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コンパスは無いが太陽の動きを頼りに北東を目指し歩く2人の前には、後にも先にも、まるで旅人を導くかのように、地肌の覗いた一本道が進むべき方角へと続いていた。
なだらかな地形が終わり、傾斜のある山道へ差しかかった時、ここでもまたスグルが何かを見つけた。
「卵だ」
足元の小さな窪みに、拳大ほどの紫がかった卵が3つ。
ヴォイドが周囲と窪みを注意深く見分し、
「おそらく奇形種のものだろう」
と言って、持っていた皮袋に3つとも投入した。
「どうして奇形種の成体には何の価値も無いのに、卵は高価な値で買い取ってもらえるのかな」
「詳しくは知らないが『胚』というものを研究している学者がいるらしい。ちなみにあのクモ男の卵は850ドルだった。希少な種になるほど高値で売れる」
クモ男の話は余計だ、また思い出したじゃないかとスグルはちょっと顔をしかめる。思い出したのはクモ男ではなくその後ヴォイドにされたことの方だ。
「胚か。まさかその学者がキメラの創造に加担しているんじゃ......。どんな人なの?」
「さあ。学者についてはミチカも知らないと思うが。ヨークの総督にでも訊けば何か分かるかもしれないな」
「ヨークか。あまり好きじゃないな、あそこ」
「俺もだ」
しばらくして、ヴォイドが立ち止まり、ある一点に視線を留めた。
気配────何かは分からないが、何者かがいる気がしたのだ。
「俺から離れるな」
腰の鞘から抜いたバスタードソードを右手に握り警戒態勢を取る。
気配が動いた刹那────それめがけてバスタードソードを投げ放った。
いくつかの影が、2人の周りで躍動した。
シュッ。シュッ。シュッ。
スグルの肉眼では捉えきれない速さで、何かが飛んできた。ヴォイドも全てを見極めたわけではないが、軍事教育で育成された戦闘能力と奇形種との戦いで培った実践の勘が、四方から投擲された何かを完璧に避けた。そしてスグルの身を守るようにして地に伏せる。
木の幹に突き刺さっている黒い投擲物────スグルはそれを見て、さっき耳にした音といい、まるで手裏剣のようだと思った。
次いで攻撃の第二波が襲いかかった。
まさに忍者のような黒覆面が空中で身体を翻しながら接近し、手にした短刀でヴォイドの首を掻き切ろうとする。
目にも止まらぬ刃の応酬。大剣と短剣が火花を散らして激突する金属音の連なりは圧巻であった。
3対1。
だがヴォイドに隙は無い。忍者たちの波状攻撃はことごとく潰されていく。
「待て」
と、誰かが鋭く制した。声がしたのは投擲物が刺さっていた木の陰だ。
「そちらの方。もしや我々の同胞ではござらぬか」
声の主が姿を現した。その人物はヴォイドが最初に投げつけた剣によって腕に傷を負っていた。傷口を押さえていた左手を離し、その手で覆面を外して再び訊ねる。
「ニュートラル......いや、日本人ではござらぬか?」
「はい、僕は日本人です」
スグルがすんなり返答したのには理由があった。覆面を外した男もまた、スグルと同じ黒い瞳に黒髪の、小柄な「日本人」だったからだ。
ということは残りの3人も、顔は隠したままだったが、彼が「我々」と言ったことからして日本人なのだろう。
「どちらへ向かわれている? この先には凶暴な野獣しかおりませぬぞ」
警告する彼らは、果たしてキャビテーションに人を近寄らせない算段なのか。
「僕たちは道に迷ってしまったようで、ほとほと困っていたんです。食料も尽き、今夜の寝床も見当たらない。かなりピンチな状況でした。でもまさかこんな所で『同胞』の方に会えるなんて」
スグルのわざとらしい三文芝居は、忍者たちの目にどう映ったか。
いや、彼らも色々と同胞に訊ねたいことがあったのかもしれない。
「ならば我々の里に案内いたそう。かように珍しい客人は何十年ぶりでござろうか」
700年の時空を超えてきたスグルだったが、いったい彼らは何百年の過去に遡るのだろう。
「あなたたちは、やはり忍者......なんですか?」
スグルが古めかしい黒装束をしげしげと眺めて言うと、
「はは......所詮真似ごとに過ぎませぬ。ですが里に寄ってもらえればお分かりになられるだろう。顔を隠し姿を隠して生きる者からすれば、かようなスタイルは不思議と理に叶っておるのだ」
傷を負った男は喋り口調も時代劇さながらの古風さで、膝丈まであるススキの中に分け入ったかと思うと、その先に隠れていた細い脇道を歩いて行った。




