遅刻かも!
8:13。
遅刻寸前だ。
「こりゃーちょっとヤバイかも」
思わず独り言してしまった。
そんなに寂しい人間でもないんだが。
2階の階段を通過した。
携帯の時計は、8:14に変わっていた。
とにかくダッシュ!!!!
俺は、手すりを掴んだ手を軸にして、グルッと半回転した。
3階への階段の何段目かで・・・。
ゆっくりと上っている女子が目に入った。
俺が何段か上れば、パンツが丸見えになりそうだ。
俺は仲間を発見した喜びで、ソイツに声を掛けようと思った。
「急げ、ギリギリだぞ!」
ソイツの隣を通過した時、チャイムが鳴り始めた。
本鈴だ。
その時気づいた。
見覚えのある、優しげな目が驚いたように瞬きした。
泉川 芽衣。
泉川は、口ぱくで、
「先に行って」
と言った。
と思う。
俺は、
「教室でな」
と一声掛けた。
ギリギリギリギリセーフ。
「ナイスファイト~!!」
敦也が背中を叩いてきた。
ぜぇぜぇしている俺に、スポーツドリンクを差し出す藍川が、
「酸素の無駄遣いは止めて。
オゾン層が破壊されちゃう」
と厳しい言葉を掛けた。
スポーツドリンクは、有難く受け取った。
「藍川~いいじゃんかよかぉ」
敦也は甘えた声を出す。
両頬に両手を当てて。
「キモい」
藍川は一刀両断した。
あれ?
何か頬が赤くなってる・・・。
「おーい、そこの3人。
席に着け」
センコーがやって来た。
藍川は、お決まりの舌打ちをしながら席に行った。
敦也は俺の前の席だから、会話を続けた。
「泉川休み?」
「階段で会った」
俺は真実を言った。
「何で一緒に来なかったの?」
「先に行け、って」
「ふ~ん」
敦也はそれ以上聞かなかった。
泉川が気になるのか?
俺はこの言葉を飲み込んだ。
敦也は、
“俺、泉川タイプかも”
と言っていた。
聞いたらKYだろ。
結局、泉川はホームルームに顔を出さなかった。