父の背中
今日も街は賑やかだ。
街は、カップルの声、おそらく親子であろう3人組の声、様々な声であふれている。
だがこの街に本当の人間なんて存在しなかった。
約6年前の出来事。
人類はこの世の自由を取り戻すために日々戦っていた。
人類は私利私欲のために戦っているのではなかった。
約5年前に起きたクローンによる人類の大量虐殺。
これによる人類の7割の減少。
建物の陰や地下でおびえて暮らす人々の悲痛な叫び。
たった5年間で起きたこれらの出来事、だが人類にとって忘れてはならない大きな5年間の出来事。
残された人類は自由と平和のために立ち上がった。
最初は小さな一歩であったが、今ではかつて『ニホン』と呼ばれていた国を奪還するまでの力を手に入れていた。
虐殺から逃れた人々はニホンへと集まった。
しかし、残された人類の約3割もがニホンに収まる訳も無く、人類は新たな領土の解放を余儀なくされていた。
「第一陸上部隊!装備の確認は済んだのか?」
「はい!只今完了いたしました!」
「それでは!これから新領土解放作戦を実行する!皆のもの必ず生きて人類の希望を取り戻すぞ!」
男の呼びかけと共に、その場にいる男たちは野太い雄叫びをあげた。
その中やってきた隊長の補佐官が耳打ちをする。
「隊長、お子さんがお見えになっています」
「今行く」
そこには、まだ幼さの抜けない幼気な瞳をした少女とその傍らに隠れる小さな少年がいた。
「ほら、何やってるの!お父さんにいってらっしゃいは?」
「嫌だ!したくない!僕お父さんとずっとここにいる!」
少年はそう言い、隊長へと抱きついた。
「大丈夫だ、父さんは直ぐ帰ってくる。だからその間、母さんと姉ちゃんはお前が守ってくれ」
「僕にはできないよ。まだ小さいし、力だって弱いもん」
「大丈夫!お前は俺の自慢の息子だ!お前なら絶対に守れるさ」
「本当に?」
「おう!」
「お父さん、明日の僕の10歳の誕生日には絶対に帰ってきてね」
「父さんは絶対に帰ってくる。そして、みんなの平和を取り戻してくる!もちろんお前の誕生日を祝うためにもな」
そう言い、首元に鮮やかな金色のペンダントを付け、少年の頭をぐしゃっと撫で回し、笑顔で約束を交わして。隊員の元へと戻って行った。
その四ヶ月先の事。
隊員は誰一人帰ってはこなかった。
それから、4年間にも及ぶ探索隊による懸命な捜索にも関わらず十分な成果は得られなかった。
残された家族は、少なからず復讐を誓うものもいた。
部隊の中には結婚し子どもがいた隊員も居たそうで、捜索の中断が言い渡されたその日から、三日三晩街には家族の悲痛な叫びが響き渡った。
少年は、自分は何も知らない誤摩化しながらも誰よりも早く現状を理解していた。
「ねえ、母さん。父さんもう帰ってこないんでしょ?」
「何言ってるの!」
母は少年の頬を強く叩いた。
「なんで叩くんだよ!街の人が言ってたんだ!父さんたちはもう帰ってこないって!」
「お母さん?何大声出してるの?」
「あなたは部屋に戻ってなさい!」
涙を浮かべた母の顔は、まだ希望を捨ててなかった。
目に涙を浮かべた少年、それをただ見つめる事しかできない少女。
母は我に戻り今の状況を理解した。
「私はなんて事を。子どもたちに罪は無いのに」
母は子どもたちを強く抱きしめ一晩中謝り続けた。
少年と少女はそんな母を許し、再び泣き出した。
行き場の無くなった人類は新たな希望を求め奮闘する。
しかし、その背後に迫る闇の深さに人類の希望は飲み込まれて行く。
その数ヶ月後、母親は病に倒れ。
姉はクローンと戦うゲリラ軍へと入隊し、父のあとを追い戦場へと向かった。
一人になってしまった少年はそれから数年後、深い闇に飲み込まれず、自分のなすべき事を理解し行動を始める。




