第35話 愛なら仕方ないね
アディリシアとのデートを終えた翌日の登校日、昨日の件で少しムスッとした表情のニースを側に控えさせている守は朝までの問い詰めで倒れそうなほどの寝不足に悩まされるのだった
「あー…ニースさん?俺と同じく朝まで起きていましたが、その…眠たくはないのでしょうか?」
「眠気など怒気でどこかに飛んで行きました。何でしたらこのまま学園には向かわずに昨日のお話を続けてもよろしいのですよ?」
「あはは…遠慮しておくよ」
「まさかあの時の骨董品店にそんな魔法具があったなんて…。姫様も抜け目がないものです」
「いや〜俺も見事にやられたんだよねー」
「守さんっ?私はお話だけで済ましましたが、元恋人さんとストーカーさんはどうなるでしょうかね」
「学園に行っても行かなくても大変ということか…なんという前門の虎後門の狼」
問い詰められるのは時間の問題と諦めた守は学園へ向かうこととする
小言が続いているニースを連れ寮から出るとそこには、今最も一緒にいてはいけないであろう人物が守を待ち構えているのだった
「ファッ!?」
「お待ちしておりました守様」
「おはようございます、姫様。昨日はさぞ幸せなお時間を過ごされたようですね」
「はい♪ご覧の通りです」
「ぐぬぬ…なんて屈託のない笑顔なんでしょうか。指輪のように笑顔も輝いて見えます」
「いやいやいや…ペアで登校しちゃったらもう終わりじゃん。言い訳考える時間もないじゃん」
「昨日より言葉だけではなく、形として守様の所有物となったわけですので、これからは毎日お迎えに来させていただきます」
「…唯一二人っきりで行動できていた幸せな時間まで侵食してくるなんて…なんて恐ろしい姫様なのでしょうか」
入学当初はアディリシアも共に登校していたが、最近では皇国業務に追われていたために学園近くで合流するパターンが多く、アディリシアの宣言にニースは心底残念がる
「ニースの中では一緒に生活してるのは行動の範囲ではないんだな…(ボソッ」
ニースとアディリシアが牽制し合っている中に巻き込まれたくない守は聞こえないように小声で突っ込む
アディリシアがいることに対して諦めの姿勢を見せた守は右人差し指を隠しながら登校するが、学園に近くにつれてアディリシアの右人差し指についている赤い指輪に人々は目をやりざわざわとしだすのだった
「おっはーよっ!!今日はいつにも増して噂されてるけど…って!?」
「どうしたのじゃ、ジャンヌ?そんなアホヅラをさらしてぇっ!?」
「そういうジルさんもですわよっ!?」
ジャンヌ、ジル、エリカと次々と守の元へ集まっては、アディリシアの嵌めている指輪を見て固まる
「まままま、守ぅ!?アレは絶対そういうことだよね」
「ナンノコトデショウカ」
「ええいっ!!その隠してる右手を見せるのじゃ」
「やめてくれー!!」
ジャンヌとジルは二人がかりで守の左手を取り上げる
そして現れた守の右人差し指に嵌めてある青い指輪に周辺含めアディリシアとニース以外の者の驚愕の声が鳴り響く
「あはは…あのですねー…これはですねー…」
「見ただけでわかるのじゃ。これは呪いの魔法具なのじゃ。死ぬまで外すことはできぬ」
「さすが吸血王女のジルさんですね。魔法具についてもお詳しい」
「こんな時ばかり褒めても微塵も嬉しくないのじゃ…」
「ずるいずるーいっ!!私と恋仲の時にはこんなのもらったこともなかったじゃん!!」
「いやーあの時は戦争中だったわけですし。勿論当時はそのまま関係が続いていたらいつかは…て思っていたけども」
「じゃあ今現実にしようよ!!」
「だが断る」
「ガーンッ…」
「しかし…」
「ですわね」
「うん?どうしたの?二人とも」
「確か昨日はアディリシア様のMVP利用日でしたわ。それで後に形で残せる物をお願いしてもいいことがわかりました」
「つまり、我にも同じようなことを迫ってもいいというのが証明されたわけなのじゃ」
まだ後ろにMVP利用日を控えているエリカとジルはニヤニヤとジャンヌとニースを見ながら言う
「そんなのダメですよっ!!」
「そうだよっ!!ずっこいよ」
