プロローグ
人生は、思っていたよりも静かに過ぎていく。
朝、目を覚ます。
仕事へ向かう。
与えられた仕事をこなす。
帰宅して、部屋の灯りをつける。
「ただいま。」
しんとした空間に響く声。
毎日同じ事を繰り返す。
休日もある。
だが、休みだからといって特にする事もない。
それが当たり前だった。
特に不幸なわけでもない。
だからと言って幸せでもない。
何の為に生きているかわからないまま。
満たされない日々は続いていく。
時々考える。
もし、違う人生を歩めるのなら…
そんな願いを抱く自分を、少しだけ笑った。
違う人生だから何だ。
今さら何かを変えられるのか?
自分で足掻く事もせず、誰かに助けを求める事もせず。
何が変わろうと言うのか。
ただ…
そんな物語のような奇跡があったのならば…
せめて誰かの為に生きる人生を送りたい。
窓の外では、風が静かに木々を揺らしていた。
その音を聞きながら、眠りにつく。
その夜、不思議な夢を見た。
どこまでも続く森。
柔らかな光。
木漏れ日の中を、小さな光の粒が楽しそうに舞っている。
『ようこそ。』
優しい声が聞こえた。
姿は見えない。
けれど、怖くはなかった。
『あなたを待っていました。』
「……どなたですか。」
尋ねると、光は穏やかに揺れる。
『今は、まだ答えられません。ですが、一つだけ。』
『あなたは、優しい心の持ち主です。そして誰かの為に行動出来る力があります。』
「私には、そんな力はありません。」
小さく首を振った。
『いいえ。だからこそ、あなたが選ばれました。』
風が吹く。
優しい光に包み込まれる。
『どうか、恐れないで。あなたは、ひとりではありません。』
その声を最後に、世界が白く染まった。




