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蒼零戦姫  作者: ジョンソン(P)
第一章
3/9

家族

月詠(ツクヨミ) 罪華(サイカ)

6月4日生まれ

年齢 25歳

身長・スリーサイズ 153cm B72 W54 H74

髪色・髪型 金色 ナチュラルセミショート(片目隠し)

目の色 深紫 

趣味 ドライブ キャンプ スケッチ

好きな食べ物 チーカマ

嫌いな食べ物 苦い物


霜月(シモツキ) 白夜(ビャクヤ)

11月5日生まれ

年齢 25歳

身長・スリーサイズ 166cm 88 56 91

髪色・髪型 銀色 セミショート

目の色 フレッシュグリーン

趣味 ラジオ コーヒー ショッピング

好きな食べ物 パンケーキ

嫌いな食べ物 砂糖菓子 


蒼雅「さて…」


八雲と別れた後、程なく自宅に到着。

家の門を開けて、庭を通る。


住宅街エリアの一角に、大きな庭と二階建ての一軒家。それが私の家。

高級住宅街の豪邸と比べたら簡素で小さいが、一般の住宅の中ではかなり大きい方だと思う。


蒼雅「…ホント、スースーするわね、ここ」


庭には大量の植物が植えられている。

花に草、果物、野菜と種類は様々。


ビニールハウスに覆われているものもあれば、野ざらしにしているものもあり、そういうのは大概、香りの強い花や草だったりする。


これらは全部、お母さんが育てているもの。だけど決してガーデニングが趣味というわけではない。

これらの植物は全部、お母さんが仕事で使うものだ。


蒼雅「…仕方ないとはいえ、ハーブ育てるのやめて欲しいわね。鼻が痛い」


人によっては近寄りたくないかも知れないわね、この匂い。


ガチャ


庭を後目に私は、玄関のドアの鍵を開けて中に入った。


―――――――――――――――



蒼雅「ただい…」


「そーちゃぁぁぁぁぁん!!!やっと帰ってきたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


ガバッ


蒼雅「ま……」


帰るやいなや、熱烈歓迎をくらう。

大柄な女性が突然抱きついてきた。


「…おかえり、蒼雅」

すると、リビングからもう1人別の女性が現れる。


蒼雅「藍姉、これはどういう状態かしら?」


「…仕事で嫌なことがあったらしい。よく知らないけど」

そう淡々と答えるのは、私の姉であり、霧雨家の次女、霧雨(キリサメ) 藍香(アイカ)


短めに切りそろえた黒髪と、鋭い瞳に泣きボクロが特徴的な女性。肌が白くスレンダー。


ただし、表情の機微が少ない上に、目付きが悪いため冷たい印象を持たれがち。


だが一家で1番真面目で優しく、他人想い。


…自画自賛にはなるけど、ウチは一家全員容姿に恵まれてるから、それなりにモテるけど、男性人気は藍姉がダントツね。

ギャップが良いとか、睨まれたいとか、優しくて儚げだとか色んな需要があるらしい。


「そーちゃぁん!構って構ってぇ!」


蒼雅「…酒臭いわね。晩飯前なのにもう出来上がってる」


玄関でいきなり抱きついてきたのは、長女の霧雨(キリサメ) (アオイ)


