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大賢者は何もしない ~面倒事は弟子と助手に任せる~  作者: エビテン


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プロローグ 闘犬2~大賢者の助手~

自分が昼食用のサンドイッチを片手に客室のドアを開けると、試合の後に気を失った副団長は、すでに目を覚ましていた。

彼は自分を見ると、戸惑ったようにこちらを見る。

昨日の事が信じられないのだろう。

「ライルラック卿」

「名で結構ですよ、この小屋で家名で呼ばれるのは違和感があります」

「そうか……そうなのか。ではマシィ殿、私の事はエイブと呼んでくれ」

かしこまったのは苦手だ、無言でうなずき了承する。

確か彼、エイブ・アイサン、アイサン家は子爵家だった筈だ。

ヴァーサターム王国の子爵家、自分は公爵家の人間だが彼は当主の四子、自分は三子の四子だ。

お互い、爵位を継承することは無いだろう。

自分は一六歳で、彼は二〇代後半と言ったところか。 

家柄は自分の方が上だが、エイブ殿の方が年上だ。

ここは砕けた言葉使いで問題無い。

「それでマシィ殿、私の怪我がきれいに直っているのだが……」

「先生の治癒術です。自分は魔法薬で十分だって言ってたんですが、フォルが先生に頼みこんで。あのお方は弟子に甘いので……」

「大賢者様は希少な治癒術まで使えるのか、すべての属性を使いこなすというのは、まことだったのだな……」

先生のソレは厳密にいえば魔術ではない。説明する必要も無いので答えぬまま、彼にサンドイッチを差し出す。

「治癒術は体力までは回復しませんが、食べられますか? 獣人が作ったモノですが」

彼は嫌味を察したのか獣人という言葉に反応し、ばつが悪そうな顔をする。

元はと言えば、彼の暴言がきっかけで今に至る。

彼は副団長に昇進し、王都の中央神殿からこの山のふもと、城下にある東の神殿に転勤となった。

ここ、グランディル公国は境界線と接しており、魔物との戦いの最前線だ。

神殿騎士にとって、この地への赴任はその実力が認められたという事だ。

グランディルへの配属は名誉であり、左遷では無く栄転なのである。

役職持ちになった騎士は、就任時には境界線近くの、この山小屋にする大賢者様に挨拶をするという儀式がある。

騎士団が勝手にやっている事だと、先生はぼやいていた。

先生は何度も抗議をしたが、東の神殿ことグランディル神殿騎士団総団長殿は、全く聞き入れる様子が無いとの事。

先生が迷惑だと思っている様子を、総団長は面白がってるようだ。

着任早々の副団長、エイブ殿が来訪した時に騒動が起こる。

彼は東の神殿に所属する騎士から、大賢者が二年前に獣人を弟子を取ったと聞かされたのだ。

来訪一番、エイブ殿は先生に詰め寄る。

「神殿の象徴であらせられる大賢者様が、獣人を弟子にするなど、理解できませぬ!」

エイブ殿は声を荒げる、自分はフォルに自室から出ないようにと促したが、あの大声では獣人の耳でなくとも聞こえてしまう。

「うちの子はカワイイですよ、目くじらを立てるような物では無いですって」

先生の冗談めかした言葉が気に入らなかったのか、エイブ殿は更に声を荒げる。

「獣人族はかつて、統馭(とうぎょ)の女神と敵対し、神殿に反旗を翻した種族です。戦後に魔術を封印された呪われた種族なのですぞ!」

「もう一〇〇〇年以上も前の話じゃないですか、俺なんて昨日の夕飯も何食べたか覚えてないです……」

「女神の使者である大賢者様がそれを囲うなどと……獣人は女性とも聞いてますが?」

「人聞き悪いなあ、武術を教えてるだけですよ。将来はオレと一緒に境界線を守ってくれれば……」

