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大賢者は何もしない ~面倒事は弟子と助手に任せる~  作者: エビテン


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ドッグラン5

わたしは必死に、先を歩く先生について行った。

ここは魔物が出没する境界線内の原生林、先生との距離が開くのはとても怖い。

魔物の気配を感じている訳でも無いのに、不安のせいでペースが乱れ、呼吸が苦しく息が上がった。

先生は平らな岩に腰を下ろし、水筒を取り出した。

わたしの様子を見て、休憩にしてくれたのだろう。

先生の隣に座り、意識的に息をして呼吸を整える。

先生は水筒で喉を潤すと、空を眺めながら口を開いた。

「フォル、戦闘時は最適な動きを心がけろ。グレイ・クロウラーとの一戦、囲まれないように動き回るってのは正解だが、行動が広すぎた」

わたしはその時の事を思い返した、飛び上がった後の着地地点は、なるべく魔物から離れる様にしていたが、あれではダメなのだろうか?

安全な距離を保った方が、いいと思うけど……。

その時、何かが接近する気配を感じた……耳をを立てて音を拾う。

先生は立ち上がると、わたしの両脇の鞘からナイフを抜き、逆手に握った。

「そっちの高い岩の上に登れ、良く見ておけ」

先生の指示に従い岩に上ると、大ネズミが姿を現す。

ネズミと言ってもイヌ位の大きさがある、魔獣だから当然攻撃力も高い。

全部で三匹、ネズミ特有の黄色い前歯を剥き出しにして、先生を威嚇する。

「フォル、お前はグレイ・クロウラーの背中にナイフが刺さらなくて動揺してただろ? 別に一撃でとどめを刺さなくてもいいんだ」

真ん中の大ネズミが、先生に飛び掛かった!

大きくてずんぐりした体格なのに動きが機敏だ、まるで小さなネズミのように速い。

先生は小さな動きで大ネズミをかわすと、すれ違いざまにナイフでその脇を切り裂いた。

「行動不能にすればいい、ナイフは当てるだけで、相手が勝手に怪我をしてくれる」

地面に落下する大ネズミ、切られた場所は脇から後ろ脚の付け根付近だ。

あれではまともに歩けない、先生は狙って刃を当てたのか……。

残り二匹も飛び掛かる、先生はそれをかわしながらナイフで切り裂いた。

「急所を狙うにせよ、背中は固い筋肉で守られていて背骨もある。頭骨も硬いから頭も難しい時がある、急所は腹側だから四足歩行のヤツは狙いにくい、弱いのは……」

二匹は当たりが浅かったようだ、傷を負いながらも右のヤツが先生に向かって、大きく口を開け飛び込む。

「脇腹!」

先生はさっとかわすと、その流れで大ネズミの側面に、タイミング良くナイフを突き立てた!

大ネズミが空中にいる間にナイフを抜く。

地面に落ちた大ネズミは、まるで眠っているかのような姿勢で動かないが、目が半開きなので絶命しているのが分かる。

もう仕留めちゃったの? その鮮やかな手並みに目を奪われた。

もう一匹が飛び掛かる! 先生はナイフを手の平で回転させて順手に持ち替えると、刃を大ネズミに噛ませ、その勢いのまま地面に落とすと首を囲い込み、その骨をへし折った。

そして最初に足を切り付け、動きを封じた大ネズミの方に向かった。

「首も急所だ、ここも狙いやすい」

先生は大ネズミの後ろから頭を抑え込んで、ナイフで首を切り裂いた。

鮮やかな手際だ……これは戦闘というより、まるで職人芸だ。

先生はゆっくりと立ち上がると、岩の上にいるわたしを見上げた。

無表情で息も切れていない……先ほどの戦闘が、まるで作業と言った感じだ。

「暫くは、二人でやろう。まずおまえは戦闘に慣れる事だ」

わたしは声も出せず、首を縦に振るのが精いっぱいだった。


***


先生は道中で戦い方のコツと注意を伝授してくれた。

魔物はそれぞれに特徴が有るので、それらをしっかりと覚えて冷静に対処する事。

特に魔獣系は、元となっている動物の習性を持っている事が多い。

魔物は厳密には生物では無いので、そのほとんどの個体が戦闘で不利になっても逃げだすことは無い。

だが野生動物は、手負いで逃がすと二次被害をもたらす危険があるから、確実に仕留める事。

野生動物は環境のバランスを保つ存在の為、必要以上に狩らない事。

勝てないと判断した場合は、無理せずに離脱する事。

逃げても追って来るのでは? と質問したが、ある程度距離を取れば振り切れることが多いという。

境界線の外側付近では、大型の魔物も多く出没するが、大抵はそれを越えられない。

だが、そういった個体はいずれ、境界線の薄い部分を見つけ出して侵入してくる。

だから城下に知らせて騎士団や冒険者に任せるとの事だ。

では……コイツはどうするのだろう?

今、背後からわたし達を追跡して来ている大きな気配。

今のところ、追いつかれてはいない……いや、一定の距離を保っている……。

「このまま、目的まで向かうぞ、そこで迎え撃つ」

わたしの不安げな表情を読み取って、先生が声を掛けてくる。

先生も気付いている、戦うつもりなの?

