其の7
「何してるツンデレ。早く脱げよ。それとも1ターン目でリタイアですかぁ~~? 別にいいですよぉ~~? 俺に一万円が振り込まれたままになるだけだし~~」
俺が目一杯憎らしい顔で見てやると、
「この……!」
ぴきっと水崎の額に青筋がたつ。
「分かったわよ……! 脱げばいいんでしょ……!」
水崎は潔よくセーターを脱いでシャツ姿になる。
『ねーちゃんいろっぺーなー! ひゅーひゅー!』
ジンくんがはやし立てている。どこでこうなったのか宴会気分全開である。
「うぅ……。ジンくんが全然可愛くない……」
幼い頃の思い出が汚されでもしたのか、菊が眼の幅涙をどばーっと出していた。
「ちっ。まだ下があったか。冬で良かったなツンデレ」
「くっ。あんたって奴は……! いいわ、この挑戦受けて立とうじゃない……! 借金地獄に落としてやるわよ……!」
どうやら火がついたらしい。これは面白くなりそうだ。どちらが上かということを今一度見せ付けてくれよう。
「次は廉人の番だな」
「お、おお」
廉人がルーレットを回す。
『4!』
「えーっとゴールまで異性の服装を着る……だと!?」
『ブフゥゥゥウ!?』
女性陣がなぜか顔を赤くして吹く。
「おっとなぜか良いところにフリフリスカートのドレスが」
俺が真っ赤なドレスを取り出すと、サアーッと廉人の顔が青くなる。
「くふふ」とにじりよる俺。
「や、やめ……! ギャアアアア!!」
◇◇◇
ちーん。
「覚えてろ……この屈辱……絶対に……ぶつぶつ」
赤いドレス姿で床に倒れている廉人を捨ておいて俺は菊をびしりと指さす。
「次だ、菊!」
「は、はい! 桜咲菊いきます!」
『8!』
「8マス進んでえーっと……」
菊が止まったそのマスに『亀甲縛りで「もっといじめてくださいご主人様」と叫ぶ』と書かれてあった。
「な、なんで罰ゲームマスはこんなに変態チックなものばかりなんですか!」
さすがの菊も涙目になって俺に文句を言う。どうやらこれはノリで解決できないらしい。
「うるさい。縛られろ」
俺はしなるロープを両手で引っ張ってぴしっと鳴らした。
「きゃー! こないでくださーい! 汚されるー!」
「あっはっは! よいではないかよいではないか!」
「たーすーけーて!」
しばらくして
「うっうっ。もうお嫁にいけない~」
そこには亀甲縛りで床に転がった菊っちの姿がそこにあった。
「ほら菊っち~! カメラに向かって叫んでみな~!」
「ってなんでPCで撮ってるんですか!? やめてくださいよ!」
「いや、だってせっかくだしもったいないじゃないか」
「真顔で応えないでください!」
「不遇だわ。なんて哀れなの……」
エリが可哀想にとばかりに縛られている菊から目を反らした。
「さっさと言わないとずっとそのままだぞ~」
「うっうっ……。もっといじめてくださいご主人様ぁ……うぅ……」
涙を流しながら菊が小さく呟いた。
「もっと大きな声で!」
「もっといじめてくださいご主人様!」
半ばやけくそになった菊は顔を真っ赤にしながらPCに向かって叫んだ。
「はい、いただきましたぁ。わーい、家宝が増えた、わーい、わーい!」
子供のように喜ぶ俺。
それを見た菊は俺を恨めしそうに睨みつける。
「うぅ……鬼! 悪魔! 変態! 覚えておいてくださいよ! 必ず仕返ししてやりますから!」
「ほう面白い。謀反か。くっくっく、やれるもんならやってみるんだな」
俺は両腕を組んだまま菊を見下ろす。
どうやらまだ調教されたりないようだ。次期に知るだろう。どう足掻いたところでこの新谷樹には勝てないということが。
「さあて次は……! 俺のターン! ドロー!」
俺はどこかの王様の真似をしながらルーレットを回す。
『1』
「ぷぷ1だって! あんたゴールする気あんの? これじゃあ賞金はいただきね!」と含み笑う水崎。
「なに勘違いしているんだツンデレラ」
「へ?」
物怖じしない俺を見て間抜けな声をだす水崎。
「俺のターンはまだ終わってないぜ! 1のマスは特殊カード購入マス! このマスは持ち金のある限り特殊カードを追加購入することができる!」
「……追加購入……!?」
元ネタを知っているらしい廉人が合いの手を入れてくれた。さすが俺の数少ない友人だ。
「さあいくぜ! 購入! 特殊カード!」
俺は二千円を支払いカードをひいた。
「購入! 特殊カード!」
さらに三千円を支払い特殊カードを購入する。
「購入……! 特殊カード!」
さらにさらに俺は五千円を支払って特殊カードを手に入れる。
「もうやめろ! お前の金は0だぞ!」
フリフリの赤いスカートを揺らして止めに入ってくる廉人。正直キモいから抱きつかないでほしい。数少ない友人だろうがなんだろうが、キモいものはキモい。
「フ。バカめ。ここからだ。持ち金はなくなったが、この三枚の特殊カード……! 次のターンから俺の本領が発揮される! 特殊カードの恐怖に怯えるがいい! はぁーっはっはっはっはっはっは!」
「はいはい。次は私の番ね」
大笑いする俺を放ってルーレットを回すエリ。
くぅ……! まったくもってマイペースな奴だ……!