一家で最も背が高く、スタイルが良い。長く綺麗な黒髪を後ろで束ね、銀縁の眼鏡をかけている。


今はただの酔っ払いだが、普段は爽やかで人当たりがよい女性。

その性格に加え容姿が容姿なので、モテる。しかし、男性というよりは女性に人気だけど。


ちなみに眼鏡はダテ。知的に見えるからって理由だけでかけている。



蒼雅「葵姉、もう寝なさいな」


葵「え!?一緒に寝てくれるの!?大胆ね!」


蒼雅「…中学生の妹にセクハラしないの」


藍香「…姉さんは私が寝かしつけておくから、ご飯の用意お願いしてもいい?」


蒼雅「ん。お願い」


引っ付いた葵姉を引き剥がして藍姉に渡す。


葵「うあぁぁぁぁん!!そーちゃぁぁぁぁん!」


藍香「…はいはい、良い子だから寝ようねー姉さん」

藍姉は葵姉を部屋へと引き摺っていった。


藍香「…あ、そうだ。ご飯の支度が終わったら、お母さん達呼びに行ってもらえる?」


蒼雅「分かったわ」



―――――――――――――――




蒼雅「…よし、完成っと」


料理をテーブルに並べて、一息つく。

…帰りに少しお腹を満たしたけど、我ながら美味しそうに出来たから、少しお腹が鳴った。


成長期の特権ね。


蒼雅「…さて、葵姉の分はラップして…皆を呼びに行きましょう」


―――――――――――――――


リビングを出て、階段を降りる。


1階なのに下り階段…。

実はこの家には地下があり、中は母の仕事場になっている。


扉を開けると本棚に囲まれた空間が現れた。


大量の本に、部屋を照らす神秘的な天井灯。

まるでファンタジーに出てくる魔法図書館のような装い。母の趣味だ。


蒼雅「おーい」


本棚の間を通り、母のいるデスクに向かう。


すると



「ママー。それ何か変な色になってるけど、大丈夫ー?」


「大丈夫大丈夫。紺凪、そこの棚にある溶剤、取ってくれる?」


「…はい、ママ」


「ありがとありがと。…さて、仕上げだよっと」


「ママ!泡吹いてる!これ爆発しない!?」


「大丈夫よ青凪。多分多分。…おそらくメイビー」


「保険かけんな!言い切ってよ!」


「…止まったみたいですよ、青凪」


「ねね?言った通りでしょ?」


「額に汗流しながら言われてもねぇ!?」


蒼雅「…何してんの?」


ワイワイ騒がしくしている所に割って入る。


「うひゃあ!?…そ、蒼雅!びっくりしたー…」


「蒼姉!珍しいね、ここに来んの!」


「…姉様。おかえりなさいませ」


ギュー

小さいのが2人同時に抱きついてくる。


蒼雅「ただいま、青凪、紺凪」


霧雨(キリサメ) 青凪(セナ)と、霧雨(キリサメ) 紺凪(カナ)。私の妹で霧雨家の四女と五女。小学生。


2人は双子で、青凪が姉で紺凪が妹。不思議なことに一卵性なのにあまり似ていない。


青凪は私と似た薄金色の髪。紺凪は葵姉と同じ黒髪。


青凪はサイドテールでツリ目な、いかにも気が強そうな見た目をしている。口調の軽さと見た目でギャルっぽさを感じるが、オタク。興味を持った物にずぶずぶ入り込むタイプ。


紺凪は綺麗なロングストレートの先をゴムで留めている。目元は優しそうだが、藍姉とは違うベクトルで不思議と威圧感を感じる。

本人は大人しくて小動物っぽいけど。


「相変わらずチビ達は蒼雅が好き好きだねー」


蒼雅「…そのヤバそうな汁はなに?お母さん」


