第66話 誰がなんと言おうと俺はあの人を信じる
守の望んでいた戦争時代に散っていった兵たちの墓参り及び自身が召喚された時の召喚陣を見に行くという二つを実行する当日
守がアナトと現地へと向かう前に守には一度、宮殿のヴェルヘルムがいる王間へと招集をかけられる
守が王間に行くと王座にいるヴェルヘルムの他にアディリシアとアキレウスが神妙な顔つきで構えているのであった
「守くん、こんな朝早くから呼び出してすまんのう」
「いえ、それは全然構わないのですが、何かあったんですか?それに同行するアナト姉は呼ばれていないようですが…」
「父上は心配事があるから守を呼んだのだ」
「心配事?俺が教会に出向くってなりゃあ、そりゃ確かに懸念はあるだろうけど、一体どうしたのですか?」
「うむ。実はのう、守くんの希望を聞いてから、あちらに掛け合ったものも承諾をえるまでにこんなに期間が空いたこと、話を持ちかけた時はとても嫌そうにしていた態度が承諾後ではむしろ守くんを歓迎するかのような態度に変わっていたことが怪しくてのう。何か起こるといけないとアキレウスに持ちかけて裏がないか調べさせていたのだ」
「すぐに行動に移ったが、さすが守の天敵ってだけあってこれがなかなか難航してだな。核心にいたるまでの情報を手に入れることはできなかったのだが、かなり怪しい情報を入手できたんだ」
「怪しい情報?」
「ああ。実は司祭のグラントが最近守が召喚された魔法陣の周辺を行き来していると目撃情報が出ているらしくてな。厳重な警備のため直接現場に入れてはないが、なんでもグラントだけでなく、ハワード家の連中の姿も確認できているらしい」
「あの魔法陣には最早効力はありませんので、何かをしようにも無意味です。行動が読めないのですが…守様には注意をしていただきたいと思いまして…」
「(まさか…)いや、多少ではあるが行動は読めるぞ。グラント司祭やハワード家にとって俺はとにかく邪魔な存在なはずだから今回の機会をまず逃すはずがない。明確に何をするかまではわからないが、注意はしておくよ」
「守を囮にするわけではないが、その邪な計画が明るみにできれば、悔しくも前回はできなかったが、今度こそあいつらを潰すことができるかもしれない。だが、今回はサポートが少ない。無理はすんなよ」
「最近アナト姉に皮肉を言われたばっかだからな。無理はしないが、遅れを取ることもないだろうさ。ところでサポートが少ないというのは…」
「それでじゃな…非常に申しにくいのじゃが、ひょっとしたら守くんはうすうす感づいておるやもしれぬが、アナトくんとグラント司祭の繋がりも目撃されておってじゃな…」
「正直俺も仲間を疑いたくはなかったが、アナトは仕事という意味でもあの教会に出入りしている。今までにあちら側に大きな動きがあれば、あのアナトが気づかない筈がない。それならば、報告がこちらにあったはずだが、アナトからは一切なかった。こちら側の人間として守と行くはずだが、アナトにも気をつけてくれ」
「あ〜この場に呼んでないのはそういうことね。ま、アナト姉のことだから大丈夫だろ」
「…いいか、守。俺だって本心で疑っているわけではないが、いつものイタズラとはわけが違うんだ。親友に何かあれば…」
「聖騎士団でアナト姉の何を見てきたんだか…。言うまでもないと思うが、この世界にきて俺の何もかもを見てくれたのは、アナト姉なんだ。裏で何を考えているのかは読むことができない人だが、常に最善を考えている筈だ。誰がなんと言おうと俺はあの人を信じる」
「…そうだといいんだがな。最悪なケースで英雄同士がかちあえば、他にも多大な被害がでる。俺はここの王子として他に被害を出すことを避けなければならないからな」
「…ああ、分かっているさ。最悪何かあったとしてもこの国に迷惑はかけるつもりはないさ。もし迷惑をかけるようなことがあれば、その時はお前が俺を裁いてくれ。…では、行ってきます」
守とアキレウスはお互いに瞳の奥にある譲れないもの同士を確認したかのように強く見つめあいながらやり取りを交わし、視線を逸らすと優しい口調でアディリシアとヴェルヘルムに挨拶してその場を去る
「…守様がお怒りになられているのは珍しいですね」
