河原サボり格差戦線(貴族の午後)
──春。
その日の空は、ちょっと青すぎた。
授業をサボるには完璧な気候。
つまり、俺たち杏仁豆腐の出番だった。
「おーいユウ! 空き缶ボウリング第3ラウンドな!」
「いや、ボールじゃなくて缶て。しかもダイキ、それ飲みかけ!」
「大丈夫っす! 炭酸の勢いでスピード出ます!!」
「理論崩壊してんだよ!」
──河原。
俺たちは石投げ、缶蹴り、謎の虫相撲。
文明退化の真っ最中だった。
が──そのとき。
カズ:「……なぁユウ。なんかあそこ、世界線違くね?」
見ると、河原の向こう。
木陰に敷かれたピクニックマットが、シャネル。
アイスコーヒーはスタバの限定タンブラー。
日傘は多分パラソル扱い。
ミナミ先輩が風を背に座り、
レイナ先輩がタブレットでネイルチェック。
アイカ先輩は足を組み、雑誌を膝に広げていた。
──もう、“空気”が高貴。
──酸素の質が違う。
ユウ:「あれ……授業サボり界の上位互換?」
カズ:「いや、サボりの貴族だ……!」
ダイキ:「税金でできてんのか、あの優雅さ!!」
タクミ:「こっちは庶民のサボりだぞ!? 原始時代だぞ!?」
風が吹くたび、ミナミ先輩の髪がゆらぐ。
──そこに“青春”のテーマ曲が流れてそうだった。
レイナ:「ん? ……なに、そっち。川の民?」
ユウ:「いや、あの……その……」
ダイキ:「先輩たちもサボってるじゃん!!」
アイカ:「違うの。わたしたちは“予定調和の休暇”。」
ミナミ:「人生に必要な呼吸をしてるだけ。」
──まるで詩。
──ていうか格言。
ユウ:「……(酸素の吸い方、違うんだな)」
カズ:「俺ら、酸欠してね?」
タクミ:「文明レベルが違いすぎる……」
ミナミ先輩、立ち上がって俺らの方に歩いてくる。
ハイヒールの音が“異世界転生”のBGMみたいに響いた。
その瞬間、風がまた吹いて──
転がった空き缶が、ミナミ先輩の足元で止まる。
彼女はそれを拾い上げ、
夕陽に透かして、微笑む。
ミナミ:「……缶でも、光を返すのね。」
ユウ:「(詩人……! っていうか、語彙が貴族……!)」
アイカ:「それ、うちらの格差メタファーになりそうね。」
レイナ:「やだぁ〜アイカ、今日も言葉選び上品〜♡」
──午後のチャイムが遠くで鳴る。
でも、誰も動かない。
いまこの河原には、
庶民と貴族の“サボり外交”が成立していた。
カズ:「なぁ、今日って“青春格差条約締結日”でいいよな?」
ユウ:「おう。庶民の魂に、勝手に調印してろ。」
──青春は、いつだって不平等。
でも、その理不尽ささえも笑い飛ばせるやつが勝ちなんだ。