「すごい強いヤツです、逃げた方が……」

「騎士団が出動するレベルの魔物だ、放置すれば討伐される間に被害が出る恐れがある。ここで仕留めるぞ」

ほどなくして開けた場所に出る、目的地の野草採集地点だ。

途端、追跡してきてたヤツが、高速で急接近をしてくる気配を感じた。

ソイツは斜面から突然、姿を見せた。

「シルバー・ベアーか」

先生が呟く、そいつは巨大な、銀色に輝く熊型の魔獣だった。

鋭い眼光でわたし達を睨み付け、開いた口からは大量の涎を垂れ流しており、明らかに興奮している……。

体長五(メートル)を優に超える巨体が高速で突っ込んでくる!

わたしはその突進を避け、すれ違いざまにナイフの刃を脇腹に合わせた。

『ギッギッギーー!』

鈍い金属音を上げて刃が軋む!

そのまま背後に飛び、距離を取ってクマを視認するが……傷一つ付いていない。

あの体毛……まるで硬い針金の様な強靭さ、刃物なんかでは太刀打ち出来ない!

「フォル! 手を出すな、あの断崖に避難しろ!」

わたしには成す術が無い……先生に言われるがままに、目の前の断崖によじ登る。

崖は一〇(メートル)位の高さだ、そこから先生とシルバー・ベアーを見下ろした。

クマの巨体のせいで小柄な先生が尚更小さく見える、いったい、どう戦うつもりなのだろう。

魔術……マシィは先生のソレは特殊な物だと言っていたけど……。

魔術は近接戦には不向きだとも言っていた。

フッフールとの登はん鍛錬を思い出す。

フッフールは現れた魔物を魔術で撃退してたけど、距離はかなり取っていた。

呪文の詠唱に時間が掛るからだ、それでもフッフールの魔術は発動が早いらしい。

魔術にはいろいろと制約がある、しかもあんな大きな魔獣を仕留めるほどの、強力な魔術なんて先生一人で発動出来るのか?

先生は飛び掛かってくるクマを間一髪でかわすが、ヤツは巨体とは思えない身軽さで、向きを変えて再度突進を掛けて来る。

先生はかわしてばかりで一切攻撃を仕掛けない、魔術の準備をしているのか? それともじり貧……。

クマは足を止めた、突進しても捕らえられないと悟ったか? 先生と睨み合っている。

不自然だ……何かを狙ているのか?

張り詰めた緊張感……空気が重く感じる。

その時、先生の気配の質が変わった。

先生の中に何かが急激に大きくなっていくのを感じた、何だろう、あれ?

すごい、強烈な威圧感……かなり離れているのに鳥肌が立ち、冷たい汗が流れる。

それが頂点に達した、そうわたしが感じたとほぼ同時に、熊が右前足で先生を薙ぎ払った。

先生はその鋭い爪をかいくぐると、クマの側面に瞬時に回り込み、右手で体毛を掴むと、左こぶしを前足の付け根ほどの位置に当てがった。

!!

鈍い音が響き渡り、空気が震え、耳がツンとする!

驚いて目を閉じてしまったが、ゆっくりと開くと、先ほどと同じ光景だった。

だが、クマは大きく口を開き、大量の血を吐き出した。

先生の左腕は肘まで、その体に突き刺さっていた!

先生のこぶしが、硬い体毛をへし折って皮を突き破り、内臓まで達して破壊した……?

シルバー・ベアーはゆっくりと崩れ落ちた、まるで眠れるかのように。

わたしは断崖から飛び降り、先生の元に駆け寄る。

先生は腕をクマから引き抜くと、こびりついた血が結晶化してぽろぽろとこぼれ落ちる、何かの作用だろうか。

わたしは足先に横たわる、完全にこと切れてるシルバー・ベアー、まるで現実感が無かった。

「セキセン」

先生がシルバー・ベアーを見下ろしながら、ポツリと呟く。

「石を穿つ、という意味だ……おれと、おれの武術の師匠と共に編み出した、巨大な魔物に勝つ為の技だ」

「セキセン……武術……なのですか?」

わたしはその事実に驚き、先生に聞き返した。

「おれの武の師匠は、魔術が使えなかったんだ。それ以外の方法で戦う(すべ)を模索した」

魔術じゃ無い……それなら!

わたしは近くの木に駆け寄り、その幹にこぶしを添えた。

先生が目の前で、やって見せた事を真似してみる。

確か先生は、気配を高めて、こう……。

ここ!!

わたしは溜めたソレをこぶしに込め、一期に突きを繰り出す。

木の表面が弾けた! けど、幹の皮が少し捲れただけだった。

やっぱり無理か、先生のあの威力とは程遠い。

先生はスゴイなあと改めて思いながら振り返る。

当の先生は目を細めて、面白くなさそうな表情でわたしを見つめている。

「まったく……おれと師匠がこの技を習得するまで、何年、かかったと思ってるんだよ」

先生は苦々しい表情で肩を落とし、ため息を付いた。

現在は日、火、木、土の昼位のペースで投稿してます。

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