ニコニコと試験管を持っているのは、霧雨一家の長、霧雨(キリサメ) 碧子(アオコ)。私達姉妹の母である。


後ろにまとめ上げた長くて綺麗な白い髪に、ウチの人間にしては華奢な体躯と、白衣にタイトスカートといういかにも学者チックなスタイル。


そして何より、成人の娘が2人いるようには見えないくらい見た目が若い。初対面の人には絶対姉妹と間違われる。


ちなみに年齢不詳。家族だけど姉妹全員この人の年齢を知らない。


碧子「にゃはは。これはねこれはね、身長が止まる薬」


蒼雅「…誰が得すんの?」


碧子「私だ私。葵を始め君たち3人おっきくなり過ぎなんだよね。私はあんまり大きくないのに」


子供っぽく口を尖らせるお母さん。


碧子「抱き締めてあげたいのに、なんかなんか私が抱きついてるみたいになっちゃうもん」


碧子「だからだから、せめてチビ達はちっちゃいままにしたいなー…と思って!」


青凪「ちょっ、待て!それウチらに飲ませる気だったん!?」


紺凪「…度し難いです」


碧子「えー!いいじゃんいいじゃん!少しだけ!一口だけでいいから!飲んでくれないかにゃー?」


青凪「アホか!飲むわけないでしょーが!ウチは蒼姉くらいスタイル抜群になるんだから!」


紺凪「…アホですか。別に身長にこだわりはないですが、飲みたくありません」


碧子「うわーん!」


蒼雅「…アホね」


…ていうか、娘に変なもの飲ませようとするな。


蒼雅「ほら、それはさっさと仕舞って。ご飯出来たからリビングに来なさい。冷めちゃうわよ」


青凪「わーい!お腹減ってたのよねー!」


紺凪「…姉様、お疲れ様です。お食事いただきますね」


蒼雅「ちゃんと手を洗いなさいよ?それから、藍姉も呼んできて。多分葵姉の部屋にいるから」


青凪「りょーかーい」




蒼雅「さ、お母さんも」


碧子「ん。…っとその前に、蒼雅」


2人が先に階段を上がったのを見て、お母さんが話しかけてきた。


蒼雅「何かしら?」


碧子「…うっすらと見える。黒いオーラが」


蒼雅「…え?」


碧子「いつもの"蒼"が濁ってる…蒼雅。今日は"お手伝い"の日じゃないよね。学校で何かあったの?」


蒼雅「…」


…流石ね、ウチの母は。私ですら気付かなかったことに、一目で気づいていたみたい。


蒼雅「面白い出会いがあったのよ。いつもの有象無象とは違う、本気で闘えそうな相手よ」


碧子「…そっか」


お母さんは悲しそうに俯く。


碧子「"お手伝い"もそうだけど…まだ闘いの渦中にいるんだよね」


蒼雅「そうみたいね。ま、闘い自体はキライじゃないからいいけど」


碧子「やっぱり"それ"は、消せそうにないの?」


蒼雅「…これが私の姿なら、それはもう受け入れるほか無いわよ。過去は払拭出来ないし、宿命だと思うわ」


碧子「…ごめんなさい」


蒼雅「…何回も言ってるけど、お母さんは悪くない。むしろ、感謝しているわ。今こうしていられるのも貴方のおかげでもあるのだから」


碧子「うん…でも、悔やんでも悔やみきれないよ」


蒼雅「なら気を遣わないで普通に接してちょうだい。それが一番の償いよ。責任感でじゃなく、普通の親子としてね」


碧子「蒼雅…」


蒼雅「…心配しないで。別に黒が滲んでも、昔に戻るわけじゃない。元々あったのが溢れただけよ。これは、私の一部。私が私である証明なの」


碧子「…強くなったね、ホント」


蒼雅「当然よ、貴方の娘だもの」


碧子「っ!蒼雅…!」


