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残された人類は、外の世界に夢を抱く  作者: Regulus
1章〜王女と7人の戦士〜
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それから

 空が目を覚ますとそこには見知らぬ天井が広がっていた。

 白い天井、白いカーテン、白いベッド。

 一行は街の病院へと連れられていた。

「あらやっと目が覚めたみたいだね空」

 隣のベッドで本を読んでいるリーチャオ。

 その周りに海斗とヘンリーの姿は無く、話によるとどうやら病院の先生に呼ばれ話を聞いているようだった。

「俺らいつ病院に?」

 ベッドから起き上がろうとする空。

 全身に鈍い激痛が走りその場で踞ってしまった。

「無理して起き上がらない方がいいよ。なんせ体中の筋繊維がほとんど切れて動けるような状態じゃあ無いらしいからね」

「そうかやっぱりか...」

「やっぱりかって、え?知ってたの?」

「まあね、なんせあのスーツ作ったのは俺だからな。人間の運動神経を何十倍にも向上させるんだ、体に何らかのダメージが無い方がおかしいって話だ。まあ、筋繊維がボロボロになっただけまだいいけどね。予想では内蔵もボロボロになってるはずだったんだ」

 空が軽々しくそんな事を話していると、話を終え戻って来た海斗とヘンリーが扉の外で聞いていた。

「なんでそれ最初に言わなかったんだよ」

「本当に申し訳ない」

「まあ、それくらいで済んでよかったな。生憎俺たちも入院だ、時間は山ほどある。話、してくれるよな?」

 空は、顔が強張るヘンリーの威圧に圧倒され「分かりました」と返事をするしか無かった。


「ところで、何の話をしてたんだ?」

 空は、必死に話をそらそうとした。

「そうやって話をそらすのか、まあいい。いいか、これから大事な話をするぞ」

 いつにも無く真剣な表情のヘンリーは話を始めた。

「俺たちは二つの話を聞いて来た」


 二人が聞いて来た話の内容は、以下の通りであった。

 一つ目は空の体の事。

 空の体はあまりに酷いらしく、数日で日常生活を送れるほどの回復は出来るが、最低でも一週間ほどは激しく体を動かしては行けないと言われた。

 それに伴い空の作ったスーツはもっともな事が無い限り着用しない事と釘を刺されたと言う話。

 二つ目は、街を襲った女の話。

 話によると、医者達が空達の救護要請を受けたときにはもうその姿は無かったそうだ。

 ただ、一緒に体を運んでくれた街の人々からとある情報が耳に入ったらしい。

 その人々が言うには、全身黒ずくめの男が現れて頭が焼き切れ体中から煙の出ている女を連れ去って行ったそうで、残りの多くの兵士達もその場には居なかった。

 一行が話を聞く中で一つの疑問が生じた。


「しかし、なぜ俺たちが狙われてるんだ?」

「多分これよ」

リーチャオは病室の引き出しから一枚のSDカードを取り出した。

「何だそれは?」

「これは奴らの弱点や、倒し方の載ってるデータだよ。私は家族を奴らに殺された日からどうにかして弱点は無いかと探していてね、傭兵をしていた頃に奴らの基地の一つにこのデータがある事を知ったんだ。決死の覚悟でこのデータを手に入れたんだ」

