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終盤の街に転生した底辺警備員にどうしろと  作者: 馬面
第六部07:当事者と統治者の章
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第602話 ブラコンですね

「来たか。早かれ遅かれ来るとは思ってたけどな」


 第二王子アグァンテンダントは如何にも貴族らしい無駄に広い部屋でこれまた貴族らしい無駄にデカい屋根付きベッドの上で変なポーズをとりながら俺を待ち構えていた。


 具体的には両手首が反り返って外を向き、一方は頭上に掲げもう一方は腰に当てている。足はかなりタイトに胡座をかいているし、まるでヨガだ。


「本日は俺の為に時間を下さり誠にありがとうございます」


「いーっていーってンな無駄な挨拶は。オレは本音で語らうタイプなんだよ。メルピーやカルジェみてーな腹に一物抱える奴らと同じ扱いすんじゃねー」


「……失礼致しました」


 確かにそういうタイプって印象はある。俺が一番苦手な相手だ。


 お互い本音でぶつかり合う……って言葉面は良いけど、それだと結局立場の弱い人間、背景の薄い人間は打つ手がなくなってしまう。工夫のし甲斐がない交渉ってどう持っていけば良いかわからないんだよな……


 ま、泣き言はこの辺にしておこう。やるしかないんだ。


「ではあらためまして、アグァンテンダント様。昨日俺は第四王子、今朝には第五王子と話す機会を得ました」


「腹括ったか。いーじゃねーか。話がわかるヤツは嫌いじゃねーよ」


 なんて言いつつ、圧力を緩める気は全くないな。俺への警戒心は他のどの王子よりも強い。


「昨日はメルピー、その前はヴェル兄とも話し込んでるんだったな。ヴェル兄には大層気に入られてるみてーじゃねーか」


「……ありがたいことに、友人との言葉を頂いています」


「ヴェル兄は娼館の倅とやけに親しくしてたからな。そいつがいなくなって寂しい思いをしてたところに、お前が現れた……ってトコか」


 何それマジやめろや! それじゃまるで俺がファッキウの代わりみたいじゃねーかフザけんな!


「お、不服だったか? そうツラに書いてんぜ」


「……その倅とは少しやり合ったことがありまして」


「報告だけは聞いてっけどよ。一体何があったんだ? あの倅、冒険者ギルドの選挙で候補を擁立してたんだろ?」


 まさかファッキウの話題に食いつくとは……いや、寧ろあいつの話を聞く為に俺を部屋に通したのか?


 精霊の隠れ家では殆ど会話がなかったから、この第二王子の人となりは正直把握できていない。雰囲気は豪快だけど中身は割と真面目……ってイメージくらいだな。それも何となく程度の根拠でしかない。


 とりあえず、ファッキウのことを話してみるか。


「では全てお話します。俺と奴の因縁について」


 ……と言ってはみたものの、もう結構前の話だから実はあんまり覚えてないんだよな。


 えーっと確か最初は……


「あれは俺がベリアルザ武器商会で世話になっていた頃の話です」


「その武器屋も知ってはいる。暗黒武器専門なんて悪趣味な店がよく存続できてんな」


「……」


 おい。今なんつった?


 テメーらクソ王族の尻拭いさせられて命を落としかけてる御主人の武器屋をバカにしやがったのか?


「なんだ? 気に触ったのか? だが悪趣味なのは確かだろ。オレは前言撤回などしないぞ」


「……その店にファッキウが訪れて、彼がその武器屋の看板娘に対し卑猥な言動を繰り返したことに端を発し不和が続いています」


 落ち着け。ここで俺が憤っても何の得にもならない。


 今は御主人の命が助かる方法の模索だけを考えろ。その為にはこの王子の持つ情報だって必要だ。


「……フン。如何にも娼館の倅がやりそうなことだ。あの男は昔からそういう奴だった。顔が良いだけで中身はクズだ。なんであんな奴にヴェル兄は友情を感じているんだ。オレには全く理解できん」


「ヴェルンスンカノウス様とファッキウが懇意にしていることに納得できないと」


「当然だ! ヴェル兄は次期国王なんだぞ!? そんな立場にありながら先日も娼館に自分から赴きあの男を探そうと躍起になって……ヴェル兄にはこの国を背負う覚悟が足りん!」


 一見すると、兄の愚行に腹を立てているその姿は兄弟仲に亀裂が入っているようにも思える。


 でも多分違うな。兄への激重感情だこれは。


 この世界に来て何度も見てきた。他者に対して過剰な思い入れを抱き、時に常軌を逸した言動に走る人々の血走った目を。この第二王子もまさにそれと同じ目だ。


 これを利用しない手はない。


「……アグァンテンダント様は本音の言葉をぶつけ合うことを御所望かと存じますので、あえてお聞きします」


「何をだ? 言え」


「ヴェルンスンカノウス様が俺を友と認めたことに、何か裏を感じているのでは?」


 ――――これは第一王子本人には聞けない問い。いや他のどの王子に聞いてもはぐらかされるだろう。


 でも第二王子だけは本音で答える筈。自分の言葉を曲げる訳にはいかないだろ?