蒼雅「さ、くだらない話してないで、ご飯にしましょ」


碧子「…うん!」



―――――――――――――――



青凪「はー、美味かった。ごちそうさま、蒼姉」


紺凪「ごちそうさまです、姉様」


蒼雅「お粗末様」


藍香「…食器は私が洗っておくね」


蒼雅「ありがとう、藍姉」


碧子「ホント、料理上手いよね蒼雅は」


蒼雅「お母さんには及ばないわ。まだまだ精進しないと」


碧子「…どっかの姉にも見習って欲しいものねー?」


藍香「…得手不得手、適材適所って言葉があるでしょ?」


碧子「そうやって逃げてたら、嫁の貰い手無くすわよ?」


藍香「今の時代、女性が働くっていう道もある」


碧子「私は両方やってるけど?」


藍香「…ううっ」


蒼雅「大丈夫よ藍姉。スーパーの惣菜もコンビニ弁当も、昔と比べたら美味しくリーズナブルになってるわ」


藍香「…その慰めが逆に刺さる」


蒼雅「なら、練習あるのみよ。いつでも付き合ってあげるわ」


藍香「…ありがと」


葵「…楽しそうだねー」


蒼雅「あ、葵姉」


食卓を囲んでいると、葵姉がリビングにやってきた。


藍香「…寝てなさいよ」


葵「もう酔い覚めた」


蒼雅「…早いわね。毎回思うけど」


葵姉は酔いが覚めるのが尋常じゃなく早い。1時間も寝ればだいたい覚める。悪酔いするくせに。


碧子「ご飯食べる?」


葵「うんにゃ、それは後でいただくよ。…蒼ちゃん」


蒼雅「何かしら?」


葵「ちょっと庭で話そっか」


葵姉が指で合図する。


藍香「…蒼雅に変なことしないでしょうね?」


葵「失礼な。2人で話したいだけだよ」


藍香「…ならいいけど」


葵「…蒼ちゃん、いい?」


蒼雅「分かった」


私は葵姉について行き、庭に出た。



―――――――――――――――


蒼雅「…さて、話って何かしら?」


月明かりが照らす庭で、葵姉と私は向かい合っていた。


葵「母さんにも言われたんじゃない?今の蒼ちゃんから出る闘気…いや、殺気に近いもの」


蒼雅「…」


葵「霧雨一家…ひいては一族のほとんどが霧雨流闘技を習っている。修めた者は多くないけど」

霧雨流闘技…霧雨家に継承されている伝統の格闘術だ。


葵「私達家族は"蒼ちゃん以外"学んでいて、母さんと私と藍ちゃんは修め、皆伝を会得してる。だから見れば分かるんだよ、蒼ちゃんの纏う気が」


蒼雅「…やれやれ、さっきまでの呑んだくれてた葵姉はどこにいったのやら…」


葵「はっはっは。酒は一時の快楽よ」


蒼雅「…流石ね」


葵「…蒼ちゃんは霧雨流を修める気はない?」


蒼雅「前にも言ったけど、私にその資格はないわ。それに我流だけど、見よう見まねとはいえ一応霧雨流の技も取り入れてるわ。それもある意味霧雨流と呼べないかしら?」


葵「霧雨流じゃないよ。それはれっきとした蒼ちゃんの技だからね。…でも、それだけの技術と強さがあれば、霧雨流奥伝のその先…極伝も目指せると思うんだけどなぁ」


蒼雅「そこはそれ、気持ちの問題ってやつよ…それに」

私はゆっくりと構え、抑えた闘気を解放した。


蒼雅「貴方が思ってるほど、私は強くないわ」


葵「…その出で立ち…それだけの迫力を見せておいて、言うセリフじゃあないなぁ」

葵姉も同じく構え、闘気を放つ。


しなやかで流麗、美しさの中に確かに感じる強さ…流石、霧雨流最強の使い手。


葵「…」


蒼雅「…」


ガシィン!


