case.レイナ #2『白と黒のあいだに、熱』
白い雪。
吐く息が、風にちぎれて消える。
ゲレンデって、静かなのにうるさい。
音が少ないぶん、心の声が響く。
——ミナミが、こっちを見てた。
リフトの上、風に髪が揺れて。
金のピアスが陽を受けて光った瞬間、
あの人がちょっとだけ笑ったの、覚えてる。
「……落ちるよ、それ」
言おうとしたときには、もう遅かった。
ピアスは雪の上に落ちて、
細いチェーンが冷たく光った。
でも私は拾わなかった。
「ま、誰かが拾うっしょ」
そう言って滑り出した。
たぶん、拾うのは“あのバカ”だから。
⸻
夜。
ロッジでミナミがココアを飲んでた。
湯気の向こうで、指先を見つめてる。
「……一本、ないの」
って小さく言った。
それだけで、胸がキュッとなった。
「てかさ、ピアスなんてまた買えばいいじゃん」
「そういう問題じゃない。」
「うわ、出た。哲学ギャル。」
「……意味のあるモノって、失くしたときの静けさが違うの。」
その言葉が、雪より冷たくて、
でもなぜか暖かかった。
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数日後。放課後の部室。
ユウが机の下から、あのピアスを見つけたって聞いた。
偶然なのか、運命なのか。
……たぶん、あの人なら、拾うと思ってた。
「雪の中で光ってたんで、ってさ」
カズが笑って話す。
私も笑ったけど、
(あー、やっぱりそうなるんだ)って思った。
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放課後のギャル神社。
ミナミは珍しく口数が少なかった。
レイナ「ねぇ、それって……恋?」
ミナミ「……観測中。」
アイカ「データ異常発生中。」
レイナ「じゃ、発熱だね。」
三人の笑い声が雪に溶けた。
でもその笑いの奥、
誰も知らない“温度”がひとつ増えてた。
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夜道。
白と黒の世界の中、
ミナミのピアスが月に光る。
私は空を見上げながら、
自分の指先を見た。
ほんの少し赤いのは、
寒さのせいか、熱のせいか。
——たぶん、どっちも。
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【end:case.レイナ #2「白と黒のあいだに、熱」】




