15.ナオト
「ほら、言ったじゃない」
ナオトの声が聞こえる。リオが何か言い返している。
ということは、この一寸法師状態はリオの発案なんだな。
俺は壁の裂け目に向かって声をかける。
「当たり前だ。却下に決まってる」
「だって」
「だってじゃねえ。……リオ。俺を守るためにお前が身代わりになるなんて絶対許さねえ」
「でも」
「考えてもみろ。リオを守るために俺が身代わりになって死んで、うれしいと思うか?」
全身が見えねえからわからねえが、たぶん首を横に振ってるんだろう。銀の何かが動いてるのはわかる。
「でも」
涙声になってる。
あーちくしょう、こんな時に俺は何でこんなサイズになってんだよ。
こういう時こそ抱きしめて安心させてやりてえってのに。
それに、泣いてるリオはめっちゃ可愛いんだ。庇護欲をそそるっての?
「それに考えてもみろよ。カミサマに一矢報いることができるなら何でもやると俺は言ったよな」
「うん」
「で、それを聞いてナオトが俺の時を止めたよな?」
「そうね」
うふふ、と含み笑いが聞こえる。ナオト、この状況楽しんでるだろ。ちくしょーめが。
「あら、何事も楽しまなきゃ」
「うるせえ。……だとしたら、だ。ナオトが何にも考えずに俺の時を止めると思うか?」
「え?」
壁の向こうでリオが横を見る。たぶんそっちの方角にナオトがいるんだろう。
「だって、遊人をカミサマから隠さないとって」
「ええ、もちろん。遊人が自由に動けるようになるには、カミサマから見えなくしないといけないもの」
「だから、ちっさく」
「そーねぇ。ちっさくすれば見えにくくはなるわ。でも……カミサマは遊人が死んだことを知らないままになるわね」
だからうふふとか笑うのやめてくれって。なんか発言内容と相まって怖いぞ。
「じゃあ、そうなったらカミサマはどうなるの?」
「そーねえ。……総出で探しに来るかもしれないわね」
ナオトが言ったとたん、どこかで壁を叩く音が聞こえた。
「あら、早いわね」
「……え?」
「ちょっと待て、何が起こってるんだ」
箱の中に閉じ込められたままの俺には何が何だか見えてこない。音の原因は何だ?
「ああ、心配しないで。迎えが来ただけだから」
「えっ、なんで? なんでナオトがっ?」
壁の裂け目からリオが姿を消す。ナオトを追いかけて行ったのだろう。
何とかここから出られないかと裂け目に近よってみる。が、見えない何かが立ちふさがってぺたぺたと冷たい感触だけがある。
「もう少し余裕があるかと思ったんだけどね。……今からいろいろ見たり聞いたりすると思うけど、アタシとリオを信じなさい。そして迷わないこと」
「何のことだよっ、それよりっ」
「悪いわね、遊人。アタシがいなくなったら出られるようにしてあるから。……リオをお願いね」
「おい、ナオトっ」
まるで今生の別れのような言葉だけ残していく。
っていうか、こんな時まで俺をここに閉じ込めたままにすることないだろうが。顔ぐらい見せやがれ。
いらっとして壁を殴ると、ぽっかりと穴が開いた。ちょうどナオトが店の扉を出ていこうとするところで、穴に気が付いたナオトは目を丸くした。
「あら、少しはわかってきたってことかしら。そうそう、ひとつ言い忘れてたわ。アタシが死んだらアンタの時は動き出すから。いいわね。せいぜい『神々の戯れ』を利用しなさい。じゃ、またあとで」
気軽にそう言って、しまいには投げキッスまで投げてよこしてナオトはしれっと店を出て行った。後ろについていたのは青い鎧に身を固め、槍を持った兵士たち。
穴から身を乗り出そうとしたけれど、ここもシールドされていて抜けられない。後ろをついていくリオは、兵士たちが出た直後に扉が閉まって、取り残されていた。
「リオっ」
「遊人……どうしよう、ナオトが、行っちゃった」
俺の覗いている穴に顔を向け、ぺたりと床に腰を下ろす。
「待ってろ。……今そっち行く」
壁の亀裂に戻って、もう一度手を差し入れる。ナオトの言った通り、透明な壁は消え失せていて、ぎざぎざの裂け目から身を乗り出した。
周りは真っ白で何もない。だが。
さっき穴をあけたのが俺の意思なら、俺を受け止めることもできるはずだ。
目を閉じて、俺を受け止めるものを思い描きながら白い空間に身を躍らせた。




