其の6
夜。俺たちはリビングに集まっていた。
「さあ楽しいレクレーションの時間だ! わくわくどきどきスーパー双六タイム!」
俺はばさっと大きな真っ白な紙をテーブルに広げた。そして俺がスイッチを押すとその上にホログラムが浮かび上がる。
「お! 人生ゲームか。懐かしいものを持ってきたな樹」
隅に設置された1から9の電子ルーレット、そして山あり谷ありなフィールド。これこそ現代の人生ゲームなのだ。
「あらまあ。ボードゲームなんて久しぶりですね」
みちる先輩も興味津々らしく、さっそく設定画面でみんなの名前を入力していく。
「ふふふ、そうでしょう。この女心が分かる新谷樹にぬかりなどありませんよ、先輩」
と、そこで目ざとい水崎が何かに気づいたようだ。
「ちょっと待って。この人生ゲーム何かおかしいわよ。私が小さい頃持ってたのと違うような……」
どきっ!
思わず俺の肩がびくりとなる。
「ほえ? なにがですか先輩」と菊もボードゲームを眺めようとした。
「はいはい! それじゃあ席についてくださいねお二人さん!」
俺はすぐさま二人の腕を引っ付かんで席に座らせる。
「へぇ面白そうなことやってるじゃない。私も混ぜてよ」
エリがやってきた。
「ほうこの俺に金を巻き上げられにきたか」
「冗談。貢がれにきたの間違いでしょ」
ばちばち!
俺とエリの間で視線が交錯し、火花が散る。
「チッ、後悔するなよ」
「そっちこそ」
俺の舌打ちにニヤリと笑うことで返すとエリも席についた。
「それではまず順番を決めましょうか。ぽちっとです」
トゥルルル!
みちる先輩がボタンを押すと名前と番号がシャッフルされた。
ババン!
「やりぃ私がトップバッターね!」
水崎がパチンと指を鳴らす。
順番はこうなっていた。
水崎、廉人、菊、俺、橘、先輩である。
『人生ゲームスタート!』
人生ゲームからほんわかとした音声が流れた。
喋ったのは人生ゲーム公式マスコットのジンくんとセイちゃんだ。デフォルメした可愛いキャラクターで、ボードの上をくるくると飛び回っている。
「私の番ね」
水崎がルーレットを回す。
『5!』
「12345と」
水崎が自分のコマを進めた。そしてそこに書かれていることを読む。
「えーっとなになに……『服を一枚……脱……ぐ』?」
しーん。
急に静かになる室内。
ジンくんとセイちゃんが、楽しそうに手を繋いでボードの上をくるくると踊っている。
「あれ? なんでみんな固まってんの? どうしたの?」
瞬間、弾けたように全員が俺に向けて口を開いた。
「はあ!? ちょ、ちょっと!? なによこれ!?」と文句を言うツンデレ。
「あらまあ。破廉恥なマスですねぇ」
やはり朗らかな先輩。
「なにって……。さっさと脱げよ」
眼をぱちくりさせる俺。
「で、できるわけないでしょ!?」
「あわわ! せ、先輩、先輩! なんですかこのマスは! 全部書かれてることがおかしいですよ!」
菊がボードゲームを指さす。
そこには『男を見下す感じの挑発的なセクシーポーズ』と書かれてあった。
「あらまあ。確かに過激なマスばかりですね」
あらあらと困った様子の先輩。
「ふつうにやるのは面白くないだろうと思ってちょっと変えてみました、てへ☆」
『てへじゃねえええ!?』
全員が席から立ち上がってツッコミを入れてきた。
『ぬーげ、ぬーげ、ぬーげ!』
そんな最中、ジンくんが一升瓶片手に『脱げ』コールをしている。
「せ、先輩……マスコットキャラクターも凄く親父臭くなってるんですけど……」
菊がぐききと首を曲げて俺を見やった。
「えーっと……。わ、私やっぱりやめておくわ」とエリが席から離れようとする。
「フン。敵前逃亡か」
「なんですって?」
「あーあ。そんな逃げ腰じゃあ国家の力が衰えるのもやむなしだよなぁ」
「あんた……! 私のことだけでなく、政府をバカにしたわね……!
上等よ! 泣いて詫びさせてあげるわ!」
きゅぴーん!
かかった……!
俺は思わずニヤリとほくそ笑む。
この人、コツさえ掴めば扱いやすい人だよなぁ……。熱くなっちゃって可愛いなぁ。
「ちなみにボードに書かれたお金はおまえ等のPCからちゃんと読み込んでるからな」
「はあ!? これ表示されているのは本物の金かよ!」
菊がすぐさまPCを取り出して口座を開く。
「ほ、ほんとです! 一万円引かれてますよ、これ!」
「ふざけないでよ! なんなのよこのゲームは!」
「まあまて。ほら、よく見ろ。ちゃんとお金プラスマスもある。そのマスに行けばちゃんと口座に同額の金が振り込まれるぞ」
「どこから振り込まれるのよ。やばい金じゃないでしょうね」
「まさか。振り込まれるのは俺の口座からだ。しかも! 一位でゴールすると賞金が振り込まれる!」
『!?』
みんなの目が$になる。
なんて分かりやすいやつらだ。
だがそれがいい!
「ただし! マイナスのままゴールすれば、そのマイナス分はお前らの口座から俺の口座に振り込まれるシステムになっている!」
「フン。このボードゲーム。あんたが親元の博打ってわけね」
「そういうことだ」
ごくりとみながつばを飲み込む。部屋を緊張感が包み込んでいた。
さすが経済研究部メンバー+αだ。どうやらみな覚悟を決めたらしいな。
かくして嬉し恥ずかしなマネーゲームは始まったのだった。




