。


忍「…力になれなかった」


蒼雅「いいわよ。ありがとう、鬼屋敷先輩」


忍「…ん」


莉子「さっさと帰れ!」


蒼雅「はいはい…あ、そうそう、これだけ言っておくわ」

私は周囲に聞こえるよう声を張って言った。


蒼雅「別に、かかってきてもいいけれど…怪我しても…最悪死んでしまったとしても責任は取らないわよ」


私は2人に手を振って、階段を降りた。




莉子「忌々しい女…!」


忍「…あの人、少し姉さんに似てる」


莉子「風間先輩に?…どこがよ。風間先輩はあんなに化け物じみてないわ」


忍「…そうだね」


莉子「…霧雨蒼雅。不穏分子は駆逐しなければ…」



―――――――――――――――



蒼雅「…襲って来なかったわね。脅しが利いた…ってわけじゃないか」

高等部校舎を出て、校舎を見上げる。


蒼雅「…まだこちらを見てる者がいる。でも予鈴が近いから来ないのね」


滅龍「…まだ居たんだ」


入口に立っていると、用事を終えたのか滅龍が話しかけてきた。


蒼雅「丁度降りてきたところよ。何か収穫はあった?何してたか知らないけど」


滅龍「いんや。何も無かったわ」


蒼雅「ふーん」


滅龍「さーて、教室戻ろっか。一応、学校案内って名目あるし、一緒に行くぞ」


蒼雅「…アンタがそれを言うの?」


滅龍「はっはっは!」

何が面白いんだか…



「待つッス!」


蒼雅「んぁ?」


2人して中等部校舎に帰ろうと歩き出したタイミングで、話しかけられた。


「どこに行ったかと思えばこんなとこに…ハッ!まさか、龍さんとこに殴り込みッスか!?む、無駄ッスよ!龍さんは今日もバックレて教室にはいないッスから!」


蒼雅「…はぁ?」


滅龍「なんだコイツ?」


蒼雅「知らない」

滅龍と顔を合わせて、2人して両手を開いて、知らないとジェスチャーした。


蒼雅「行きましょう」


滅龍「うん」


「ま、待ってくださいッス!」


蒼雅「…何よ?」


「えと…あ!ウチ、中等部2年の平賀美衣(ヒラガ ミイ)っていうッス!いや~会えて光栄ッス、霧雨先輩、李先輩!」


蒼雅「はぁ」

平賀美衣という少女は私の手を握ってニコニコと自己紹介した。


癖のあるショートヘアに、頭がけしたゴーグルが特徴の小柄な少女。


…鬼屋敷先輩といい、佐脇といい、滅龍といい、やけに小さいのと関わることが多いわね。


滅龍「で、何か用かな?」


美衣「あ、そうそう!見たッスよ、お二人さん!今朝、武器を持った先輩方を軽く蹴散らしていた所!」


蒼雅「…あら」

見られてたのね。まぁ、比較的人目のつきにくい場所とはいえ、あれだけ騒げばそりゃ見てる人もいるわよね。


滅龍「…消すか」

滅龍が物騒な事を言い出す。変な噂流されたくないのかしら。


美衣「待ってください待ってください!!別に誰かに言いふらしたりしないッスよ!」


滅龍「…じゃあ何よ?」


美衣「いやぁ、実はッスね、今日のお2人を見て、凄くカッコイイなと思ったんスよ」


蒼雅「はぁ」


美衣「…それで、ウチも2人みたいにカッコよくなりたいって思ったッス…だから」


美衣「ウチを舎弟にしてくださいッス!」


蒼雅「帰るわよ」


滅龍「ばいばーい」


美衣「待つッス!待つッス!」


蒼雅「私、不良と呼ばれてはいるけど舎弟は取らない主義なの」


滅龍「今日転校してきてすぐ後輩侍らすのはちょっと…」


美衣「そ、そんなこと言わずに!ウチ役に立つッス!どんな命令でも従うッスから!」


蒼雅「…どんな命令も聞くのね?」


美衣「はいッス!」


蒼雅「…じゃあいいわよ」


美衣「本当ッスか!?」


蒼雅「ええ…じゃあ最初の命令。舎弟を辞めなさい」


美衣「そ、そんなぁ!?」


蒼雅「どんな命令でも従うのでしょ?」


美衣「う〜…!」


滅龍「可哀想に…そんな意地悪しなくても、ねぇ?あ、じゃあアタシの舎弟やる?」


美衣「いいんスか!?」


滅龍「うん…じゃあ最初の命令。ここで全裸になって!」


美衣「えぇ!?」


滅龍「大丈夫。もう予鈴近いし、見てる人いないから!」


美衣「うぅ…」

うわ…タチ悪いわね。


滅龍「出来ないの~?じゃ、悪いけど舎弟は諦めて」


美衣「…わ、わかったッス…」


そう言いながら、セーターを脱ぎ始める。


蒼雅「ちょ…何してんの」


美衣「うぇぇ~…」

ぽろぽろと涙を流しながら、ネクタイを外しシャツのボタンを外し始める。


蒼雅「…命令。脱衣は今すぐやめなさい」


美衣「…え?」


滅龍「ん~?アンタ、この子クビにしたんじゃないの?」


蒼雅「…さっきのは冗談よ。アンタに預けるくらいなら、私が面倒見るわ」


美衣「霧雨先輩~!」

うるうるとした目でこちらを見つめる美衣。


蒼雅「…はぁ。仕方ないわね」


滅龍「…だってさ、平賀さん。残念だけど、アタシは姉貴分にはなってあげられないわ。蒼雅ちゃんに可愛がってもらってね」


美衣「はいッス!」


蒼雅「…」

滅龍のやつ、私に押し付けるためにわざとあんな事言い出したのね。…ほんと、無駄に頭が回るんだから。


