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終盤の街に転生した底辺警備員にどうしろと  作者: 馬面
第六部07:当事者と統治者の章
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第604話 ヴェル兄を止めろ

「成程な……あの腹黒カルジェが真っ先に動くってことは、お前が城下町のキーパーソンって思われてる訳か」


 どう考えても過大評価だけど、あえて否定はしない。王族相手には自分をどれだけ大きく見せても構わないだろうし。対等とまでは言わなくとも一目置かれるくらいじゃなきゃ情報を引き出すことはできない。


「一応聞いとくが、俺に取り入るつもりでその情報を寄越した訳じゃねーんだな?」


「それはないですね。もしこれから他の王子殿下に会って似たような話になれば『第五王子と第二王子にも誘われた』と答えます」


「だろーな。お前がどういう奴なのかを考えれば当然だ。ジュリアーノを助ける為に、オレたち兄弟から情報を搾れるだけ搾り尽くすつもりなんだろ?」


「……」


 勿論そのつもりだ。そして、この第二王子に関しては俺の姿勢を完全にオープンにした方が良い。そういう性格みたいだし。


「ジュリアーノから娘のことについて何か聞いてるか?」


「はい。国家機密級の」


「なら話は早えーな。あの武器屋の娘はオレたちの実妹だ」


 ま、王族なら知っていて当然。身内の話だからな。


 にしても、御主人を疑っていた訳じゃないとはいえ……こうして王子直々に妹だって話をされると、いよいよルウェリアさんへの認識がお姫様の方に寄ってしまう。今度会った時に今まで通りに接することができるだろうか。ちょっと不安だ。


「一つ聞かせろ。お前がジュリアーノにこだわるのはルールラが関係しているのか?」


「……ルールラ?」


「ああ、そういや城下町じゃ別名を名乗ってるんだったな。ルウェリアだったか?」


 思い出した。ルウェリアさんの本名ってルールラなんたらだったな。全部は覚えてないけど。


「関係ない訳じゃありません。あの親子は二人とも俺にとって恩人ですから」


「下心はねーと」


「ないですね」


 今までにないくらい、第二王子が目に力を入れて俺を睨んでいる。眼圧がヤバそう。


 ……まさかこの人、ブラコンに加えシスコンでもあるのか?


「いいだろう。その言葉、信じてやる。お前がルールラを……悪いな。オレにとっちゃあいつはルールラだからこの名前で呼ばせて貰うぜ」


「承知致しました」


「で、お前がこれまでルールラを助けてきたって報告はオレらのもとにも入ってる。恩人って話だが、その恩を返す為に奔走してるってことで良いんだな?」


「はい。ですけど、それだけじゃありません」


 第二王子の眉がピクリと動いた。でも構わず本音だけを話す。


「俺はあの親子が好きなんです。自分の好きな人が苦しんでいるのは嫌なんで、それをどうにかしたいんですよ」


「……」


 綺麗事。打算。偽善。


 どう思われても構わない。何でもいいぞ。御主人を助けられるなら。


「……ジュリアーノは俺たち兄弟がまだガキの頃にいた近衛兵だから、思い出が幾つもあるって訳じゃねー。それでも礼儀正しく温かい奴だったのは微かに覚えてる」


 そう語る第二王子の目に、追憶の色は見えない。そこに人情が入り込む余地はないと言わんばかりに。


 でもそれは人の心がどうこうって話じゃないんだろう。


「オレたちは王子としての生き方を曲げられねーし、どの口で言ってると思われても仕方ねーが、奴が健康な状態で生き続けられる道があるのなら、それに越したことはない」


 弱みは絶対に見せられない。本心がどうあれ。


 それが王族に生まれた人間が幼少期から身に付けさせられた技術――――そう捉えるのは俺の考え過ぎだろうか。

 

「城仕えだった連中の動きも一枚岩じゃねー。オレたちが正気に戻ったって情報を入手して戻って来ようとしてる奴もいれば、父上やオレたちに愛想を尽かして姿を消した奴もいる。その中に、もしかしたら精霊に詳しい奴がいるかもしれねー。可能なら探し出して話を聞いてみてくれや」


「……いいんですか? もし俺が御主人の呪いを薄める為、凶禍ゲノムを以前の状態に戻そうとしたら?」


「そうならないよう願うばかりだ」


 王族を危険に晒すんだから極刑――――そう脅しても不思議じゃないのに、あえて言葉を濁したことに第二王子の本心が見え隠れしている。


 御主人にだけ呪いを押しつけている現状に、本当は忸怩たる思いなんだろう。屈辱すら感じているのかもしれない。じゃなきゃ大した信頼もない俺に一任しようとは思わない。


 ここまで話をした限りでは第二王子は信頼に足る人物だ。なら俺も彼の矜恃と信念に最大限の敬意を払おう。

 

「ありがとうございます。五大ギルドへの干渉に関しては力になれることは余りないですけど、凶禍ゲノムの解決には全力を尽す所存です」


「いや、お前にしかできねーことがある」


 ……これ以上俺に何をしろと?


「ヴェル兄を止めろ。時間を稼ぐだけでもいい。ヴェル兄の冒険者ギルドへの干渉を、可能な限り遅らせてくれ」


「冒険者ギルドと関わるのが危険、との判断ですか?」


「皆まで聞くな。ヴェル兄のプライドを傷付けるようなことは言えねーからな。だがきっと、弟たちも同じ気持ちだ」


 つまり『第一王子に冒険者ギルドを支配することはできない』って判断を下していると。だから失敗してそのプライドがズタズタになる前に手を打ちたいって訳か?


