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良くて骨董品、悪くて粗大ゴミ────空を飛ぶ戦闘機はどれも、スグルの目にはそう見えた。
陸地を走る方はまだマシだった。戦車や装甲車は、多少知識がある技術者の手によるものだろう。
この時代の主たる燃料はバイオ燃料のようだが、ただ、やはり燃費の向上を追求していないのかどの車両にも呆れるほど大きな燃料タンクが搭載されていた。軍事施設を見てもこうなのだから、ミチカの祖父が趣味で製作した太陽光発電式のバイクは、まさにグローバルにおける奇跡の逸品といえる。
警備の目を潜り抜けて戦闘兵器の眠る格納庫をこっそり自主見学したスグルだったが、たいした感動も得られないままロッジに引き返すこととなった。自分ならより高機能で殺傷能力の高いパフォーマンスが実現可能なのにと、歯痒い思いが残っただけだ。
用心深く周囲を見回し、誰もいないのを確認してから格納庫の裏手に出る。
ふと、すぐ横に黒いビニールシートで覆われた小山があった。シートの端を少し持ち上げてみると、そこには、おそらく訓練中に破損して使い物にならなくなったのであろう、兵器の部品の残骸が山積みになっていた。
壊れた部品の隙間から覗いているのは、モーバルの町でも品切れでずっと探し求めていた導線。機器に接続されたままの導線は手で引っ張っただけでは抜き取れないので、ズボンのポケットから携帯工具セットを取り出し、ペンチで切断する。
ガシャン!
山積みになった金属部品の一角が、音を立てて崩れた。
慌ててペンチを工具ケースに戻して急いで立ち去ろうとしたが、警備兵の足音と鋭い怒声が即座にスグルを包囲した。
「おい、お前! そこで何をしている!」
侵入者を発見して駆け寄った2人の若い兵士は、スグルの頭に銃口を突きつけ、後手に手錠をかけてあっけなく身柄を拘束してしまった。
「こいつ、どうやってここへ忍び込んだ? 見た目も奇妙で怪しい奴だ。すぐにアルトゥール様に報告しよう」
アルトゥール────それがここの主の名であれば、おそらくミチカたちもそこにいて、どうにか助けてもらえるかもしれないとスグルは祈る思いだった。
だが兵士に連行されてやってきた要塞の一室には、ミチカもファイもいない。そこにいたのは、真っ白な上級軍服に身を包み、腰にサーベルを差した若い司令官────長い金髪に透けるような白い肌、灰色の瞳、身のこなしは軍人らしからぬしなやかさで、ミチカの言っていた「エロジジイ」とは一見程遠い人物であった。
「何者ですか、この子どもは」
司令官は椅子から立ち上がり、物腰柔らかに兵士に訊ねる。
「ははっ。第二格納庫の裏に潜んでおりました不審者です。このような物を所持しておりました」
兵士が見せたのは携帯工具セットだ。
「おそらく兵器に細工を施す目的で侵入してきたかと思われます」
「そうなのですか?」
アルトゥールが怪訝な顔で問う。
「見学させてもらっていただけです。何もしていません」
とスグルは答えた。
「何もしていなくても、キミは立派な不法侵入者ですよ。即刻処刑もありえます。しかしまだ子どものようだから、射撃訓練の的にさせるのもかわいそうだ。それに......」
アルトゥールは不思議そうに、目の前の一風変わった風貌を覗き込む。
「珍しいですね、黒い瞳にそのような黒髪......まさか奇形種ではないでしょうね」
奇形種────
その一言で、スグルの迫力のない小さな顔が仏頂面を作った。思い出したくもないが、あのクモ男と同等な分際に位置付けられる不快感ったら、ない。
「調書を取ってからまた報告に来なさい。それまでは地下牢に入れておくように」
金髪の司令官はさらりと部下に命じた。
「ですがアルトゥール様、あの地下牢には先日奇形の蟻が出没し、看守が喰われたばかりです」
「駆除したのでしょう?」
「それが、まだ巣の駆除までには至っておりません」
「そうか......しかし『目には目を』と言うくらいですから、『奇形種には奇形種を』といきましょう。案外、蟻の巣を喰ってくれるかもしれませんよ」
鼻先で小気味よく笑ったアルトゥールだが、言葉と目つきに嗜虐性が露見する。どうやら一癖ある人物のようだ。
そこへ、新たな兵士が扉をノックして入ってきた。
「アルトゥール様、ゲストの一人がお目にかかりたいと申しております」
「ゲスト? はて、本日ヨークを訪れているのはどなたかな」
「俺だ」
兵士の後ろから姿を見せたのは、ヴォイドだった。
銀髪の見目麗しい訪問者を見て、アルトゥールの目つきが明らかに変わった。
「驚きました。こんな場であなたに会えるなんて!」
その言葉から、どうやら2人は今日が初対面ではなさそうだ。ちなみにその声は、草っ原から四つ葉のクローバーを見つけたかのような、良きお手本としてアシモに聞かせてやりたいくらいの驚き様。
「悪いが、仲間を返してもらいたい。勝手が分からず迷い込んでしまったんだろう。ただの子どもだ。大目に見てやってくれ」
ヴォイドはここでも子ども扱いをしているようだが、奇形種扱いよりはマシだった。とにかく今は彼に全てを託し、事の成り行きを見守るしかないスグルであった。
「そうはいきません。許可なく内部に侵入した上、軍用兵器に危害を加えようとした反逆罪の容疑もかかっていますので。あなたもよくご存知でしょう。子どもだからとて、ここでの軍法違反は重罪なのですよ」
アルトゥールの視線は終始ヴォイドに熱く注がれている。熱く────誰の目にも、そう見えた。
「こいつは危害を加えようなんて思っていない。加えるとしたらむしろ改良の方だろう」
「ほう。ではその辺りをもっと詳しく伺いましょうか。私の自室で、ゆっくりお茶でも飲みながら」
濡れるような瞬きをしたかと思うと、金髪の司令官は侵入者を捕捉している兵士に振り向いた。
「保護者から事情を聴く間、その子どもは地下牢へ......と、そうでした、蟻に喰われてもいけませんね。その子も一緒に連れて来なさい」