「この国の代表が始めたことなのじゃ。幸いなことに吸血一族の準備は万全。守以外入れるつもりもない。引き込めばこっちのものなのじゃ」
「うむむ…ぜっ〜たい、絶対に左の薬指だけは何もつけちゃダメだよ守?」
「…さすがにこの歳で娶る気はないからな。今回はこの国の風習に疎かった俺がアディリシアの戦略に負けただけだ…」
「そんな…昨日の"この国の…"」
「わーわーわーっ!!とにかくだ。アディリシアに結婚を迫っていた貴族連中も多数いたらしいし、国のためにも貢献しているんだぜ?」
「そうやって言われるのはずるいですわ」
「国のためになんて言われたら何も言えないですもんね」
「それにしてもこういう事に対して敏感そうな二人がいないのは珍しいのじゃ」
「アナトとメイちゃん?確かに守関連の大事だから食いついてきそうなのにね」
「アナト姉にはどうせ王宮関連の誰かがリークしてるだろうさ。それよりもめんどくさいのが絡んでこないのが逆にしんどいとは…」
騒動は収まりきらないが、あまり触れたくない守は女性陣の会話に少し絡んでは無視を決め込みつつ教室へ向かう
教室の中では外の騒動に目もくれなかったメイが既におり、守を見つけるなりいつもテンションで飛び込んでくる
「ま〜も〜る〜様っ♪今日も愛しのメイがお迎えいたします。それと姫様以外の有象無象にも一応挨拶しておきます」
「あいかわらず余分な言い回しですわ」
「外であれだけ守様関連のことで騒いでいたのに、メイさんにしては落ち着いていますね」
「指輪のことですよね?存じています。そこの駄メイドは朝まで守様に問い詰めていたようですが、私はアクセサリーが増えた程度で文句など言いません」
「ストーカーにしては珍しい…。うん?なんで朝までニースと話していた事を知っている?それよりも指輪のことはいつ知った?」
「はぁん。珍しく守様から質問攻めに合ってます」
「御託はいいから説明しろ。まさか昨日尾行していたんじゃないだろうな?」
「さすがの私もお相手が姫様では不敬罪に当たりますので、そんな行動は致しませんよ。これでも三大貴族筆頭ですので」
「どの口が言うのじゃ…」
「姫様と大魔法剣士様のこの国ビッグな組み合わせが街へ来ていたのです。あれだけ賑わっていましたら嫌でも目に入りますよ」
「あの時街にいやがったのか…もしかして指輪のことは骨董品店の店主に聞いたのか?」
「ご名答です。元々ご贔屓にしていたお店というのもあったので、店主に尋ねたらすんなり教えてくれました。さすがにその場では少し発狂してしまいましたが、姫様の目的も読めていましたので大丈夫なのですよ」
「で?王宮から帰ってからならストーキングしてもいいと思い込んで、情報収集のこともかねて俺の部屋の近場で張っていたってところか?」
「愛ゆえにです」
「愛なら仕方ないね」
「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜ってなるかっ!!」
「…なんですの?それは?」
「いや、あまりの眠たさに変な引き出しを開いてしまっただけだ…気にしないでくれ」
「ま、事前に知っていれば、そこの泥棒猫'sのように後から発狂する事もないということです。情報収集の速さであなたたちの愛の程度が知れたという事ですね」
メイの挑発に対し、アディリシア以外の女性陣がぶつぶつといい当たり、言い合いとなるのだった
「(結局いてもいなくてもうるさい存在だよこいつは…)」
講義の時間が近づき、また昼にとジャンヌとジルは自室へ戻っていく
それとは入れ違いに、ニヤニヤ顔が収まりきれないアキレウスが教室へ入り、守とアディリシアのことを惜しげなく広めるのだった
「え〜まっ。そういうわけでアディリシアに手を出したければ、そこの大魔法剣士から奪うように」
「余分なことを言うなっ!!」
この二人のやりとりでアディリシアファンの男子生徒は心で涙を流しながらこの先の妄想を諦めるのであった
知っている人は知っているネタをいくつか挟みつつ、アディリシアと守の関係性を周知させる回でした。もう少し学園パートを書いて、エリカの方へ移りたいと思います。




