森の中で:A
樹海を走り抜ける1台の軍用車両。
薄暗く、じめじめとした木々の中、旅の初日に泊まる宿が見つからず焦る空と海斗。
そんなことを気にしていないヘンリーは一人眠りにつく。
「なかなか家なんて無いな。そりゃあ樹海だから無いか」
「洒落に何ねーよ、風呂無しは嫌だぞ?」
「んなこと言ったってな」
後部座席から聞こえる大きないびきに空は驚き急ブレーキをかける。
海斗は急ブレーキの反動で首を痛め、悶絶する。
「何だこいつ。今ここで置いていってやろうか」
「それもいい考えだな、俺らが宿探しに困ってるときに鼾こいて寝るなんていい度胸してる」
珍しく行き統合する二人。
そんなこんなで日が暮れ夜になった。
夜の樹海に光る車のライトは彼らの希望は照らさなかった。
「こりゃあ、今日は野宿かな」
軽々しくそんなことを口にする空を見て唖然とする海斗。
「嘘だろ?」
「本当だよ。野宿が嫌だったらお前もどこか泊まれそうな家探せ」
冷酷かつ淡々と切実な現実を突きつける空。
「風呂無しは嫌だ風呂無しは嫌だ風呂無しは嫌だ風呂無しは嫌だ風呂無しは嫌だ風呂無しは嫌だ」
呪いのように口ずさむ海斗。その中とある民家を見つける。
「おいおい、前見ろよ!」
海斗が空の耳元で叫ぶ。
空は海斗の頭を一度殴り何なんだと話を聞く。
そんな中ヘンリーだけは一人後部座席で眠り続けていた。
「ってーな、力の加減しろよな」
「耳元でいきなり叫ぶから」
「すまん。そんなことよりあそこ見ろって!」
海斗が指を指したその先には、今にも崩壊しそうな一件のおぞましい雰囲気を醸し出している民家。
あろう事か海斗はその民家で宿を取らせてもらおうなどと口にしたのであった。
「おいおいバカ言うなよ。確かに俺は宿を探せと言った。けどな廃墟を探せとは言ってない。解るか?」
「解るけどよ、んなこと言ったってこんな樹海にそうそう宿なんてないぜ?ましてや野宿なんてしてみろ、この樹海に居る動物や虫の餌食だ。こうなったら答えは二つに一つだろ?なあ解ってくれよ、頼むからさ。な?」
仕方ないと一つため息を吐き再びアクセルを踏み、目の前にある民家へ向かう決心を着けた。
それから約数分後ようやくヘンリーが目を覚ます。
「ん?何だ?宿は決まったのかって暗!」
起きて早々にテンションの高いヘンリーに向けて空と海斗の考えは一致していた。
『『ぶっ飛ばすぞ』』
冷たい二人の視線に耐えかねたヘンリーは再び背を向け再び眠りにつく。
さらに数分後怪しげな民家についた。
「着いたな」
「うん、着いたな」
「ここなのか」
目の前にある不気味でいかにも怪しい民家を見て唖然とするしか無い三人。
扉の中から一人の老婆が出て来た。
「あら、どうしたんだい?」
「恐縮なのですが一晩泊めてはいただけないでしょうか?」
「もちろん良いに決まってるさ、さあ、お入り」
すんなり宿泊を認めてくれた老婆、その背後で海斗が「空、お前ってそんな言葉遣いも出来たんだな」そんなことを耳打ちして来た海斗の腹に一発腹に肘撃ちをし三人は民家の中へと進んでいく。