美衣「…ハッ!もうこんな時間!ウチ、そろそろ戻るッス!それでは霧雨先輩!これからよろしくッス!それじゃ!」


蒼雅「…はいはい」

美衣はさっきまでの涙が嘘のように晴れやかな笑顔で帰っていった。


滅龍「良かったね~、便利な後輩ができてさ~」


蒼雅「…面倒なことしてくれたわね」


滅龍「なんの事かにゃ~?」


蒼雅「はぁ…。さっさと戻るわよ」



―――――――――――――――



美衣「ふぅ…一時はどうなるかとかと思ったけど、上手くいってよかったッス…」


美衣「…でも、ここからが本番ッスよ~…」


美衣「龍さんのために、必ずアイツらの弱点を見つけ出してやるッス!」



―――――――――――――――



八雲「それで、何か話は聞けたの?」


蒼雅「いえ…分かったことはこの学園は淑女の振りしてる連中が結構いるってことね」


八雲「ま、今どき、ご機嫌ようって恭しく挨拶してくるお嬢様の方が珍しいよ」


6時限目の終わり。

私は八雲に今日あった事情を説明していた。


蒼雅「だけど、凶器を隠し持ってるのは異常よ。ていうか、この学園のセキュリティに異常があるわ」


八雲「そうだね…でも、地位、権力、金があれば買収出来てしまうことこそ、この学園の異常性だよ」


蒼雅「誰かがセキュリティを買収したの?」


八雲「恐らく生徒会。今回の蒼雅襲撃を発布した段階で凶器の持ち込みを許可した。…セキュリティには、学校関係者の持ち物検査を行わないよう手を回したと予想」


蒼雅「そして、使用時を見かけても見ぬ振りせよ、とも伝えてあるはずね」


八雲「そう。でも逆に言えば今のタイミングなら何を持ち込んでもバレないから、やりたい放題ってわけ 」


蒼雅「それを喜ぶのはアンタだけよ」


八雲「まぁ私は上手いことやってあれやこれやを持ち込んでるから、あんまり関係ないけど」



ガチャ


早苗「はいは~い。HR始めますよ~」


八雲と話している内にHRが始まった。


蒼雅「ん?」


八雲「どしたの?」


蒼雅「いや…ドアのとこ」

早苗先生が入ってきたドアの方に、見覚えのある人影があった。


八雲「あれ…御剣先生?あんなとこで何してんの?」


蒼雅「さぁ…」

八雲と互いに首を傾げる。


早苗「えっと~…明日付けで副担任の先生が変わることになりましたので~皆さんにご紹介します~」


八雲「え?」


蒼雅「まさか…」


滅龍「?」

私と八雲は互いに見合う。隣に座る滅龍は不思議そうに見てくる。


閃梨「えー…明日付けで中等部3-Aの副担任となる御剣だ。体育の授業等で顔を合わせているから私のことは知っているだろう」


蒼雅「…厄介な」


閃梨「…ん?」

私のボヤキに御剣先生は反応した。気に留めず窓際を見る。


閃梨「短い期間とはいえ、私がこのクラスに関わる以上、清く正しい学校生活を送ってもらうよう厳しく君たちを見ていくつもりだ。まぁ、この学園の生徒は、"一部生徒を除いて"皆実直で清廉だとは思うが」

嫌味っぽくこちらを見て言い放つ。


蒼雅「…」

シカトするに限る。


滅龍「言われてやんの」


蒼雅「うっさい」


閃梨「そういうわけで、短い間だがよろしく頼む」

パチパチパチとまばらな拍手で歓迎される。


閃梨「…」


蒼雅「…」



突然の配置換え。それも、幾度と接してきた教師がクラスの副担任として来た。何となく感じる。


大人の事情か、それともそう見せかけた、子供が操る傀儡(ラジコン)か。


いずれにせよ、今日の一件を見るに生徒会と教師の間で何か話がついたのだろう。


…厄介な話よね。



―――――――――――――――




「貴方の責任です」


放課後。一人の生徒に詰め寄られていた。

ちなみに八雲は先に帰らせた。滅龍は知らん。


蒼雅「…何よ突然」


「御剣先生が副担任になったことを言っています。あの方は常日頃貴方への指導を積極的に行っていました。ですが、貴方の態度は一向に変わらず。先の発言から身近での直接的指導の為、このクラスの副担任を請け負うことになったと推測します」


蒼雅「憶測で決めつけるなんて、貴方にしては随分非論理的じゃない?如月さん」


私に詰め寄る生徒…如月(キサラギ) 舞桜(マオ)さん。彼女は同じクラスの生徒で中等部生徒会総務部風紀委員会長…つまり中等部の風紀委員長様だ。


綺麗に手入れされたセミロングの黒髪にメガネ、校則遵守の制服の着こなしと、絵に描いたような優等生。


蒼雅「そもそも貴方は生徒会の人間よね?御剣先生が副担任に就いた理由も知っているんじゃ?」


舞桜「生徒会とはいえ教員の人事を知る権利はありません。ですが、近頃の行動や傾向を見る限り、先の理由以外ありえないと思いますが?」


ま、生徒会と言っても下位組織の総務部だものね。与えられてる権限なんてたかが知れてるか。


蒼雅「で、そんな話をして私にどうしろと?職員室に行って頭でも下げれば良いわけ?」


舞桜「そんな即物的な行動で解決出来る問題ではありません。貴方がやってきた行いはA組の評判を貶めたのです。クラスメイトを想う気持ちがあるなら、反省し、それを行動で示していただきたい」