「ま、俺が上辺だけとはいえ、アナトを信じきれていなかったことに対する憤りだろうさ。それは俺も反省している」
「じゃが、アキレウスの立場も理解しているからこその憤りなのじゃろ。お前の親友を思う気持ちを察しているからこそのあの言葉じゃろ?」
「…ああ。こういう時は王子っていう立場が憎いもんだ」
宮殿から出た守は、アナトと合流するために、屋敷へと戻る
そこにいつでも教会へいけると言わんばかりに、屋敷の前にアナトがいるのであった
「あら、要件は終わったのかしら♪」
「ああ、待たせたようだね。ちょっと色々心構えしたけど、覚悟は決めた。…行こうか」
「やれやれ…今からそんな怖い顔だとお姉さん心配だわ…」
二人が今から向かおうとしている場所は、アストン皇国の宮殿からかなり離れた場所に位置する教会である
ヴェルヘルムの命の全てを受けなくても良いというアストン皇国内でもかなり特殊な待遇のこの場所は、死者の管理や様々な理由から行き場をなくした人たち面倒を見るといった仕事を行なっており、現在は司祭のグラントがトップとして取り仕切っている
仕事はこなすが、変わった信念を持ち、裏ではよくないことをしている野心家と元々良い噂がないグラントであるが、嘗てこの世界のためだと守とジャンヌの仲を崩す事件を起こし、守が単身で教会関連者を攻めたこともあり、二人の仲はかなり険悪なものとなっている
「やあ、アナトくん。…それとクソ大魔法剣士くん。本日は、よくきてくれたものだ。できれば二度とその面を見たくはなかったが…まぁ理由が理由のようだから歓迎は致そう」
「快い歓迎どうも。一体どんな悪巧みを起こそうとしているか知らないが、あんたらだけは全力をもって相手するからな」
「悪巧み?よくわからんな。しかし、余裕で居られるのも今のうちということだけ話しておこう。なんせいずれ君を必ず消すのだからな」
「やれるものなら」
「まぁ〜まぁ〜二人ともそんなに殺気をぶつけあわないの♪守も今日は目的が違うでしょ?早くみんなに顔を見せに行きましょ♪」
「…そうだった。今日はずっとあんたが俺を監視してるんだろ?お互いそんなに顔合わせしたくないんだ、早く案内してもらおうか」
「クッ…相変わらずアナトくんはそいつよりのようだな。…戦死者どもの墓参りだったな。それならばこっちだ。道中他のものに触れるなよ?異世界人」
先の大戦で散っていった者たちが眠る墓は教会の奥を登っていった場所に建っている
オリビア家のランスのように身元が分かっている戦死者たちは、それぞれの引き取り人が個々で死者を扱っているため、墓といっても戦死者たちが個々に埋葬されているのではなく、身元不明者たちを纏めた特別な墓が設けられている
「これが、大戦での身元不明者たちが眠っている墓だ。最初で最期の墓参りだ、好きにお参りするといい。空気を読んで、少し席を外してやろう」
「そいつはどーも」
空気懐から事前に用意していた花束を取り出し、守は一人で墓の前に立ち述べる
「みんな、久しぶりだね。と言っても全員と顔を合わせたわけではないから、お前だれだ?ってなる方もいるかもしれませんが、聖騎士団魔法剣士・聖守です。ジャンヌやアナト姉、アキレウスは戦後すぐに来ていたのにも関わらず俺だけ時間がかかってしまってごめんなさい。三人から既に聞いているかもしれませんが、本日は戦が無事に終わったことを報告に来ました。先日、皆んなを引っ張っていたランス隊長の元にも行って、話をしてきましたが、家族のため、希望のため、平和を勝ち取るために諦めずに一人一人が尽力した結果今が生まれました。本当にありがとうございました。まだまだ途中ではありますが、戦で共通の敵を倒すことで生まれた絆により、多種族と人族の交流も盛んになってきています。ですので、今後テスタオロスを大きく乱すようなことは起こらない筈です。みんなが勝ち取ったご存命の家族の笑顔や緑豊かな大地を暖かく見守りながらどうかゆっくり休んでください」
いい終えた守は、花束を墓に添え、しばらく黙祷をするのであった
守MVP編に入り、最初は墓参りまででした。ここからの数章は、ちょっとシリアスな方向にいきます。