「それは騎士団が請け負います。薄汚い獣人は必要ありません!」

先生の顔色が変わったのが、見て取れた。

お怒りになってる? 口元は微笑んでいるがエイブ殿に向けられた視線が鋭い。

先生がフォルを呼ぶと、いつの間にかフッフールさんが紅白の手旗を持って後ろに立っていた。

「わたしが審判やる」

こうして、無し崩し的に試合をする流れとなり……。

「うまい……」

サンドイッチを頬張る副団長殿を見ている自分がいる。

「これをあの獣人が?」

「フォルです」

自分が少しむっとしてた面持ちで言い放つ。

「フォル、フォルさんか……」

エイブ殿は言い直しているが、なんか引っかかる。

皿の上のサンドイッチはあっという間に平らげられていた。

獣人が作った食事に嫌悪感を抱くかと思ったが、空腹の上に美味しさで気にならなかったのだろう。

カラになった皿に目を落とし、エイブ殿は語り始めた。

「マシィ殿……私は新生の儀を終えてすぐ王国騎士団の小姓になり、お付きの騎士の元で自分を鍛え上げた」

新生の儀の後なら七歳の時か。

「あれから二〇年、実力を認められて神殿騎士に抜擢され、そして副団長になった今でも鍛錬を怠った事は無い。その……フォルさんは本当にったった二年で?」

という事は、今は二七歳か、などと考えていると、急に問いかけられた。

エイブ殿の疑問は最もだ、副団長クラスが一四歳の少女に敗北したのだ。

納得出来る理由がが欲しいのだろう、せっかくだし獣人を、フォルを知ってもらう。

神殿の役職持ちがどう判断するか迄は分かりかねるが、少なくとも先入観だけで断じられたくはない。

「フォルはイヌ種のトイ族です。速さならネコ種のボブ族、筋力ならクマ種のベア族とウシ種のミノ族の方が上です」

「そうなのですか? それであの強さだというのか!」

エイブ殿は唖然とするが、構わず言葉を続ける。

「ボブ族はエルフ族より速く、ベアとミノは体格ではトロル族に劣りますが筋力は上です。獣人というのは魔法は使えないが、身体能力では人類最強なのです」

獣人は過小評価されている。

中央神殿があるヴァーサターム王国と、東の神殿があるグランディル公国では、獣人族の多くは人里を離れて暮らしている。

彼らの身体能力の高さを目にする事は稀だ。

一般的には、力が強くて体が丈夫……くらいの認識だろう。

エイブ殿は目を丸くしている、侮っていた獣人の能力の高さに驚きの色を隠せないでいるようだ。

「速力ならボブ族、筋力はベア族とミノ族、聴力と嗅覚もヒト族のソレより鋭いが……トイ族は他の獣人族よりも身体能力は劣りますね」

「では他の獣人族はトイ族のフォルさんより強いのか?」

エイブ殿のその疑問は最もだ、昨日そのトイ族のまだ子供のフォルにぼろ負けしたのだから。

だが……。

「先生……大賢者様はおしゃってました、トイ族は獣人最強だと」

……

沈黙が流れる、意味が分からないのだろう。

自分もそうだったから、その気持ちは理解できる。

「お、帰ってきたな」

自分がそう呟き、目の前にある二階の窓の方を向くと、エイブ殿もそちらに視線を移す。

眼下には背嚢を下ろし柔軟運動をしているフォルが見える。

「マシィ殿、獣……フォルさんのあの……盾を砕いた打撃は……」

フォルに視線を受けながら、エイブ殿が質問を投げかけてきた。

「普通の打撃では無かった、あれはいったい……」

「セキセン」

自分は言葉をつづける。

「石を穿つ、という意味で、先生の故郷の言葉らしいです」

騎士は黙って聞いている。

「序盤のシールドバッシュも、わざと受けたらしいです。その後も、盾に対して執拗に素手で殴り続けたり剣筋をかわし続けたのも、あなたの攻撃パターンやタイミングを見る為だったらしいです」