「……わかるか」


「俺に対して良い感情を抱いていないのは明らかですから」


 先日のティシエラ女神杯の時からそうだったからな。俺自身に対してってより、第一王子に近付く胡散臭い奴って認識をされているとばかり思ってたけど……今日の感じだと俺個人への強い関心を感じる。それも悪い意味の。


 となると、第二王子がさっきから憎しみを隠そうともしない相手――――ファッキウと関連付けるのが自然だ。


「ならばオレも前言に従い本音を晒そう。オレはファッキウという男が嫌いだ。反吐が出るほどな」


「わかります」


「わかるか! お前、見所あるじゃねーか!」


 ……まあ、これは別にこの第二王子に取り入ろうとか忖度しようとかで言ってる訳じゃない。マジであいつ嫌いだからね。仕方ないね。


「気持ち悪りーんだよあいつ……昔からヴェル兄に気安くしやがって。次期国王相手にヘラヘラするあの顔を見る度に虫酸が走りやがる。身の程知らずのクソ野郎め」


 王子全員が漏れなくイケメンとあって、この第二王子はファッキウへの顔面コンプレックスは一切ない様子。その上でこの憎みよう……


 ブラコンですね。


 同性の兄を対象としたブラコンはちょっとキツいなあ……兄弟愛って言葉を見るとなんかゲンナリするんだよな俺。性格が歪んでるんかな。


「だからヴェル兄がお前を気に入ったって話を聞いた時、真っ先に思ったのは『ヴェル兄はお前を利用してファッキウの居場所を突き止めようとしている』。これさ。お前がファッキウとやり合っていたって話は既に小耳に挟んでいたからな」


 多分、俺には一ミリも興味なくてファッキウの動向を探っていた時に入手した情報なんだろな。怖い怖い。


「勿論、逆にお前がヴェル兄を利用しようとして取り入ったって可能性もある。だがヴェル兄はそんな輩とこれまで何度も対峙してきた。今更そんな底の浅い奴に媚びを売られてそのまま受け入れるとは到底考えられねーのさ」


 このブラコンが……!


 第二王子の盲目的な推察はアテにならないけど、彼が俺をうっすら目の仇にしていた理由はこれで判明した訳だ。


 それなら話は早い。第二王子にはファッキウの動向を探って貰うことにしよう。


「僭越ながらアグァンテンダント様」


「ダントで良い。近しい奴は皆そう呼ぶ」


 近しくないんですが俺……まあいいや。面倒だし希望に沿おう。


「ではダント様。ダント様はヴェルンスンカノウス様がまだファッキウと合流できていないとお考えなんですね?」 


「ああ。間違いない。もし合流してたら俺たちに包み隠さず話すだろーよ。隠そうとしても隠しきれずに態度や言動から滲み出るもんだ。兄弟ってのはそれを汲み取っちまうのさ」


 若干怪しいし気持ち悪いけど、一応身内の言葉だし信じよう。


 ってことは、第一王子の後ろ盾になっている人間はファッキウ本人じゃないってことになる。


 俺はてっきり合流済みだと思っていたから、これが事実なら結構厄介だ。


 ファッキウが冒険者ギルドを牛耳ろうと目論んでいたのは間違いない。わざわざギルマス選挙で候補者を立てたくらいだからな。


 それが叶わなかったから、今度は別の方法で冒険者ギルドの支配を目論んでいる――――とすれば、今回の王子たちの暴走はまさにドンピシャ案件。その上、冒険者ギルドの支配を目論む第一王子は古くからの友人ときたもんだ。ここで手を組まない理由はない。


 なのに接触をしていないとは考え難いから、第一王子に口止めしていることも十分考えられる。でもそうじゃないと第二王子は言っている。


 だとしたら……


 第一王子じゃ冒険者ギルドを支配できない、って思ってる?


 別の有能な王子と組んだ方が、より確実に冒険者ギルドを手中に収められるという考えかもしれないな。


 或いは王子本人じゃなくその背後にいる勢力――――ブレーンが優秀だから、そいつに付いた方が良いって判断もあり得る。


 イマイチ絞りきれないけど、要は優秀な奴を味方に引き入れたいっていう算段だ。


 元々奴はルウェリア親衛隊の一員だった。創始者はアクシーって話だったけど、今にして思えばあのファッキウが既存の組織に与するって妙だよな。あいつなら絶対自分が発起人になるタイプだし。


 それでも与したのは、ルウェリア親衛隊の中に味方に引き入れたい人材がいたからだ。人材集めに腐心していると考えれば今回の件も辻褄が合う。


 奴は恐らく、五大ギルドを除いた中で城下町最大級の規模を誇る勢力を取り込もうと目論んでいる。そうすれば、冒険者ギルドを支配することができると。


「ダント様は、五大ギルド以外で最も手強い勢力は何処だとお考えですか?」


「勢力……? ああ。オレたち王子による支配競争の鍵を握りそうな勢力ってこったな。このエウレ家……と言いたいところだが、そうは言えん。オレは正直だからな」


 第二王子は暫し虚空を見つめ熟考したのち――――


「震撼王ゲシュタリア率いる野良精霊軍か、ジュンジョアーナ教団だ」


 最悪と地獄の名を口にした。







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