令することなく、互いの脚が交差する。

…首を狩る一撃。まともに喰らえば一撃KO。

最初から手加減なし。


葵「ふっ!はぁっ」

短く切るような呼吸。無駄を排除した静かな息遣いとともに鋭く重い攻撃が迫る。


蒼雅「はっ!せいっ!」


葵「くっ!」


躱しつつ、2、3撃、打ち込む。葵姉は少し顔を歪めるが、すかさず反撃する。


蒼雅「ぐっ!」

蹴りを躱しきれず、腹部に貰う。


…流石に重いわね。リーチもあるし、分かってたけどアウトファイトは不利ね。


葵「…はっ」

変わらず、躱しつつ2撃ほど打つが、重みになれたか、葵姉の動きにブレがなくなる。


…いや、違う。これは剛体術ね。


葵「っ!」


蒼雅「っ」

葵姉の動きを読み、あえて一撃をうける。…そして腕を掴む。


蒼雅「葵姉。貴方は私より大きく、パワーもある。体のしなやかさも常人離れしてるわ…でも」


葵「なっ!」

左手で葵姉を引き寄せ、右手で顔を掴む。


蒼雅「ウェイトとバイタリティは私の方が上ね」

そのまま、葵姉の右足を狩りつつ、頭を地面に叩きつけた。


葵「うぐっ!」


蒼雅「…やるわね」


葵姉は頭から地面に落ちないよう、首の力で耐えた。


葵「これでも長女だからね…。妹に無様な姿は晒せないよっ!」


体を跳ねあげ、拘束を解き、距離を取る。


葵「姉相手に容赦ないなぁ」


蒼雅「葵姉相手に手加減出来るほど余裕はないわ」


葵「ま、そうさせないつもりで闘ってるからね」


蒼雅「…どうする?まだやる?」


葵「…いや、これ以上は必要ないかな」


蒼雅「それって…ぐっ!」

唐突に腹部に激痛が走り、膝をついてしまう。


蒼雅「…流石ね。二応脚…霧雨の技か」

先程受けた腹部への脚技…ミスディレクションを利用し、一撃に見せかけた二連撃。葵姉の得意技だ。


蒼雅「それだけじゃないわね。さっきあえて受けた拳も、寸勁を利用した内蔵攻撃…遅れてダメージが来る技ね」


葵「どんな攻撃にも意味があり、意義がある。霧雨の技は一筋縄にいかないようになってるからね」


蒼雅「…引き分け、ね」


葵「…そういうこと」


ガクッ


葵姉も、遅れて膝をつく。


葵「膝と肩…四肢の伝達系への剛体をかいくぐる巧妙な打撃…我が妹ながら常軌を逸してるなぁ、まったく…」


2人して膝をつき、痛みを噛み締める。


蒼雅「…時々手合わせするけど、今日は趣が違うわね。何かあったかしら?」


葵「試したかったんだ。"黒"っていうのが、どれほど脅威的で根深いものなのか…」


闘うことで相手の心理を読み、分析する…この人は根っからの武人ね。


葵「てか、それはこっちのセリフだよ。殺気纏って帰って来るなんて、学校でなんかあった?」


蒼雅「…ちょっとした出会いがあってね。私と似た匂いのやつ…そして私より大きい"黒"を纏った女」


葵「…もしかして?」


蒼雅「…どうだろう。私は見覚えがないけど…でも、似たものは感じるわね」


葵「…」

ギュッ


葵姉はゆっくりと私に近づき、抱きしめた。


蒼雅「…葵姉?」


葵「今日の闘いで確信した。黒でも蒼でも、蒼ちゃんは蒼ちゃんなんだって」


葵「…でも、"(それ)"を纏う限り闘いから逃れることは出来ない。それは蒼ちゃんも理解してるよね?」


蒼雅「ええ。…分かった上で受け入れているもの」


葵「"あの日"、一つの闘いが終わり、蒼ちゃんは平穏を手に入れた。…だけど、また新たな闘いが始まろうとしている。…そんな予感がするんだよ」


蒼雅「…」


滅龍との出会い…彼女は嵐の中心だ。おそらく、彼女と触れ合い、私の内側から溢れたものを、お母さんと葵姉は感じ取ったのだろう。


…おそらく、藍姉も気付いているはず。


葵「だけどこれだけは覚えておいて。どれだけ蒼ちゃんが闘いに巻き込まれようとも、運命に翻弄されようとも、私は…私達家族は、蒼ちゃんの味方だから」


葵「"あの時"の償いでも、義務でもない…大好きな妹だから。愛する家族のためなら、私は闘う」


蒼雅「…守られるってのは主義じゃないわ。でも、いざって時は、背中を預けさせてもらうわ」


葵「それでいい」


私の言葉を聞いた葵姉は優しく微笑み、立ち上がった。


葵「さ、中に戻ろう。土まみれだからお風呂入りたい」


蒼雅「…そうね」



…どれだけ強がってみせても、姉の言葉が心強く感じる。

それは私が子供だからか、それとも家族だからなのか…


…時には甘えることも必要なのかも。


葵姉、ありがとう。



―――――――――――――――


22:00


宿題を終え、部屋でテレビを見ながら、明日のことを考える。


テレビの画面には再放送のバラエティ特番が流れ、芸人やアイドルが楽しげに戯れている。


そこには、あいつの姿も。


李滅龍…今までアイドルに興味はなかったけど、あんな出会い方をしてしまった以上、気にしてしまう。


それに、アイツの動きやオーラ…私には見覚えがあった。


洗練された格闘技でも、己が強さを誇示するための喧嘩でもなく、ただ相手を殺すためのファイトスタイル…。


軍隊式のようなスマートさはないが、人間を含む動物全般を狩るのに効率的なあの闘い方は、生死のやりとりが常日頃から行われている過酷な環境でしか育たない、まさに生きるための闘い方。