「だが、なぜそれが理由で追われてるんだ?」

「今はもう無いけど、小型の発信器がついていたんだよ」

「今はもう無いのか?」

「これは、データを移した後の物。本物はここへくる道の途中に捨てて来たわ」

「ではなぜ、ここが分かったんだ?」

「分かった訳じゃないんだと思う。部隊を分けて各地へ調査していたらちょうどここに当たったぐらいの事だろうね」

 そんな話をしていると、いつの間にか夜が更けていた。


 もうすっかり夜になり、空には星が輝いていた。

 そんな、夜に似合わず外は騒がしかった。

「一体何の騒ぎ?」

「おいおいおいおい、なんで街中の人たちがこの病院に集まっているんだ?」

「何でもいいが傷に響くから静かにしてほしい」

 病院の周りには多くの人々が居た。

 しばらくすると、人々の中の何人かが病院の中に入って来た様子だった。

 急いで病室まで駆け上がってくる多くの足音。

 足音が近づいて来ていると思っていると一人の男が扉を強く開け病室の中へと入って来た。

「貴方達がこの街を救ってくれた方々ですか?」

「救ってなんかいないが、戦ったのは俺たちだ」

 人々が「やはりそうだったのですね」と納得すると後ろから大きな小包みを持って何人かの人が前に出てくる。

 人々が持っていた小包みを開けると其処には空達が戦った際に使用した武器が出て来た。

「それって俺たちの!」

「落ち着け海斗。少し形が違う」

「これは、貴方達が使ってた物に変わりありません。ただ少し改造を施させていただきました」

「改造?どういう事だ?」

「私達の多くは旅商人です、そして旅商人の中には武器商人も居ます。私たちはその武器のスペシャリストにメンテナンスと、各種様々な改良をしてもらいました」

 確かに人々の持っている武器達の見た目は少しづつ変わっていた。

 空の刀は以前よりも機械感を増しており、手元のスイッチで電流のコントロールが可能になっていた。

 次に海斗の槍、この槍は、ワンタッチで伸び縮みするようになり小型化がされていた。

 そしてヘンリーのライフル、これはマガジンに入る量が増え、銃弾も1カートンほど作られていた。

 最後にリーチャオのグローブ、これは元の素材が変わっておりより格闘戦に特化した作りとなっていた。

「こんなに改良してくれていたなんて、いくら払えばいい?」

「金なんていらないです、あんた達が居なかったら俺たちはとっくのとうに全滅していました。私たちの代わりに戦ってくださったあなた方への唯一の恩返しです」

 奥からこの病院の先生がやって来た。

「ほらよ」

 先生は空に一つの小包みを渡した。

「これは」

 中には空の来ていたスーツが入っていた。

「まあ、俺なりの改良で、ある程度は体へのダメージが無いようにした」

「ありがとうございます!」

「だがな、あんまり使いすぎるんじゃないぞ。あくまで少しだけダメージを減らしただけだからな、使いすぎるとまた同じ事になり得ない。分かったな」

「分かりました」

「さあ、私たちの武器も受け取ってください!」

 一行はその好意に甘え各々の武器を譲り受けた。


 それから数日が立ち、空の体は完璧では無いが容体がよくなり一行は街を後にする決断をしていた。

「とうとうこの街ともお別れだな」

「そうだな、まあ、病院以外でゆっくりする事は無かったけどな」

 三人の会話の後ろで少し物悲しそうな表情をしているリーチャオ。

「じゃあね、三人とも」

「何言ってるんだ?」

「だってよく考えたら私が一緒に行ったら貴方達に迷惑をかけるからここでお別れ。短い間だったけど楽しかった!またどこかで会おうね」

 彼女の目からは涙が流れていた。

「はあ、なにか勘違いしているようだが、俺たちはお前に迷惑なんかしてないさ」

「そうとも」

「間違いない」

「ありがとう。でもやっぱり」

「ぐだぐだ言ってないでお前も支度しろ。最初に会ったときお前行ってたな、『私も仲間に入れて』って」

「うん、言った」

「答えはオーケーだ。そもそも断る義理も無いしな」

 空の一言を聞いて再び彼女は泣いてしまった。

「どうだ?お前は?」

「私も一緒に行きたい!」

「では改めてよろしくリーチャオ」

リーチャオの目の前に手を差し伸べる空、彼女はその手を堅く握り返した。

「私の事は『リー』と呼んで、その方が短くて呼びやすいでしょ?」


 少女の目に曇りはもう無く、その目はただただ未来と仲間達を見ていた。

『家族のみんな。私にも仲間が出来たよ、いつか敵を取るから待ってて』


 翌日四人を乗せた車が、人々に感謝されながら街を後にした。



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