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僕は今日も君へのラブレターを食べる  作者: 多田羅 和成


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2/6

知らない君の横顔

 白いラブレターに綴られていた「蓮には好きな人がいる」の文字に、奏太は戸惑いから忙しなく目が泳ぐ。


 もしかしたら見間違いかもしれないと何度読み返すも、現実逃避どころかますます実感が湧き、脳にこびりついた。


 衝動を抑えきれないままラブレターをビリビリに破り捨て、乱暴に口の中へと押し込む。


 締め付ける痛みのせいで何も味がしないはずなのに、生理的に受け付けられずえずきが止まらない。


 喉の奥からせり上がった胃液の酸味が、苦味と共に舌へとまとわりつく。


 暴れ出す感情と空気だけを少し吐けば、熱い体がだんだんと冷える。


 冷静になったせいで一気に襲い掛かる疲労感に嫌気を差し、クッキーの缶をいつものロッカーにしまった。


「そろそろ靴箱に行かないと、蓮を待たせてしまう」


 空き教室に居たくないとばかりに周りを見ず、逃げるように靴箱へと足早に向かう。


 待ち合わせの靴箱にたどり着くも、蓮の姿はなかった。


「珍しいな。いつもならもういるはずだが」


 奏太は少し不思議に思いながらも一人で帰る気は起きず、壁にもたれ掛かって一人で待つ。


 気を抜いていると向こうの靴箱から女子達の楽しそうな会話が聞こえ、女子達の笑い声がやけに耳についた。


「恋食い屋って知っている?」


 恋食い屋の話題だと分かると、思わずリュックサックの紐を強く握りしめた。


 聞かない方が精神的にいいと分かりながらも、緊張感から彼女達の会話がより鮮明に聞こえてくる。


「知っているよ! 空き教室のロッカーに置かれた缶があって、忘れたい恋を書いた手紙を置くと、綺麗さっぱり忘れられるってやつでしょ?」


「そうそう。同じクラスの加奈子ちゃんが実際に恋食い屋へ出したことあるらしいだけど、失恋した時はめっちゃ悲しんでいたのに、出した次の日のは恋したことも忘れていたんだって」


「えー! あの子ご飯も食べられないぐらい引きずっていたじゃん。恋食い屋って本当にいるんだ。でも、一体誰がしているんだろうね」


「さぁ? 恋食い屋が誰かは誰も知らないらしいよ。まぁ、私も失恋したら恋食い屋に出してみよー!」


 聞こえなくなっていく声で彼女達が離れていったことを知らせてくれたが、奏太は不安で仕方がない。


 もし恋食い屋が自分だと分かった時に見せる周りの反応を想像するだけで、過去のトラウマを思い出し唇が震えた。


 階段から突き落とされたような浮遊感に苛まれると、力が抜けそのまま転びそうになる。


「おっと! 危ないぜ奏太。朝ちゃんと薬飲んだか?」


 引き留めた腕の衝撃と聞き慣れた声の安心感から、奏太の霞んだ視界がだんだんとクリアになり、爽やかなスポーツ少年が見えた。


「ありがとう。大丈夫だ。ちょっと貧血を起こしただけだから。蓮がいつもいる時間にいないしさ」


「ごめんって! 本当はもっと早く来る予定だったけど、顧問につかまって……。練習試合がもうすぐあるとはいえ、部活後に呼び出すなよな」


「あぁ、なるほど。キャプテンは大変だな」


 足の感覚が戻ってきたのを確認すると奏太はゆっくりと蓮から離れ、少しひきつった笑みを見せる。


 それに対して蓮が何かを言いかけた瞬間、奏太は被せる様に声を出す。


「早く帰ろうぜ。蓮は明日も朝練あるんだろ?」


「……そうだな。でも、ゆっくり歩こうな。奏太も本調子じゃないだろうし」


 蓮の困ったような微笑みに、奏太の心はチクリと鋭い痛みを感じたが気にしないふりを決め込む。


 十五分程度の帰り道なはずなのに、長く感じてしまうのは靴箱の出来事だけのせいではなかった。


 白いラブレターに書かれたあの文字が主張し、楽しいはずの会話に集中することが出来ない。


 聞くつもりもなかった言葉が自然と滑り落ちてしまうことも、全て知らない誰かの恋を食べてしまったせいだと言い聞かす。


「なぁ、蓮って好きな人がいるって聞いたが本当なのか?」


「……えっ?」


 春の温もりを感じる季節に冬の静けさが二人を包み込んだ時、奏太は全てが分かった。


 ほんのりと赤く染めた頬を掻く仕草の意味も、黒曜石の瞳の奥に恋が芽生えていることも、何も知らない他人になりたいと強く願う。


「実はさ、言えなかったけど好きな人いるんだ」


 幼馴染の自分すら知らない蓮の横顔は、今まで見てきた中で憎たらしいほど綺麗で額縁に飾られた絵画のように感じる。


 その時、奏太は勿忘草のクッキー缶に詰められた恋達の想いと本当の意味で一緒になったことを悟った。

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