…一言で言うなら"獣"。

あえてあのファイトスタイルに名前をつけるなら、"獣術"かしら。



テレビの奥で滅龍はニコニコと大御所芸人と話している。


蒼雅「こうやって普通にアイドルしてる時は可愛いのにね」


これが、あの病院の屋上で殺気を振りまいてたやつとは思えないわね。


蒼雅「そういや、学年とクラス聞いてなかったわね…興味無いけど」


無いとは思うけど、もし3-Aだとしたら、苦労するだろうな。何せ…


蒼雅「…ウチのクラス、変な奴が多いからねぇ…」


ブー、ブー


携帯がなる。


画面を見るとそこには梢と書かれていた。


蒼雅「もしもーし」


梢『うぃっす蒼雅。今大丈夫?』


蒼雅「ん。なんか用?」


梢『うんにゃ。ただの雑談』


蒼雅「あぁそう。いいタイミングで掛けてきたわね。ちょうど貴方達のこと考えてたわ」


梢『なになに!?あたし達と一緒に遊んだから、恋しくなった?』


蒼雅「いや、A組って変なの多いなって」


梢『そこにあたし含むなよ!?』


蒼雅「変なの筆頭でしょあんた」


梢『アンタにだけは言われたくないからね!?』


蒼雅「心外ね…」


まぁ、梢はまともな方ではあるんだけどね。…故にいじられやすいんだけど。


梢『そいやさ、八雲っちにはちゃんと連絡してる?』


蒼雅「?まぁ、気が向いたら?」


梢『えー?毎日連絡してあげてないのー?それはダメだなぁ』

梢は呆れ気味に言った。


蒼雅「…なんでよ?」


梢『え、だってあんた達付き合ってんでしょ?』


蒼雅「…はぁ?」


梢『はぁ?ってあんた、なに他人事みたいに…』


蒼雅「いやアホなのかと…」


梢『アホって言うな!』


いやアホでしょーよ。


蒼雅「あのね、私と八雲は女同士なの。女子校に通ってるくせにそんな事も分からないの?」


梢『はーっ!アホはアンタよ。今の時代ねぇ同性恋愛なんて当たり前。うちの学校じゃ珍しくないし』


蒼雅「そう思ってるのは当事者だけよ。生物が子を成す本能を持って生まれる以上、マイノリティには変わりないわ」


梢『なんだよー。言っておくけど、あんた結構噂の的になってんだからね?レム女百合ップルの』


蒼雅「なにその気持ち悪い単語は…」


梢『例えばだけど、蒼雅と八雲の親友百合とか!』


蒼雅「…親友って言ってるじゃない」


梢『親友が恋人に発展…もといハッテンすることもあるでしょ?』


蒼雅「ない。てか何で言い直したの」


梢『他には蒼雅と由美ちゃん、蒼雅と佐脇パイセン、蒼雅と葛城パイセンに、蒼雅と…』


蒼雅「待て待て。由美ちゃんはまだいいけど、変なの混じってるんだけど?」