蒼雅「…」

正直断ると言いたいが、クラスメイトに迷惑がかかってるとなると話は別。


不良である自覚はあるけど、友人達に世話をかけるのは、矜恃に反するもの。…なんつって。


蒼雅「で、何をすればいいのかしら?」


舞桜「…貴方にはこれから奉仕活動を行ってもらいます」


蒼雅「…そんなことだろうとは思ったわ」

というか、反省を示すならそれが分かりやすいわよね。


蒼雅「で、内容は?ゴミ拾い?掃除?それとも委員会に入れ、とか?」


舞桜「…そうですね。では手始めに掃除から始めましょう」

そう言うと如月さんはポケットから何かしらのカードを取り出した。


蒼雅「…何それ?」


舞桜「カードキーですよ。…"高等部生徒会サロン"の」


蒼雅「っ!貴方…」


舞桜「あ、サボってはいけませんよ。放課後清掃が入るって執行部の人に伝えてますので、反故にしたら清掃員の方々が怒られてしまいますから」


蒼雅「…貴方、これはどこで?」


舞桜「そうそう、貴方の奉仕活動を提案した方から伝言がありました」


舞桜「『午後に執行部会がサロンで開かれると、役員の後輩から聞いている。なので清掃時は静かに行え。それと着替えは中等部校舎1F右奥の倉庫に入っている。あと、カードを使用し終えたら、忍に返すように。奉仕活動頑張ってくれ』…高等部生徒会総務部学生議会長 2年E組 風間(カザマ) 辰子(タツコ)より」


