チエナ王女視点 皇帝の後妻になる為に講和の使者となりました
「ふんっ、ヤンは失敗したと申すか」
報告を受けてお祖母様は不機嫌そうだった。
「はっ。申し訳ありません」
ヤンの上司だったワン魔術師団長は頭を下げた。
なんということだ。あのムカつくクソガキを攫うのに失敗するなんて。
せっかく、この王城の地下室でじっくりといたぶってやろうと思っていたのに!
私はがっかりした。
ヤンが失敗して死んだのは残念だったが、我がチエナの暗部にとって失敗は死を意味するのだ。
仕方があるまい。
せめて連れ子を道連れにしてくれれば良かったのに!
ヤンもあまり役に立たなかった。
私はがっかりした。
「母上! これはどういうことですか!」
扉を強引に開けて、怒り狂った父が現れた。
「これはこれはハオレン、どうしたというのです」
お祖母様は現れた父に平然と聞いていた。
「どうしたもこうしたもありません。母上は帝国の皇太子の婚約者を拐かそうとしたそうではありませんか」
父はじたんだ踏んで、怒り狂っていた。
「そうよの。少し帝国の態度が生意気であった故な。灸を据えてやろうと思ったのじゃ」
怒り狂った国王である父を前にしてもお祖母様は平然としていた。
「なんということをされたのですか? 帝国は怒り狂った恐竜皇子が全軍率いて、このチエナに攻めてこようとしているそうでございますぞ」
父の目は恐怖に震えているように見えた。
「それがどうしたのじゃ。帝国の小倅などチエナの兵で防げばよかろう」
お祖母様は笑っていった。
「はああああ! 何を仰っていらつしゃるのですか! あの東方10ヶ国の10万の軍を一瞬で殲滅した恐竜皇子ですぞ。我が国境の兵士たちに動揺が広がっているとの報が上がってきております」
「それだけではございませんぞ、王太后様。我がチエナの周辺諸国が慌てて、我が国との国境に軍を集めております。カンダーラやラペルズは外交使節も引き上げさせております。下手したらここ1週間以内にこのチエナに攻め込んでこようとしております」
「どうされるのですか? 母上」
お父様が目を吊り上げてお祖母様を責めているんだけど。
「二人共、黙りなさい」
お祖母様はゆっくりと命じた。
その顔は笑っていたが、目は笑っていなかった。
私は背がゾクリとしたのだ。
「「はい」」
二人は気押されて黙った。
「周辺諸国への制裁は後ですればよかろう。国王の首くらいでよいかの」
お祖母様は平然と笑って言った。
そうだ。お祖母様を怒らせると怖いのだ。お祖父様に可愛がられていた側室の一人は、お祖母様によって人間豚として手足を切り取られて、トイレに放置されていたという噂を聞いたことがある。
周辺国の国王の首がなくなることは決まったようだった。
「問題は帝国じゃが、帝国が攻め込んでくるということくらいで、そのような事で騒ぎ立てるでないわ」
お祖母様は一喝した。
「しかし、母上、帝国は強大ですぞ。そのあたりの小国とは違います」
「何を言うのです。我がチエナも大国です。4千年の歴史があるのをお忘れあるな」
お祖母様に言い返した父は凄いと思ったが、お祖母様はきっとして言い切った。
「我がチエナは剣術では負けても魔術では負けはせん。間違うな!」
お祖母様は周りのものも含めて二人に言い聞かせたのだ。
「はっ」
二人を始め一同は頭を下げた。
「でも、母上。具体的にはどうすればよいのですか。国境の兵士たちは怯えておりますぞ」
父上がなおもお祖母様に聞いていた。
「ふんっ、不甲斐ない国境の守備隊じゃの。そのようなもの、我軍に必要はなかろう」
「王太后様。失礼ながら国境の部隊の首をすげ替えるのは戦いの前には無用の混乱を招くかと」
魔術師団長がおそるおそる上申した。
「まあ、そうじゃの。そこはいずれ考えるとするかの」
お祖母様はそう言って笑った。
「たとえ帝国が攻めてきても、我がチエナの魔術師団の前に、帝国は勝てまい。のう、ワン」
「はい。我がチエナ魔術師団は帝国軍の大軍も押し返してお見せいたしましょう」