梢『あとは蒼雅と楓、それから蒼雅と琉菜ちーとか!』


蒼雅「楓はもっとないし、琉菜は従姉妹だっつーの!アホ丸出しじゃない!」


梢『従姉妹同士なら結婚出来るよ?』


蒼雅「女同士じゃなければね!」

…前言撤回。こいつやっぱ変だわ。少しでもまともとか思った私もアホね。


梢『あ、でも最近のトレンドは…蒼雅と御剣先生だね!』


蒼雅「…何であの人の名前まで出るの…」


梢『いやなんか、ほら、ルパン銭形、トムとジェリーみたいな関係が一部の女子に受けてるみたいでさ!』


蒼雅「ただの不良と生徒指導の教師を名作アニメのライバル関係と一緒にするな」


梢『それが嫌なら少しでも真面目に授業出なさいよ。最近の御剣先生は寝ても覚めても蒼雅って感じだし』


蒼雅「はぁ?」


梢『今日だってわざわざ授業潰して探し回ってたからさ』


蒼雅「…あぁそう」

そういやそんなこと言ってたわね。どうでもいいけど。


蒼雅「だからって勝手にくっつけて欲しくないわね」


梢『女子って恋バナ好きだし仕方ないよねー』


蒼雅「…相手が同性じゃなければね」

女子校ならではなんだろうけど、流石に身近にいる人間でそういう妄想はやめてほしいわね。



梢『あんたって、美人だし、何かと目立つからさ、話題になりやすいのよ。目立ちたくないならもっと身の振り方考えた方がいいよ』


蒼雅「肝に銘じます」

変な噂流されるのは勘弁だし、明日から少し真面目に授業に出ることにしよう。


梢『さて、そろそろ寝るわ。一応八雲にも連絡してやりな?あの子、一人だし』


蒼雅「…そうね」


梢『んじゃまた明日〜』


そう言って梢は電話を切った。



蒼雅「…ったく、変な話聞いたせいで連絡しづらいじゃないの」

そう言いつつも、私は八雲に電話を掛けた。


八雲『早く寝ろ』

第一声がこれである。


蒼雅「おやすみなさい」


八雲『あぁ!ごめんごめん!冗談、冗談だから!』


蒼雅「あんたが一人寂しくテレビ見てると思って電話かけてあげたのよ?」


八雲『まぁ、寂しいってのは否定しないけど、これはこれで快適だよ』


蒼雅「…"A待生"か」



レム女には3つの通学制度がある。


それぞれA待、B待、C待とあり、それぞれの家庭事情に合わせたコースになっている


C待は一般入学。他の私立と比べると入学金や授業料は高めだけど、一般家庭でも通えるコースになっている。


B待は、スポーツ特待や語学特待、その他資格保持者や留学生のコース。主に将来、スポーツ選手、海外就労者、医療従事者等になる人達が利用するコース。カリキュラムもA待、C待とは別物になっている。