 いや……違う。


 少なくともこの第二王子は、第一王子の能力を疑っているんじゃないと見た。


「第一王子のブレーンになっている人物が信用できないんですね」


「……」


 どうやら図星か。


 現状、第一王子のブレーン候補からファッキウとジスケッドは外れている。その上で現行の冒険者ギルドを解体してしまっても良いと考えている奴がいるとすれば……


 マルガリータ。


 コレットに冒険者ギルドを託したものの、その後は放置。その上でサタナキアをギルド内に匿うなど危険な行動にも及んでいる。


 彼女の目的は全くわからない。ただ、冒険者ギルド所属だったのに怪しい行動を繰り返している以上、最有力候補にせざるを得ない。


 はぁ……関わりたくない。関わりたくないなあ。


 でも俺が何もしなかったら、いずれコレットがマルガリータと対峙することになるかもしれない。そうなるとあいつ、信頼していた相手に裏切られたって事実を直接本人から突きつけられることになるよなあ。


 あいつの愕然とした顔は何度も見てきたし嫌いじゃない。でも友に裏切られてショックを受けるコレットの顔は見たくない。


「わかりました。できる限りのことはやります」


「頼むぜ。俺だけと組む必要はねーから、弟たちにもテキトーにいい顔してろ」


 他の王子をどれだけ利用してもいいから第一王子のプライドを守れ。そういうオーダーだ。


「俺一人で全部同時に手掛けるのは無理です。城下町ギルド全体で取り組んでも宜しいでしょうか?」


「好きにしろ。手段は問わねー。必要なら正式にお前のギルドに依頼すっからよ」


 おお……まさか一国の王子から直々にオファーされるギルドになるなんて。まるで公共事業を請け負う一流企業じゃん。


 まあギルドが大きくなったとかじゃなくて色々な面倒事に巻き込まれた末の地雷案件なんだけどね。


「さて、堅苦しい話はここまでにしとくか。これからはただの雑談だ」


 ん? まだ何か話すことあるのか?


「ルールラに親衛隊があるって話を小耳に挟んだんだけどよ。本当か?」


 ……シスコン確定だ。思っていた以上のブラコンで思っていた以上のシスコンだった。


「事実ですし、何なら創始者が来てますよ。一階にいます」


「マジか! そいつにもじっくり話を聞かなきゃならねーようだな。じっくりとな……」


 うーん。言葉遣いが荒いだけでマトモな王子だと思ったんだけど、やっぱり一癖あったか。まあでも仕方ないよな。一癖ない人間を探す方が難しいんだもん、この街。


「ルウェリアさんと直接面識あるんですか?」


「城の中じゃまだアイツが赤子の時にあやしてた程度だな。ジュリアーノが城からアイツを連れ出してからは、年に何度か遠くから見守る程度だ」


 どうやらこの第二王子、定期的にお忍びで城下町に来ていた模様。変装とかもしてたんだろう。心配する気持ちはわかるけど、うっすら気持ち悪いな。


「あの武器屋、客はいねーのにルウェリアをイヤらしい目で見る野郎ばっかり何人も来やがって……頭ン中の隅々まで腐り切ったゴミの掃き溜め共め」


 口が悪いですよ第二王子。もっと高貴な身分に相応しく『脳髄全域が腐敗した汚物の成れ果て共め』くらいにしときましょうね。


 それより……今の話を聞く限り、どうやらベリアルザ武器商会の周辺は思っていた以上にややこしいことになっていたみたいだな。


 第二王子的には親衛隊の連中がルウェリアさんを狙っているのが心配で変装して様子を見に来ていた。親衛隊的には、その第二王子の不審者ムーヴに危機感を持って御主人に我々に護衛させて欲しいと訴えていた。


 御主人は恐らくその全てを理解し、相手が王子だったり王子の親友だったりするもんだから追い払う程度で済ませざるを得なかった。


 ……そりゃ俺なんかに護衛依頼するくらい追い込まれる訳だ。よく正気保っていられたな御主人。


「あの子も呪いの被害者だからよ……王族には例外なく降りかかるからな。人間の精霊に対する悪感情で呪いの強さは揺れ動くらしいが、今は精霊との関係は最悪だ。辛い目に遭ってなきゃいいんだがな」


「虚弱体質も呪いの影響なんでしょうかね」


「わからねー。そればっかりはな……」


 単なる一般的な遺伝の可能性もあるだけに、迂闊に断定はできない……か。そりゃそうだ。


 ま、凶禍ゲノムを消滅させることさえできればハッキリする。それまでは過度な期待を持たせないよう、ルウェリアさん本人には黙っていよう。


「それじゃ、お前のツレに話を聞くとするか。一階へ行くぞ」


「はい」


 部屋の扉を開けた先に人の気配はない。あらかじめ人払いをしていたんだろう。


「このエウレ家とは以前から懇意にしてたんですか? 職人ギルドとは無関係ですよね?」


「寧ろズブズブだぞ。このエウレ家、仮面アートに昔から熱を上げてて、職人ギルドにも随分と出資してるからな」


「……はあ」


 俺にとって無関係じゃない事実が発覚したが、割とどうでも良かった。








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