お祖母様の問いに魔術師団長ははっきりと言いきった。
すごい自信だ。まあ、チエナ、4000年の歴史があるから言えるのだろう。
私も帝国の知らない魔術も多々あると聞いていた。
「だが、それでは我が方の被害も甚大になろう。面白くないの」
王太后の言葉に皆はホッとしたみたいだった。
「帝国は単純だからの。それは帝国に留学していた妾が良く知っておる。まともにやり合っても勝てるが、それでは面白みがなかろう」
「いかがされるおつもりで」
魔術師団長がきいていた。
「帝国は単細胞じゃ。取り敢えず、我らに向けて振り上げた手を、下ろせないようにしてやるのが良かろうて」
「どうされるのです?」
父が聞いた。
「帝国が望んでいたのは、妾が人質にしていた男女を返せと言うことだったではないか。取り敢えずあの二人を返してやろう。二人をこれに」
お祖母様は合図した。
「母上、人質など取っていないとおっしゃられていたではないですか? 私はそれを信じて帝国の使者を追い返したのですぞ」
父はまた怒り出した。
「まあ、そう言うな。あの者たちにも役割があるのじゃ」
お祖母様はそう言うと笑った。
「王太后様。お呼びですか」
そこにロベールとアナベルが現れた。
最初は反抗的だったのが、とても従順になっていた。
変だ。
その二人を見て私の背筋に何故か怖気が走った。
二人はお祖母様の繰り人形のような感じがした。
その目が不気味に赤く光ったように私には見えた。
「その方等には帝国に帰ってもらう」
「「はっ」」
二人は揃って頭を下げた。お祖母様に完全に心酔しているように見えたのだ。
「しかし、それだけで帝国は兵を引きましょうや」
外務卿が疑問を挟んできた。
それはそうだ。こちらは帝国の皇太子の婚約者を誘拐しようとしたのだ。
レオンハルト様がそう簡単に許すとは思わなかった。
「そうじゃな。今回はホンファにも、一働きしてもらおうか」
「私がですか? でも、レオンハルト様は私を許して頂けるでしょうか? そもそも、私はレオンハルト様の第二夫人になるというのを断られておりますが」
私が心配になって聞くと、
「その方には、長らくやもめでいた帝国皇帝の妻になってもらう」
えっ、私はお祖母様のその言葉に固まった。
そ、そんな!
私はレオンハルト様の妻になるのだ。
その年老いた何歳も離れた父親の後妻になるなんて絶対に嫌だ!
私はきっとしてお祖母様を見た。
でも、それが間違いだった。
お祖母様の目が赤く不気味に光っていたのだ。
そして、その瞳を見た瞬間に、私の頭の中がぼんやりしたのだ。
そして、私はお祖母様の言うことが正しい気がしてきた。
皇帝の若い後妻になって、帝国を思いのまま動かすのだ。そうすればレオンハルト様を愛人にして飼っても良い。自分にとても都合の良い様に思えてきたのだ。
私はお祖母様に従うことにしたのだ。
それがチエナのためだ。
「判りました。お祖母様。私は帝国の皇帝の妻になって、この若い体を使って帝国の皇帝を骨抜きにしてやりますわ」
私は目を赤く光らせて高笑いしていた。
でも、何故かその目からは一筋の涙が流れていた。
ここまで読んで頂いて有難うございます。
王太后の魅了にかかってしまったホンファ。
お義兄様とエリーゼはどうなる?
明日は1日一話更新の予定です。
ここまでお忙しい中、誤字脱字報告、感想、良いねして頂いてありがとうございます。
ブックマーク、評価していただいた方には感謝の言葉もありません。
皆様の応援のお陰で第2巻発売が決まりました。
本当に有難うございます
現在コミックシーモアで絶賛発売中の第一巻
『王子に婚約破棄されたので、義理の兄が激怒してこの国を滅ぼすと叫び出したんだけど 卒業パーティーは恐竜皇子と恐れられるお義兄様と一緒に【シーモア限定特典付き】(最新刊)』
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まだの方はぜひともお買い求め頂けたら幸いです。








