事の始まりと男の記憶:A
この世界からは、人類の約7割が消滅した。
原因なんて簡単だった。
人類は限られた資源を使い尽くし、自らを破滅の道へと進めて行ったのだ。
しかし、こんなのは原因の一割にすぎない。
人類が食物を探し町中を彷徨ってる中ある科学者現れた。
その科学者は、科学の力を駆使し飢餓に苦しむ人類を助けたのだ。
科学者はクローン技術の第一人者だった。
小さいものから大きなもの、植物から動物まで様々なものを作り出した。
科学者は人々から神とまで呼ばれることもあった。
しかし、クローン技術で人間は作られなかった。
もちろん人々は科学者に祈った「クローン人間は作り出されないのか」と、しかしクローン技術の進歩の中で人間を作り出すことは禁忌とされていた。
ある日、科学者の助手の一人の娘が交通事故で死んだ。
助手は科学者に「娘をクローンとして生き返らせてはくれないか」そう頼んだ。
もちろん科学者はその頼みを断った。
「なんでですか博士!」
「ダメなんだよ。クローンで人間は作ってはいけない」
「博士がダメなら、俺が作ります!」
悪夢の始まりだった。
見事助手はクローンとして娘を生き返らせた。
人々は助手を賞賛した。
それと逆に博士は批判を受けた。
「助手君。君はやってはいけないことをしてしまったようだね。ここから起るであろう災害や戦争などの後始末は君に任せたよ」
「博士!どこに行くんですか!」
「私は事の重荷を背負いきれなくなったんだ。すまないが私はここで下ろさせてもらう。またどこかで会おう」
博士はその日から研究所には帰ってこなかった。
その日から時代は変わった。
飢餓により失われた人類の約2割がクローンとしてよみがえったのだ。
もちろん人々は喜んだ。
しかし、これこそが純粋な人類が約7割も失われる事になるなんてこの時は誰も考えつきやしなかった。
事が起きたのは博士が失踪してからちょうど2年目の事だった。
突如鳴り響くサイレンの音。
助手はあわてて扉を開け町を見下ろす。
町は燃えていた。まさに地獄のようだった。
町中には以前のように活気あふれるにぎやかな声であふれてなどいなかった。
人々のうめき声や叫び声、人間だったモノは町を徘徊し、母は子を抱え泣き叫んでいる。
川には火を消そうと飛び込んだ人間たちが赤黒い肉塊となって山になっていた。
クローンたちは独自のネットワークを形成し、自分たちが生き残るすべを導きだしその結果人類を減らし続けた。
虐殺は約3年で幕が下りた。
クローンはたった3年で純粋な人類の残り約7割を撲滅させたのであった。
かつて助手だった男は虐殺の一部始終を見ていた。
クローンの急速な文明の発達の発達。
人々が炎に包まれただの肉塊となり、死んで行くその姿。
これらの光景は男の眼球から脳、して身体の隅々へと二度と忘れる事のできないトラウマを植え付けた。
男はふと脳裏に博士の残した言葉がよみがえった。
「『戦争』....博士はこれを知っていてクローン人間を作り出さなかったのか。俺はなんて事をしてしまったのだ」
男は廃れた。
頭の中に残る阿鼻叫喚を忘れようと、酒を飲み危うく薬にまで手を出しかけてしまった。
だがあの光景を忘れる事は無かった。
男が安住の地を求め旅をしているとある一つのスラム街にたどり着いた。
そのスラム街こそ残された人類がクローンに抵抗できる最大の資源を持った砦だったのだ。
しかしその時代には、クローンを見分ける機械もない。
友人の俺は慰めることが出来ず。
心の傷を癒すことも出来ずただ淡々と男の姿を見ることしか出来なかった。
それからしばらくして俺や他の研究員は逃げるようにしてスラム街へと移住していた。
其処では自分たちの望んだ理想の平和があった。
そこで最悪の事態が起きた。
スラム街の人々は、自分たちの中にクローンの諜報員がいることに気が付かなかった。
人々はクローンが率いる軍隊に攻め入れられどうする術もなく奴らに捕まった。
それからしばらくし、街の人々は投獄された。




