旅立ちの日に:B
「父さんも姉さんも生きてるのか...?」
「生きてる」
ただ呆然としているしかない空。
ヘンリーから聞かされた事実に空は頭の整理がつかない。
「隊長と呼ばれるその男は、俺よりも若々しい姿をしていた」
「なあ、お前の父さんって、俺らがまだ小さい頃に戦場に行ったはずだろ?なのになんで生きてるんだ?あの出来事からもう何年も過ぎてるだろ」
「そう、お前の言う通り俺の父親が軍役に出たのは10年ほど前だ」
「でもよ、ヘンリーの話を聞く限りお前の父さんは年をとるどころか若返ってるじゃないか」
海斗の疑問は的を得ていた。空の頭の中にはとあるフレーズが蘇っていた。
『いくら俺たちが不死身だからって』
ヘンリーから聞いた中にひっそりと影を潜めつつも独特の存在感を放つそのフレーズ。
『不死身』空の心の中にはその言葉が引っかかって抜け出すことが出来なかった。
そしていつしか読んだ本の中に『不老不死は今や現実のものとなっている。世界の裏側にある禁断の果実を口にした者は不老不死を手に入れることが出来る。』そう書かれていたことを思い出しぼそっと口に出す空。
「なんなんだそれは」
「いや、とある本に載っていたんだ」
「それって、俺らが小さい頃に読んだ子供向けのくせして、内容大人にならないと理解できないような絵本の内容だろ?そんなの嘘に決まってる」
「よく覚えてたな海斗。だったらこの絵本に続きがあるのも覚えてるか?」
「そんなの覚えてる訳無いだろ」
空はあきれたように一つため息をつき、再び聞こえるか聞こえないかぐらいの声で話す。
『不老不死となった英雄は偽物から本物を解放する。』
その言葉の意味にいち早く気がついたのはヘンリーだった。
「まさか、その英雄って」
「なんだなんだ?全く解らないぞ」
「まあつまりあの本は未来を予言していて、その英雄ってのはたぶん父さんのことだ。そして偽物は...」
手のひらを拳で叩き空に指を指す海斗。
「分かった!それはクローンの奴らだ!」
満面のドヤ顔の海斗をよそに平然と話を続ける空。
「そしてここにあるその本の先にはこうも書かれていた。『英雄は今もまだ旅を続けている』ってね。しかしなあ、この本三部構成なんだが残りの一冊はここには無いらしいんだ」
「もしや、その最後の一冊さえ見つければ」
「そう!クローンから人類は自由を取り戻せる」
空の言葉はその場に居る人間すべてに強いインパクトを与えた。
海斗と空は決心がついた様子だった。
「これで、理由が見つかったな」
「ああ、そうだな。そうだ、ヘンリーここに来るまでに奴らは居なかったのか?」
「もちろん居たさ」
「だったらどうしてここまで来れたんだ?」
これを使ったんだよと、薄汚れたローブの中から一丁のライフルを出す。
「何だそれは?」
「何だよそれ俺にも貸してくれよ」
ライフルに手をかけようとした刹那ヘンリーは「触るな!」と大声で怒鳴った。
「ヘンリー、ごめん」
「こっちこそいきなり大声を出して悪かった。これには特別な弾が入ってるんだ」
「特別な弾?」
「ああ、この弾はなクローンに当たった瞬間にその体に微弱な電流を流すんだ」
バン!
大きな銃声とともに壁へと撃たれた弾丸は壁に着くと同時に青白い稲妻が壁を伝う。
「全然微弱じゃねーじゃん!」
あまりの出来事に驚きを隠せない海斗。
海斗の様子を他所に、空が質問する。
「一ついいか?」
「なんだ?」
「どうして、クローンに電気が効くんだ?」
「そういえば言ってなかったな。奴らの脳は機械で出来てるんだ。だから少し電流を流すだけで奴らの脳はショートするって原理だ」
やはり海斗だけ理解できてない。
「じゃあやっぱりこれは通用するんだな」
「何だそれは」
空の背後からは、鞘に納められた一本の日本刀が出てくる。
「俺が発明した電流か流れる刀だ、言うなれば『雷鳴刀』ってところかな」
「こいつ暇さえあればなにか作ってるからな、俺なんて電気ながれる槍を二本も作ってもらったんだぜ」
自慢げに話す海斗。
二人はそんな海斗を真顔で数秒間見つめ話を再会する。
「さて、俺たちはヘンリー君からの伝言の通り中心に向けて旅を始めようと思う。君も来ないか?」
「その誘い方父さんそっくりだな、いいぜ、俺も行く。お前達の行く末が見てみたくなった。だがどうやって移動するんだ?」
「手はある。決行は明日の早朝だいいな?ヘンリー、海斗」
同時に返事をするヘンリーと海斗。
その次の日の早朝、大きなエンジン音とともに1台の軍用車両が、街から旅立った。