蒼雅「風間辰子…そういえば」


―――――――――――――――



莉子「…チッ。風間先輩に守られてるからって調子に乗りやがって…」


忍「…姉さんは関係ないけど」


莉子「どうかしらね…風間先輩がいなけりゃ、アンタが生徒会に居座ることもなかったのに」


―――――――――――――――



蒼雅「…なるほど。鬼屋敷先輩が手を打ってくれたのね」

我関せずな態度で期待はしていなかったけど、気が変わったのかしら。助かるわね。


舞桜「私からは以上です。ではすぐに向かってください。清掃開始時間まであまり時間がありませんので」


蒼雅「ええ。ありがとう、如月さん」


舞桜「べ、別に感謝されるようなことは…んん!しっかりとお願いします…お気をつけて」


蒼雅「ええ!」

私は荷物を持って、足早に廊下に出た。



―――――――――――――――



蒼雅「…これを着るのね」


校舎の倉庫内で清掃員の服に着替える…のだけど


蒼雅「…メイド服一式にエプロン、か…。まぁこの学園のスタッフは大体メイドさんだから、そりゃそうよね」


蒼雅「伊達メガネはアレかしら…気休めの変装とか?…なんにしても早く着替えなきゃね」



―――――――――――――――



蒼雅「…なんで私がこんな格好を…」

着替えて、生徒会サロンに向かう。

どこからどう見てもメイド。メイド喫茶みたいに萌え系とかではなく、ヨーロッパスタイルの本格的な衣装だ。


蒼雅「…ま、これくらいならコスプレにはならないか」


閃梨「…なにをしている?」


蒼雅「っ!?」

慣れない服装にあたふたしていたら、後ろから声がかかった。…油断したわ。私としたことが、気配を感じ取れないなんて。


蒼雅「あら御剣先生、ご機嫌麗しゅう。では」


閃梨「待て霧雨。なんだその妙な格好は。なんの真似だ?」

変装が一瞬でバレる。意味ないわね。ま、気休めだからしょうがないけど。


蒼雅「何って…見ての通り今から清掃作業をするのよ」


閃梨「はぁ?」


蒼雅「私の素行の悪さが、クラスメイトに迷惑をかけてるって言われてね。それは申し訳ないと思って、せめてもの償いで奉仕活動をやってるのよ」


閃梨「嘘をつくな。何を企んでいる?」


蒼雅「企んでなんかないっての。風紀委員長に聞いたら分かるわよ。さ、早く行かせて。時間に遅れるわ」


閃梨「…ならば私もついて行く」


蒼雅「はぁ?」


閃梨「お前が本当に奉仕活動をする気があるとしても、信用はできん。普段の行動を見ているからな。真面目に従事するか私が監視する」

面倒な流れになってしまった。


蒼雅「いや、貴方には関係ない話でしょ。邪魔しないで」


閃梨「私はお前の副担任だ」


蒼雅「それは明日からでしょ」


閃梨「放課後からは明日のルールが適用されるんだ」


蒼雅「そんな話、初耳なんだけど」


閃梨「うるさい。第一、そういった活動は教師の管理の元行うものだ。生徒の独断は認められない」


蒼雅「…」

どうする、力づくで突破する?でも目立ちたくないし…


…いや、待て。仮に多賀城椿に会った時、この嫌がらせを終わらせるために説得してもらえるのでは。


他の教師じゃ潰されて終わりだけれど、こいつは正義感の塊みたいな教師だ。ぶつかってくれるはず。

強硬手段に出られても、刀の腕は一級品だし、いざという時は戦わせることも出来るわね。



蒼雅「…好きにしなさいよ。ったく…」


閃梨「観念したか。…で、その格好のまま行くのか?」


蒼雅「…ま、これが正装らしいから」


