少女の話
街の隅にある宿屋。
外観こそは古いものの建物自体は大きく、何人か客が泊まっているようだった。
「ここか」
「この街の隅にある宿屋なんてここぐらいだからね」
「何から何まで済まないなリーチャオ」
「いいのよ」
三人は恐る恐る宿屋の扉を開ける。
エントランスは思っていたよりも奇麗で、カウンターには一人の男が立っていた。
「今時間ありますか?」
「やっぱりお前初対面相手の人だと敬語になるんだな」
空はヘンリーのその一言を受け流す。
「どうされました?」
空は父からの手紙とともに送られて来た写真を見せる。
「どうしてこの写真を...」
「父から送られて来たんです。この写真を見せるといいと書かれていたもので」
「そうですか、貴方が。いやいやとうとう来てしまいましたか。こちらに部屋を用意しております。着いて来てください」
一行はこの宿屋の店主であろう男に連れられて、宿屋の中でも奥の部屋へと入って行った。
「こちらのお部屋ご自由にお使いください」
中は広くベッドが四つ、大きな机に四脚の椅子。
其処はまるで空達が四人で泊まる事を予想していたかのように準備がされていた。
「何だこの部屋」
「分からない。なあ店主あんた一体何者だ?」
「私ですか?今ではこんな寂れた宿をしてますが、元々は貴方のお父さんと一緒に旅に出ていたんですよ」
「じゃ、じゃあ、あんたも不老不死なのか?」
「不老不死?何の事だか分かりません、私はきちんと歳をとりますし怪我だってしますよ」
「そうか、ご好意に甘えてこの部屋を借りる事にするよ」
店主がその場からいなくなると一行は手に持っていた荷物を置き、病院にいる海斗を迎えに行った。
海斗も加わり、リーチャオが昔の話を始めた。
「さあ、私の話を聞いてくれるかしら?」
「話を始めてくれ」
「私は、元々幸せな暮らしをしていた。父と母と弟と私の四人でね。父は優しく私たち姉弟にいろいろな事を教えてくれた。母は厳しく私たち姉弟が喧嘩したときには自分も泣きながらきちんと叱ってくれた。何よりも私が家族の中で一番好きだったのは弟だった。年が離れてるのもあるけど私にはかわいくて仕方が無かった。あの子が産まれた時から一緒に居て、いつもいろいろな事をして遊んで怒られて。私が一番幸せに感じたのは家族と一緒に居た時間だったんだ」
リーチャオは懐かしい思い出を思い出し何とも言えなく何処か悲しい表情を見せる。
「だったとは?」
「ある日ね私たち家族が住んでる街の直ぐ横でクローンによる襲撃が始まったんだ。もちろん私も、私の家族も、街の人々は考えたよ。頼むからうちの街にだけはこないでくれってね。そう思いつつも旅に出る支度はしなければならなかったんだ。案の定奴らは来た。それもその日のうちにね。街の人たちは逃げことごとくどこかへ避難しただけどみんな殺されて行った。どうやら街の中に内通者が居て私たちが逃げる経路を把握していたらしい」
「なぜ、そんなスパイを奴らは送って来たんだろう」
「分からない。でも奴らは何かを探している様子だったんだ」
話を続けてくれと、ヘンリーが促す。
「ごめんなさい。ちゃんと話し付けます。でさっきの話の続きだが。私たち家族もなんとか街を抜けれたんだが、その道中奴らは私たちが来るのを待っていた。それに6人もね、私と父と母はどうにかして弟だけでも助けようとした。しかしね、父と母は私をかばって私と弟の目の前で死んで行った。私は弟も守るために戦った、次第に私の体力がなくなり最後の一人を倒す前に力つきてしまった。私がはんやりと覚えてる、弟は起き上がれない私を守り、体から赤い液体を出しながら死んで行った」
「すまない、こんな話を聞かせてしまって」
「いいんだよ。私が覚えてるのはここまでだし」
ここまでと言う言葉に疑問を持った三人は更に質問をする。
「その後は...」
リーチャオが話を進めようとすると、街中に突如としてサイレンが響き渡った。
空が外を見ると其処には、自分たちを苦しめたあの女が歩いていた。




