風、カツラ、そして女帝
放課後の駅前。
夕焼けがビルの窓に溶け、風がビュウと抜けていく。
杏仁豆腐メンバーは、帰り道に偶然ユウとその姉を見かけていた。
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タクミ:「おい見ろよ、あれユウの姉貴じゃね?」
カズ:「噂の“裏番長”か……」
ダイキ:「顔ちっさ!脚なっが!!」
──その瞬間、風が吹いた。
シュバッ!!
何か黒いものが宙を舞い、カズの頬をかすめて地面に転がる。
一瞬でわかる。
それは、男の人のカツラだった。
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タクミ:「……落ちたぞ。」
カズ:「落ちたな。」
ダイキ:「……風、つえーな今日。」
そんな中、ユウの姉だけが動いた。
一歩、前へ。
高ヒールの音が「コッ」と響き、彼女はしゃがんでカツラを拾い上げる。
風の中でも髪一筋乱さず、まるで映画のワンシーンみたいに。
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ユウ:「……姉貴、やめとけって。見なかったことにしようぜ。」
だが姉貴は静かに首を振る。
口にくわえたタバコから、灰がふわりと舞った。
そして、当のカツラ主(中年サラリーマン)に近づく。
姉貴:「……落ちましたよ。」
その声音は、慈悲でも憐れみでもない。
ただ、**“当然の礼儀”**として差し出す女の声だった。
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受け取った男は、わずかに震えながらカツラを被り直した。
何事もなかったように信号が青に変わる。
風は止み、空は金色に染まっていた。
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タクミ:「……今の、なんだったんだ?」
カズ:「修羅場でも見た気がする。」
ダイキ:「心が……浄化されたかも。」
ユウだけが呆然と呟く。
「……あの人、昔から動じないんだ。
俺が泣こうが喚こうが、カツラが飛ぼうが、世界は平然と回る。」
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その夜。
ギャル神社にて、レイナが叫んだ。
レイナ:「なにそれ!伝説じゃん!!」
アイカ:「“落ちカツラ無心返却”……もはや武道の域。」
ミナミ(淡く笑って):「……風に動じぬ者は、恋にも動じぬ。覚えておきなさい。」




