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期待外れの絵師ですが、描いた聖画が奇跡を起こすようです  作者: シロハラ
第一章 ことの発端は突然で

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第十話:栄光の筆跡、そして不滅の誓い


王宮の最高法廷は、異様な熱気に包まれていた。


中央の証言台に立つのは私とレオン。そして、その対面には、縄で縛られた大司教と、青ざめた顔で震える聖女エレナが並んでいる。傍聴席には王都の貴族たちがひしめき、最上段の玉座には、鋭い眼光を放つ第一皇太子アルベルトが鎮座していた。


「――これより、教会による国家反逆罪、および軍資不正流用の審理を行う」


アルベルト皇太子の理知的な声が法廷に響き渡る。


「大司教。貴職らは、国境守備隊への正当な食料補給を独断で停止し、前線の兵士三千人を意図的に飢えさせようとした。さらには、異世界から召喚したスミレ殿を『無能』と偽り幽閉しただけでなく、その能力に気づくや否や、教会の無能を隠蔽するために拉致を企てた。これらに相違ないか?」


「く、くだらん言いがかりを! すべては神の御心!」

大司教は往生際悪く叫んだ。

「そこの女が起こした奇跡とやらはすべてペテンだ! 雷で魔獣を倒したなど、国境の荒くれどもが仕組んだ狂言に決まっておる! 本物の聖女は我が教会のエレナ様ただ一人だ!」


「見苦しいぞ、大司教」


アルベルト皇太子が冷酷に言い放つと、法廷の壁に掛けられた巨大な布が取り払われた。

そこに現れたのは、私がアトリエで描き上げた最新作――『真実を映す天秤の女神』の巨大な聖画だった。


キャンバスが眩い白銀の光を放った瞬間、大司教とエレナの足元に、どす黒い魔獣の呪毒の霧がゆらりと浮かび上がった。彼らが王都の結界を怠り、魔獣の力を私欲のために利用しようとしていた「動かぬ証拠」が、視覚的なグラフィックとして法廷全員の前に晒されたのだ。


「ひぃっ!? な、何ですかこの光は! 体が、体が灼かれるようですわ!」

エレナが悲鳴を上げて床に転がる。彼女がこれまで平民から吸い上げていた偽りの魔力が、私の絵の浄化作用によって霧散していく。


「これこそが、スミレ殿の描いた『真実の聖画』だ」

アルベルト皇太子が立ち上がり、厳かに判決を下した。


「教会の利権はこれをもってすべて剥奪する。大司教以下、不正に関わった聖職者は全員、北の鉱山での終身刑に処す。また、元聖女エレナはその資格を剥奪し、平民に落とすものとする!」


「そんな、そんな嘘ですわぁぁっ!」

泣き叫ぶエレナと大司教が近衛兵に引きずられていく。傍聴席の貴族たちからは、圧倒的な拍手と歓声が沸き起こった。


すべての決着がついた後、アルベルト皇太子は私とレオンの前に歩み寄り、深く頭を下げた。


「スミレ殿、そしてレオン。国を救ってくれたことに心から感謝する。スミレ殿、もし良ければ、我が国の初代にして最高の『国家宮廷絵師』として、これからもその素晴らしい筆を振るってはくれないだろうか。もちろん、住まいも予算も、君の望むものをすべて用意しよう」


王宮で最高の地位を約束された。イラストレーターとして、これ以上ない栄誉だ。

だけど、私は隣に立つ金髪の騎士を見上げた。レオンは少し寂しそうな、けれど私の幸せを最優先にするような、切ない青い瞳で私を見つめていた。


私はレオンの手をぎゅっと握りしめ、皇太子に向き直って微笑んだ。


「殿下、ありがとうございます。ですが……私の工房は、あの国境の『黒鉄の砦』にあります。あそこには、私の絵を世界で一番必要としてくれる人たちと……私が世界で一番、大切にしたい人がいるからです」


「スミレ……」

レオンが驚きに目を見開く。


アルベルト皇太子は一瞬呆気にとられた後、フッと楽しそうに笑った。

「ハハハ! 振られてしまったか。よし、ならば『黒鉄の砦』を臨時の国家直属工房に指定する。レオン、貴公の命に懸けて、我が国の至宝を末永く幸せにせよ」


「――御意。この命が尽きるとも」

レオンは姿勢を正し、力強く誓った。


◇◇◇


数ヶ月後。

黒鉄の砦の最上階、陽の光がたっぷりと入るアトリエで、私は新しい絵を描いていた。


窓の外では、ギルバートたちが『癒やしの泉』の周りで楽しそうに笑い、トトが「スミレ様、新しい絵の具です!」と犬耳をパタパタさせて走ってくるのが見える。


「スミレ、少し休憩にしないか?」


後ろから優しい声がして、温かい大きな腕が、私の腰をそっと包み込んだ。

振り返ると、甲冑を脱いだレオンが、甘やかすような愛おしそうな目で私を見つめている。彼の顔があまりにも近くて、私は相変わらず心臓が破裂しそうになる。


「レオンさん、もうすぐ、砦の新しい防壁の絵が完成するんです」


「焦る必要はない。君を急かす締め切りは、もうこの世界のどこにもないのだから」


レオンは私の手からそっと筆を取って机に置くと、私の左手を持ち上げ、薬指に嵌められた琥珀色の魔石の指輪に、そっと誓いのキスを落とした。


「私の命も、心も、すべて君のものだ。……これからもずっと、私の傍で、君の好きな絵を描き続けてくれ、私の可愛いお妃様」


「はい……! ずっと、レオンさんの傍にいます」


異世界に期待外れと捨てられた元イラストレーター。

だけど今、私は最高の仲間たちと、私を世界一溺愛してくれる最愛の騎士の傍で、世界で一番幸せな奇跡を、この筆で描き続けていく。


(『期待外れの絵師ですが、描いた聖画が奇跡を起こすようです』――完)

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