事の始まりと男の記憶:C
翌朝、牢獄に何人もの男たちが来た。
それは、降り止まない雨の日だった。
「なんだ!お前たち!」
クローン兵の怒鳴り声により牢獄に収容されていた人々は目を覚ました。
もちろんヘンリー達も。
「やあやあやあ、今日も今日とで元気だね〜。『人類モドキ』君達」
「隊長!初対面の人たちに失礼ですよ」
「いやあ、すまないね」
軍服を着た大柄な男達の中に一際目立つ一人の男。
隊長と呼ばれるその男は、クローン兵のことを『人類モドキ』そう呼んだ。
口調、姿、服装を見た美咲は膝から崩れ落ちた。
「うそ、だろ?」
「どうしたんですか?姉さん」
心配になり美咲の顔を覗き込む次郎。
彼が見た美咲の顔には一筋の雫が流れていた。
「どうしよう?ヘンリー姉さん泣いてる。俺何したらいい?」
「まあまあ落ち着け、次郎。とりあえず俺が話を聞きに行く」
膝から崩れ落ち涙を流している美咲の側へと近寄るヘンリー。
「なあ、一体どうして泣いているんだ?」
「私泣いてるのか?」
「ああ、泣いてる。ものすごくね」
「そうか。なあヘンリー。私が前に話したこと覚えてるか?」
「ああ、弟が居ることとか、父親が戦争に行って帰ってこなかった...ってまさか!」
美咲と過ごしたここ数ヶ月間の記憶が脳に詠み上がってくる。
「そう、アレがたぶん私の父親」
涙で嗚咽く美咲の口からは、ヘンリーが予想してた通りの回答が帰って来た。
その回答にただ呆然と立っているしか出来ないヘンリー。
触れたくても触れられない、目の前にある見えない壁は二人の距離を永遠と放していく。
クローン兵の前に立ちふさがる、大勢の男達。
クローン兵は背中に担いでいたマスケット銃のような何かを男達に向ける。
「其処から一歩も動くなよ?一歩でも動いたらお前らの頭をぶち抜く」
「おっと、怖いねー元側近の英俊君」
「隊長。こんなときだけ下の名前で呼ぶのやめてくださいよ。私が下の名前で呼ばれるのが嫌いなこと知ってますよね?」
「何だ貴様ら!銃を向けられてどうしてそんなにぺちゃくちゃ喋っていられる!」
そう怒鳴り散らすと同時にトリガーにかけていた指を引く。
『ガキン!』
隊長の手には鞘から抜かれた一本の日本刀。
金属が切れる音とともにクローン兵の首が飛ぶ。
切り口からは透明な液体。
肉によく似た白い固まりも漏れて来た。
となりに居たもう一人のクローン兵は何が起きたか状況の把握が出来ていなかった。
「なあ、英俊。俺一歩も動いてないよな?」
「だから、下の名前でって、今はまあいいですが。たしかに一歩も動いてないですけど」
「なら無実だ」
そんな会話を無視してもう一人のクローン兵がトリガーを引く。
「あぶない!」
隊長の目の前に飛び出して来た英俊。
隊長をかばい肩に銃弾を受ける。
血が出た、しかしすぐに血が止まった。
と言うよりかは傷口が塞がった。
「全く、俺らが不老不死になったからっていきなり前に出てくるなよな」
「すみません」
あからさまに落ち込む英俊。
「ほら、落ち込んでないでさっさとこの人たち解放するよ?」
「解りました。さあ、皆さんやっちゃってください!」
かけ声とともに男達はヘンリー達が閉じ込められてる牢獄を壊し始めた。
男達が牢獄を壊し始めてからはや数分。
既に閉じ込められていた人々の約9割が解放されていた。
「なあ美咲行かなくていいのか?」
「行ってみるよ」
隊長の元へと近寄る美咲。
その背後から心配そうに見つめるヘンリーと次郎。
「と、父さん?」
「ん?なんだ?って美咲か!?」
「覚えてたの?」
「もちろんだとも。最愛の娘の顔を忘れる訳が無いだろ。そうだ、母さんとチビはどうしてる?」
「母さんはもう...弟はあそこに置いて来た」
「そうか...なあ、美咲突然だが俺たちとこないか?」
「本当に突然だね。その前に聞きたいことが山ほどあるんだけど」
「そんなの旅の途中で話すよ。どうだ?其処でこそこそしてる君たちも来ないか?」
いきなり話しかけられたことに驚く二人。
「俺は姉さんについていきます。ヘンリーはどうする?」
「俺は、遠慮しておく」
「で、誰がついてくるんだ?」
「俺は姉さんについてい来ますから、もちろん行きます」
「君は?」
申し訳なさそうにするヘンリー。
「いいんだ、父さん。私は彼に伝言を頼んでるんだ」
「そうか、仕方ないな。じゃあ、俺も伝言頼んでいいかな?」
「いいですよ」
「多分娘と同じ人に伝言だ。『世界の中心で待つ』そう伝えてくれ」
分かった、と、頷きヘンリーは彼らに背を向ける。
「それじゃあ、達者でな。伝言頼んだぞ」
「任せておけ。そう言えば礼を言ってなかったな。助けてくれてありがとう」
そう言い残しヘンリーは美咲達と別の道へと歩んでいった。




