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バッテリーの充電が切れる前に、2台の小型車は無事探索を終えてガレージに戻り着いた。
新種どころか奇形種と思しき生物には一体も出会えなかったようだが、それもそのはず、奇形種を乗せた鳥型ロボットを森羅が自分の生まれ故郷に向けて飛ばすわけがなかった。
「所々に風化した廃墟はありましたが、人はいませんでした。残留放射能の測定値は、他の大陸とは比べものにならないくらい低い数値でした」
このシシランの報告から、スグルは推測に基づいた意見を述べる。
「第三次世界大戦後、日本人はこの巨大な島国とも言えるオーストラリアを、新たな日本国として繁栄させる夢を見たのだと思う。アトミックブライトもこの大陸にだけ半減期の短い核種を使用して、放射能の早期浄化を図った可能性がある。だけど、ここで疑問が一つ。なぜここから人がいなくなったのか。本来なら地下シェルターを中心に地上に町が形成されていてもおかしくない。700年もあれば今頃はダーウィンを首都にした一つの国が完全に復興できているはずなのに」
「考えられる主な原因は未知の病原体による流行感染でしょうか。それでも私たちでさえ早急なワクチン開発や空調管理でそれらを妨げているのですから、やはり疑問が残りますね」
シェルターとその周辺に人が一人も生き残っていないことに対し、生物学者のシシランも現時点では説明がつかないようだ。
たとえ奇形種の脅威がなくても別の危機が住人を葬ったということなのか。
ガランとした居住空間の不気味な静寂は、3ヶ月前に崩壊した村の最後を若いニュートラルたちに想起させる。呆気ない幕切れはある日突然訪れるものだ────抗う手段もないままに。
その夜────
スグルは相変わらずコントロール室の中央システム端末に全集中力を傾けていた。半日で施設内のネットワーク系統はほぼ網羅できたが、どこかに眠るアトミックブライトにはまだ辿り着けていなかった。
「寝ないのか」
付かず離れずの位置からヴォイドの声がする。
「眠くなったら寝るよ」
端末に素っ気無い返事がはね返る。何かに集中しているスグルの態度はこんな感じだ。
「スグルと同じ部屋で寝ようと思ってる。だから待ってる」
「ふうん」
と流して数秒。その意味を理解した途端に小さな心臓が過剰に動き出す。
「ま......待ってなくていいから。先に寝てて」
「先に寝るくらいならここで見ている」
「集中できないから、見ていなくていいっ」
「つれないな」
残念そうに言い残し、とぼとぼと足音が去って行った。
途切れた集中を取り戻すためにスグルは深呼吸をする。さっきまで取り組んでいた複雑な認証作業がどの段階まで進んでいたのか、分からなくなってしまった。
「ああ、もう......最初からやり直しだ」
気をとり直してタッチパネルに向かったが、頭に浮かぶのは苦労して読み解いたIDやパスワードなどより、ヴォイドの事だ。
「一緒の部屋で寝るとか、そうなったら今度こそ何されるか分からないじゃないか。護衛にアシモを連れてかなきゃ。でも電源切られたらそれまでだし......」
一人でブツブツ言いながら、何をされるのか一度想像してしまうと、もうアトミックブライトどころではない。
「部屋で......待ってるのかな」
そう思うと心が落ち着かず、膠着した作業の再開がひどく億劫になってしまった。
「ハァ......もうダメだ」
結局、続きは明日に持ち越すことに決めた。こんな精神状態で間違って起動装置を発動させでもしたら、取り返しのつかないことになる。
スグルが液晶パネルの電源を切ろうとしたところへ、小さな足音が近付いてきた。振り返るとシオンがいた。
「僕も手伝う」
どこか掴みどころのない表情で言う。その顔を改めて正面から見たスグルは、彼の瞳が赤ではなく黒いことに気づいた。髪の毛も、肌の色も、美しい顔立ちも、ただ一点を除いて完璧なニュートラルにしか見えないのに。
その一点は低い位置からスグルを見上げ、何を考えているのか分からない無表情に、より不可解な印象を与えている。
「もう寝ようと思って。また明日にしない?」
部屋の壁時計を見ると、午前1時を回っていた。幼い子どもはとっくに寝ていなければならない時間だ。
「それなら一人でやる」
シオンは頑なに言って聞かない。
その気持ちはスグルにも理解できる。あらゆる機械を攻略し思いのままに操作したい────その願望が生む過度な執着に、長年囚われてきた者の一人であるから。
「それじゃ、もうちょっとだけだよ」
いくらシオンが機械に強くても、中性子ビームの誘導照射などというものに直結するシステムを子ども一人に操作させるのは危険すぎる。
スグルは仕方なくパネルに向き直り、削がれた集中力を取り戻そうとした。
「.........」
シオンがまた何かをつぶやいた。
だがあまりに平坦で微弱なその独り言は、もはやスグルの耳には届かなかった。