『9!』
「ふふん。いい滑り出し……ね!?」
エリは止まったマスに書かれているものを見てカッと目を見開く。そこに書かれてあったのは――
「ゴールするまで猫真似!? 語尾に『にゃ』をつけろ!? なんなのよこれ!?」
「おい。さっさと人間やめろ」
「くっ……!」
俺は人間をやめるぞ、(ピー)!のような状態に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる彼女。
しかし何か悟ったらしく。彼女はすぐに冷静さを取り戻し、無言ですとんと席に座りなおす。
クソ! こいつゲーム終わるまで喋らないつもりか……! それじゃあ意味がない!
「おい、エリたん。なんか喋ってみろよ」
「…………」
目を閉じつーんと無視状態のエリ。
「チ。黙り込むとは……。お前の国家に対する誇りはそんなもんか、橘さん」
ぴくっ!
彼女の眉が一瞬跳ね上がる。
「橘さん?」と水崎。
「橘さんって?」と菊。
「橘さん……ですか?」と先輩。
「橘……さん?」と廉人。
全員が橘さんの方を見た。
どうやらエリの奴、日本姓までは名乗っていなかったらしい。
「あー、この人ハーフらしくてさ。本名はエリ・F・橘なんだよ。みんなからは橘さんって呼ばれて親しまれているんだ」
『そうだったんですか、橘さん』
全員にそう言われ、エリの顔が紅潮する。
「~~~~っ!」
腕を組むその手がぷるぷると震えていた。
「ほう、耐えるか。なかなか頑丈な心だ。口を開けば楽になれるものを」
それが彼女の我慢の限界だったらしい。
「~~っるさいニャ! さっさと進めるニャ!」
瞬間。
「ギャハハハハハ! ひぃーっひっひ! あのエリが……! ニャって! 今ニャって! ゲラゲラゲラゲラ!」
ばしばしとテーブルを叩く俺。
「殺すニャ……! こいつ絶対に殺すニャ……!」
エリは憎しみのオーラを漂わせていた。
「それでは私の番ですね」
先輩がルーレットを回した。
『7!』
「あらまあ。4番目の方にひざまくらで耳掻きだそうです」
「やった俺だ! せんぱーい!」
俺はかの大泥棒三世のように先輩の胸に飛び込んでいった。
すっ。
どがん!
すると先輩が俺を避け、俺は壁に顔をうちつけてしまう。
「せ、先輩……な、なんで避け……」
「すいません、急にこられたので反射的に」と苦笑いな先輩。うむ困った顔も可愛い。
先輩は絨毯の上にぺたんと女の子座りするとどこからともなく耳掻きを取り出した。
「はい、どうぞ、新谷くん」
「ごろにゃーん」
俺は甘えた声で先輩の白く綺麗なふとももに頬すりした。
「あらまあ。くすぐったいわ、新谷くん」
くすくすと笑いながら耳かきを始める先輩。
「……なんだかスッゲーむかつくわね」
「何でしょうね~、このイライラ」
嫉妬でもしているのだろう。水崎と菊は青筋をたてて俺を見ているのだった。