エイブ殿の顔から血の気が引いている、ショックだったのだろう。

「あなたは身体強化術を使っていたようですが、フォルには通用しませんでしたね」

自分は構わず話を続ける。

「彼女は覚えたてのあの技を、使ってみたかったんです」

「……」

「セキセン、原理はゼロ距離でこぶしを押し当てて、一気に魔力を放出して打撃に変換、それを叩きこむらしいです」

「魔力を放出⁉」

エイブ殿は驚き、叫ぶ。

そりゃあ驚くだろう、自分だって意味が分からない。

魔術とはを呪文を唱え、精霊に言葉を届けて力を借り受け、己の魔力を使って現象化するものだ。

魔力の放出なんて、聞いた事がない。

「だが獣人は、魔術が使えないのでは?」

「魔術は使えませんが、魔力は持ってるんです。先生によると獣人族は我々、ヒト族よりはるかに魔力量が高いとの事です」

「では、私と戦った時には身体強化を?」

エイブ殿は試合時に身体強化を使っていたが、フォルのスピードに追い付けなかった。

その理由を結論付けたいのだろう。

だが、違う。

「我々の身体強化は魔術の一種ですが、フォルのそれは、まったく別の何か、らしいです」

驚きながらも耳を傾けているエイブ殿に、自分は更に言葉を続ける。

「我々は魔術で身体強化を行いますが、フォルはもっと自然に、魔力その物をチカラに置き換えている、らしいです」

たまらず、っといった面持ちでエイブ殿が口を開く。

「それは魔術では無いのか?」

「人と同じ形をしているけど、速さ、チカラ、嗅覚、聴力、反射速度。どれもヒト族よりもはるかに上回っています、先生は、獣人の存在そのものが魔術といってました」

エイブ殿が真剣な面持ちで、こちらを見る。

自分は彼に言い放つ。

「それと……フォルが先生の元で学んだ二年は、あなたの二〇年に劣っていない」

「先生がおっしゃっていました……あと三年、先生がフォルを鍛え上げれば、彼女に勝てる人類は居なくなる」

窓の外で、プッシュアップをしているフォルを見つめながら話を続ける。

「それは単独では無く、東の神殿の騎士と魔術師が総出で掛かってもフォル一人に勝てなくなる」

「…‥」

信じがたいのだろう、押し黙るエイブ殿を自分は見据えた。

「先ほどトイ族は獣人最強だと言いましたが、その中でも彼女は天才です」

自分は一息付く、ここまで話して良い物か、いや構わない。

「獣人最強のトイ族の中でも天才のフォルが、人類最大の智を持たれる大賢者様の訓練受けて、彼女はどこまでも強くなる」

エイブ殿は毛布を固く握り、視線を手に向けながら絞り出すように口を開く。

「マシィ殿……あなたは神殿の賢者だ」

「まだ、学院の研究員です」

「……神殿関係者は、獣人種を敵視してきた、神殿騎士の私も例外ではない。アレらは且つて、女神と敵対し、神殿に抗ったからだ」

エイブ殿は真直ぐにこちらを見る。

「神殿の賢者を目指す、あなたの心象を聞きたい……」

彼の思いはよく分かる。

それはかつて、自分も通った道。

その時の先生の言葉が口をつく。

「神殿と戦ったのはフォルじゃない」

この言葉の意味と重さを、聞かされた当時は理解が出来ていなかった。

その時と、その後の自分の愚かさを思い出すと同時に、賢者を志す己を律する言葉として心に刻んでいる。

エイブ殿は顔を上げると視線を自分に向け、強く睨みつけた。

「それでも、この先まだ強くなるというのなら……フォルさんはどうなる! 大賢者様の庇護があっても神殿に敵視されるのは明白だ!」

「だから!」

エイブ殿の剣幕に、自分も声を荒げてしまう、だが構わず続ける。

「自分も、全力でフォルを守る!」

騎士団は基本、一個小隊が5人体制。中隊は3個小隊を副団長が統括、大隊は3個中隊を団長が統括。大隊3個で連隊となってます。

総団長が連隊長。団長は大隊長、副団長は中隊長。団長にはサポートで副団長が1人つくので、一個大隊は団長1人と副団長4人体制です。

神殿騎士団は一個連隊で約150人ほどです。

部隊運用には支援として魔導師科が配備されます。こちらは50人ほどです。

魔導師団にすると「師団」と混同するので魔導師科としました。

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