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僕は今日も君へのラブレターを食べる  作者: 多田羅 和成


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6/6

過去の傷跡

 転校してきた直矢が隣にいるだけで、奏太は生きた心地がしなかった。


 休憩時間になれば女子を中心に人だかりができ、楽しそうな笑い声が聞こえては体を縮こませる。


 時折感じる直矢からの視線は、隠したい弱い部分を見透かしているようで居心地が悪い。


 何事もないようにチャイムが昼休みを知らせる。


 少し離れた席にいる蓮と一緒にご飯を食べる為、席を立つといきなり左腕を掴まれた。


 触れられた瞬間、その手の主が直矢だと分かってしまう。せめてもの抵抗として目を合わせないようにするも、左手は小さく震えている。


「奏太くん。一緒にご飯食べようよ」


「えっ……」


 直矢の絵画のような微笑みは、拒否を許さない圧を放っていた。


 上手く言葉を紡ぐことが出来ず、金魚のようにパクパクと口を動かす度に、喉が渇いて仕方がない。


 助けてほしいと縋るように蓮の席を見た。すると何故か直矢と話していた女子達が、蓮に話しかけている様子が見える。


 蓮の表情は困ったように眉を下げ、慌てふためいているように感じた。


「彼女達に橘くんとは同じ中学だったんだと話したんだよね。……今行けば奏太くんも色々聞かれちゃうかも」


 ドクンと心臓が跳ねる。あの時から変わらない直矢の灰色がかった青い瞳は、狩りを楽しむ捕食者そのものだった。


 奏太は逃げる気力を奪われ、力なく椅子へ腰を下ろし顔を俯かせる。


「この後学校案内してくれるんだよね? 本当に楽しみだな」


 コンビニのサンドイッチを頬張る直矢は、鼻歌を奏でていた。


 奏太はお弁当に手を付けず、祈るように指先を弄る。しかし、誰一人話しかけることはなかった。


 サンドイッチでは五分も時間稼ぎにならない。奏太は先生から頼まれた直矢の学校案内をしているも、表情は強張っていた。


 すれ違う廊下の人は、最近発売されたゲームの話題で盛り上がっている。


 直矢から見えないナイフを首筋に当てられていることを知らず、楽しそうに過ごしている姿に苛立つ。


 奏太は好奇心の目線から逃れる様に、無意識に人があまりいないエリアへと足を運んでいた。


「ここが保健室だけど基本いないから、先に案内した職員室へ行くことをオススメする」


 保健室前の消毒液の匂いが鼻につく。


 移動教室でしか使わない場所ばかりで人がいないせいか、感情が籠っていない声が普段以上に聞こえる。


 直矢は先ほどから笑顔の仮面を浮かべるだけで、話しかけることはなかった。


 何もしてこないからこそ、逃げたいと脳が指令を出し続けて苦痛を与える。


「もう、いいか? 案内終わったし……」


 奏太はぎゅっと自分の左腕を強く握った。ずっと下を見ていると小さな汚れがあることに気が付く。


 真っ白な廊下にぽつんと存在する汚れは普段なら見過ごすぐらい存在感がないのに、今はその汚れが気になって視線を外せない。


 一分もない沈黙が息をすることすら許さないと責め立てた。


「奏太くん変わったね」


「そうかな」


「うん。中学二年生以来だけど見た目やしゃべり方も変わったよ。どこにでもいる男子みたいだね」


 奏太の喉からきゅっと絞められた音が鳴る。


「ちょっと寂しいな。僕はあの時の君を忘れていないのに」


 直矢の瞳には傷だらけの学ランを着た中学生の奏太が映し出され、死人のような顔をしていた。

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