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俺、死んだの?  作者: と〜や
神の国編

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49.現在、過去、未来

 夢を見ていた。

 夢だとはっきりわかったのは、未来の話だからだ。


 リオと家庭を持った夢だ。仕事でヘロヘロになりながら開けた扉の先には、成長したリオが笑顔で待っている。

 どれだけ忙しかろうと必ず家に帰る。これほど心が満たされるのだ、そのくらいどうってことない。

 出迎えてくれたリオにただいまのキスを落として抱きしめるとふんわりといい匂いがする。

 ああ、この匂いだ。リオの香り。

 リオの笑顔が何よりの癒しだ。


 場面が変わると、病床にいるリオの姿。傍らにベビーベッドが置いてある。寝ているのは、淡い茶色の髪の毛の子と、リオみたいな紫がかった銀色の髪の子。双子だ。

 夢の中で俺はリオを抱きしめ、双子にそっとキスを落とす。

 どこまでもいとおしい。

 これが夢でなく現実であってほしい。いや、これから訪れる未来であってほしい。


 次の場面は、よれよれの俺が真っ暗な職場で一人、徹夜してるシーンだった。また胃をやったらしく、腹を押さえて脂汗をかきながらキーボードを叩いている。

 終電はとっくに出た後だ。だが、俺は意にも介さない。家で待っている人などいないのだから。

 たぶんこれは、今までの俺の延長にある、俺の未来だ。ひたすら仕事だけに邁進していた俺がたどったであろう未来。

 これは――選びたくない。

 リオを知った今では、絶対選ばない。いや、辿りたくない道だ。


 そして、四つ目の場面では、リオが眠っていた。

 何一つない白い病室のベッドに横たわるリオ。

 なぜかこれが現在の、現実のリオだと思った。

 落ちくぼんだ目。やせ細ったリオは目を開けることなく眠り続けている。こっちに精神が飛ばされているのだ、目を覚ますことはないのだろう。

 落ち続ける点滴、点滅するバイタルモニター。

 俺が入院したあの病院の一室にいるのは間違いない。その証拠に――担当看護婦の名が俺のと同じだから。

 もしかして、ここから俺のいるはずの部屋に移動すれば、眠っている俺が見えるんだろうか。

 そんなことを思った途端、場面が変わった。


 案の定、眠り続ける俺がいた。

 髭も髪の毛も伸び放題で、小汚い。思わず顔をしかめた。

 まあ、仕方ないか。親に連絡が行っていたとしても、遠方だし両方とも仕事持ちだ。そうそう来れるはずもないし、ずっといられるはずもない。

 手術から何日経っているんだろう。俺の方も点滴とモニターがつけられている。枕元には花が置いてあった。確かこの病院は生花はだめだと入院案内には書いてあった。ということはこれは、プリザーブドフラワーか。

 メッセージカードにはちんまい文字で『早く目覚めて戻ってきてください』と書いてある。確か女子社員のだれだかの字だ。

 相当迷惑かけてんだろうなあ。……俺だって戻りたいよ。

 でも、一人だけ戻るわけにはいかない。


 次に飛ばされたのは、個室だった。そういや俺のは四人部屋、リオは個室だった。またリオの部屋かと思ったけど、寝ているのはリオじゃなかった。

 綺麗に髪の毛も髭も整えられたその顔に見覚えがあった。――ナオト、だ。

 こっちの世界よりも少し老けて見える。……一体何年、こうして眠っているのだろう。だが、俺と違ってきちんと髭が整えられているということは、誰かが世話をしに来てるってことだ。

 もしかして、聖ちゃんとかというやつだろうか。

 きっとそうに違いない。

 ナオトはとっくに見限られてる、と泣いてたけれど、ナオトのベッド周りを見る限り、そんなことはありえないのが分かる。

 ナオト好みのコップやファブリック。枕元に置かれた写真立てには二人が寄り添う写真。

 ソファにはさっきまで誰かがいたと思われる形跡もあった。ここにずっと詰めてるのだろう、毛布と枕が置いてある。

 愛されてんじゃねえかよ。これは、夢から覚めたらちゃんとナオトに伝えておこう。


 次に見えたのは、六歳ぐらいのリオだ。ハルの見せてくれた夢で見た、養い親の夫婦と一軒のバーに入っていく。店には――ナオトがいた。こっちの世界のナオトより若い。

 眠っていたリオが十八歳ぐらいだとしたら、十年以上は前だ。そりゃ若いよな。下手したら今の俺より若いんじゃねえかな。ぴちぴちという言葉が似合う。

 ナオトは夫婦を迎え入れ、がきんちょと呼びながらリオの相手をする。綺麗な銀髪と褒め、綺麗なアメジストと褒めるのをリオは嬉しそうに受け入れている。

 そうか、だから(・・・)ナオトが呼ばれたんだ。

 確か、ハルは『過去にリオが笑顔を向けた相手』を選んだと言っていた。ナオトはリオにとっても特別な相手なんじゃないかと思う。それほど、リオの笑顔がまぶしかった。


 そして夢は唐突に終わる。

 真っ暗な空間にぽかりと一人で浮いている。なんだか以前にも似たようなことがあったな。あの時は真っ白な空間だったけど。

 それにしても、だ。


 今見た夢は、俺とリオのありえる未来、現在の俺たち、過去のリオとナオト、だった。

 やっぱり俺とリオの過去の接点はないんだ。ハルが俺を知らない時点で、過去じゃありえない。

 ハルはリオをずっと見てきたのだ。その目が映すものをすべて。 

 ならば。

 俺とリオの接点は未来にしかありえなくて。

 確定していない未来から俺をここにねじ込める奴なんて――本物の神様ぐらいしか思いつかねえぞ。

 あの時みたいに、どっかから俺を見てんじゃねえのか。


 俺をここに連れてきたのはリオを連れ出すため、でいいんだよな。

 現実に戻るために、戻すために俺を呼びこんだんだと思ってる。

 ハルが連れてきた、過去出会った奴らではリオを引き戻すことができなかった。

 だからか? 俺を選んだのは。

 どうして俺だったのかわからなかったけど、さっき見た夢でわかった。

 俺に向けられた微笑みは、とても暖かくてまぶしかった。


 ともあれ、俺はいくつもある可能性の未来の一つから拾われてきたのだろう。

 どうやって知り合ったのだろう。いや、それも含めて俺はここに呼ばれたのかもしれない。

 この記憶を持ったまま現実に戻れば、間違いなく俺はリオを探し当てるだろう。あの病院の入院病棟の個室にいることは分かってるんだ。

 きっと、リオが目を覚ますまで俺は傍にいる。目覚めたリオはきっと、こっちの記憶を持たないだろう。

 まっさらのリオを口説くところから始めなきゃならねえのは仕方ない。でも、リオを手放すことなんかできない。何が何でも振り返らせて見せる。

 そもそも十歳の少女だと思ってたんだ。八年待つ必要がないのなら、ぐいぐい行かせてもらう。

 記憶があるなら――言葉は要らない。

 ああ、でも。

 記憶が残らないのなら、俺の言葉もリオの思いも何一つ残らないのか。それは辛い。はっきり振られるより相当辛いな。……こうやって想像してるだけで喪失感が半端ない。


 俺が記憶を持たないままに戻ったら――それでもやっぱり喪失感に苛まれるんだろうな。俺は。

 失ったものを探して、求めて――探し出せるだろうか。

 絶対探し出す、と誓った。どれだけの時がかかろうとも。

 

 それで、いいんだよな?

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