閃梨「いや、学内活動は通常、掃除だろうが制服でいいぞ。どこに掃除しに行くつもりだ?」


蒼雅「…高等部生徒会サロンよ」


閃梨「…なに?」



―――――――――――――――



閃梨「…本当に入るのか?」


蒼雅「嫌なら帰っていいわよ」


閃梨「帰らんさ。お前を監視しなきゃならんからな」


蒼雅「仕事熱心ね。私立の教員とは思えないわ」


閃梨「熱心に取り組むのは社会人として当たり前のことだ」


蒼雅「さいですか。開けるわよ」


職員用の通行口扉にカードキーを通す。


蒼雅「すんなり開いたわね…風間先輩に感謝しないと」


閃梨「なんか言ったか?」


蒼雅「なんでもないわ。行くわよ」


閃梨「ああ」



―――――――――――――――


閃梨「…」


蒼雅「…」


中に入るや否や、2人して言葉を失う


蒼雅「ねぇ」


閃梨「いや、言いたいことは分かる。私も初めて入るからな」


高等部生徒会サロン…特権階級が集う場とは聞いていたが、まさかここまでとは。


入った場所は職員の待機スペースだったが、いち職員に用意されるとは到底思えないほどの絢爛豪華な内装だ。


シャンデリアに絵画。中世ヨーロッパ風のシェルフやクローゼット。休憩時間にお茶するためなのか、食器棚もあり、中には見たことも無い意匠のカップや皿が並んでいた。


蒼雅「金持ちってアホな生き物よね。見栄なのか、無駄に煌びやかに着飾るもの。高けりゃ良いってものでもないのに」


閃梨「住む世界も違えば価値観も違う。それに、多額の融資がある以上、学園もその期待に応えなければならん。華美な観てくれも体裁なんだろう」


蒼雅「そういやアンタも、学生時代はA待生だったみたいね」


閃梨「生活自体は割と質素だった。お前の友人の神代みたいなもんだ」


蒼雅「あっそ…ところで」


閃梨「なんだ?」


蒼雅「…どこがなんの部屋とか知らないんだけど、適当に掃除始めてもいいわけ?」


閃梨「…そういうのはクライアントに問い合わせるんだな」


蒼雅「残念だけど帰ったわよ。連絡先も知らないわ」


閃梨「何しに来たんだお前は…」


本来の目的は生徒会長に会うことだけど、名分のためにも多少は掃除もやるべきでしょうけど…打ち合わせくらいしとくべきだったわ。



蒼雅「とりあえず適当に中をぶらつく事にするわ。誰かいるかもしれないし」


閃梨「おい」


蒼雅「分かってるわよ。掃除はちゃんとやる。でもまずどこをどうやるか聞かないことには始まらないでしょ?」


閃梨「…ったく、さっさと誰か見つけて始めるぞ」


蒼雅「待ちなさい。あんたはその格好のまま?」


閃梨「は?」


蒼雅「一介の教師が入れない生徒会サロンに、一介の教師が歩いてたら不審に思われるでしょ。監視って体も、今はいち職員の私に対しては通用しないわ」


閃梨「…確かに。だがどうすれば」


蒼雅「…ドレッサーに大きいサイズのメイド服があったわ」


閃梨「…まさか、それを着ろって言わないだろうな?」


蒼雅「背に腹はかえられぬ、でしょ?」

ホントは事情さえ説明すれば別に着替える必要なんてないはずだけれど、サロンの雰囲気に圧されて判断が鈍ってるうちに、こちらの土俵に引き込む。


どこで企みがバレるか分かったものじゃないからね。


閃梨「…し、仕方がない…仕方がないんだ…」


呟きながらジャージを脱ぐ御剣先生。少し可哀想だけれど、仕方がない。




――――――――――


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