A待は、カリキュラム自体C待とは変わらないが、学園内で高待遇が受けられるようになっている。

その理由は、学園への多額の援助と各界へのコネクションとメンツ。つまりお金持ちのコースだ。


お嬢様が多いこの学園ではほとんどがA待で、私のようなC待生は少ない。


C待生には無いものとして、B待、A待にはそれぞれ特典があり、その1つが居住場所。

寮がないうちの学園は他県から通うのは難しいが、B待であれば中等部以上からアパートが貸し出されるため、可能になっている。


そして、A待ともなれば高級マンションの一室が借りられる。その上学園からの送迎、コンシェルジュからの各種サービスまで受けられるようになっている。


まぁそもそも、お嬢様方はほとんどが屋敷住まいなので、入居者はあまり多くないらしいけど。



ちなみに、サービスについては別料金がかかるらしく、八雲自身はお金を持っているわけではないため、サービスは基本受けていないらしい。


そのサービスの中には食事も含まれており、一番安くて一品5000円はするらしく、とてもじゃないけど頼めないため、八雲はコンビニ弁当で済ませているんだとか。



蒼雅「前にお邪魔したけれど、一人で暮らすには広すぎるわね」


八雲『ほんとそれ。掃除が面倒で仕方ない…』


蒼雅「来年からB待に移る?」


八雲『絶対嫌。アパートは魅力的だけど海外と日本を行ったり来たりのハードスケジュールこなせる気がしないし、第一、普通に働く分には必要ない教育だし』


蒼雅「確かに」


と、他愛のない雑談を続けていると


『弾けるレモンと強炭酸!レモネクス!』


テレビに滅龍が出ているCMが映る。


蒼雅「…」


八雲『蒼雅?おーい』


蒼雅「聞こえてるわ…ねぇ、李滅龍って知ってる」


八雲『李滅龍?アイドルの?』


蒼雅「そう」


八雲『知ってるも何も、テレビじゃしょっちゅう見かけるし、歌も流れまくってるしで知らない人の方が少ないでしょ』


蒼雅「…そうね」



八雲『なんか気になることでも?』


蒼雅「…いえ、CM流れたから」


八雲『そう。可愛いよね』


蒼雅「…そうね」

本性を知ればどんな反応するのかなぁ


八雲『あ、それより、今日送った生徒会メンバー表見た?』


蒼雅「まだ見てない」


八雲『せっかく送ったんだから見てよね』


蒼雅「ごめんごめん。どれどれ…」

私はアプリのチャット欄から八雲の送った表を開いた。



生徒会執行部役員名簿

高等部

生徒会長

・多賀城 椿 2年A組

副会長

・甲斐 愛美 2年A組

・レナ・チェンバレン 2年D組

書記

・佐脇 莉子 1年A組

・宮村 慶 1年C組

会計

・鬼屋敷 忍 1年C組

・辰巳 奈央 1年B組

庶務

・鷹村 柚 2年B組

・宗方 沙月 2年B組


中等部

生徒会長

・真壁 刹那 3年C組

副会長

・倉敷 都子 3年E組

・空席

書記

・荒木 雅美 1年D組

・空席

会計

・井端 弘子 1年D組

・空席

庶務

・片桐 慧音 1年A組

・空席



蒼雅「中等部は3年が会長をやってるのね。もう二学期終盤なのに」


八雲『中等部生は高等部に上がるのが殆どだからね。それに中等部役員って、高等部役員を引き継げるように育成するための組織みたいなものだから』


ということは、やはり高等部役員が実権を握っているわけね。


八雲『だから、生徒会選挙は出来レースなんだよね。役員候補は事前に教師を通じて、現役員から指名を受けてるみたいだし』


蒼雅「やる意味ないわね」


八雲『そうでもないよ。稀に、ぽっと出の生徒が得票数かっさらって逆転することもあるらしいし』


蒼雅「え、そうなの?」


そんなことしちゃ、引き継ぎしていた前役員や指名した教師のメンツ丸潰れになるけど...。


八雲『ま、余程のカリスマじゃないと難しいけど。でも過去にそういう生徒もいたみたいだよ』


蒼雅「学園、ひいては社交界ぐるみでの出来レースを覆せるほどのカリスマ、見てみたいものね」



八雲『ははっ、確かに』


ま、そんなことになったら、学内が大騒ぎになって、面倒事が増えるからごめんだけど。


八雲『って、もうこんな時間か!そろそろ寝る!』


蒼雅「分かったわ。おやすみなさい、八雲」


八雲『おやすみ、蒼雅』


通話を切り、スマホをスリープにする。


蒼雅「...私もそろそろ寝よう」


明日からのことは少し気掛かりだが、今考えても仕方がない。


何が来ても良いようにゆっくり休んで備えよう。

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