その16 めんどくさい後輩君
静かになった佐々木を横目で見ると船を漕いでた。もう、私が隣にいるのになんで寝ちゃうのさ。イヤホン持ってきてないしなんにもすることがない。佐々木の肩に頭を預けてみる。・・・硬い。漫画とかだとこうやって寝るヒロインとかもいるけど眠れるわけないじゃん。
「・・・さん、やましげさん」
・・・またモルトか。肩を押してくるモルトを抱きしめ、頬擦りする。あれ?こんなにモルトって硬かったっけ。顔をあげてみると隣には佐々木がいる。じゃ、じゃあ、私が頬擦りして抱きしめたこれは?
「・・・えーっと、満足しました?」
佐々木の手だった。慌てて放り出す。
新幹線から降り、近くにあった喫茶店に入る。
『さっきはごめんなさい。寝ぼけてました』
「あ、気にしてないですよー。ヨダレ垂らされたけど」
『えっ』
「冗談ですよ」
『・・・どっちにしろごめん。お昼ご飯代出させて』
「や、先生から貰ってるんで大丈夫ですよ」
佐々木はやっぱりコーヒーを頼み、私はクリームサイダーを頼んだ。
「何も食べないんですか?」
『君だって何にも頼んでないじゃない』
「じゃ、追加注文しましょ。いちごミルクとジンジャーエール、どっちがいいです?」
『君って話を聞かないよね』
「那覇市出身だからですかね」
『那覇市を離れたら話が聞けないってこと?』
「や、語感が近いから適当言っただけですよ。いちいち間に受けんといてください」
もう。
『てか、君ってどこ出身なの?』
「俺は愛知県で生まれですよ」
『私も』
「奇遇ですね!」
『おんなじ高校でしょ。大体の人は愛知生まれでしょ』
「ふん、いい推理だな。だが探偵君、証拠がないじゃあないか」
『馬鹿言わないで。コーヒー来たよ』
店員さんが持ってきてくれた。佐々木はわざわざ頭を下げて受け取っている。
『ちゃんと頭下げるんだね』
「そりゃ勿論」
『憮然とした態度の客だって多いじゃん』
「あはは。あとその憮然って誤用ですからね」
『え』
「そもそもその憮然って言葉は落胆するって意味合いなんですよ。まぁ食事中だから重箱の隅を突っつく真似しただけですから気にしなくてもいいですよ」
『ほかにどんな誤用を知ってる?』
「まぁ、よく間違ってるのを見るのは役不足って言葉ですね。みんな自分の力が足りないってニュアンスで使いますけど逆ですからね」
『どういうこと?』
「自分の実力に対して、その仕事とか役職とかが簡単すぎる。役が自分の実力に不足してるからこそ役不足なんですよ」
へぇ。よく知ってるねぇ。
「まぁ、俺的には重複をじゅうふくって読む人が嫌いです」
『え』
・・・直さないと。
「まぁ、ヤバい、エモい、メロい、こんな中身のない日本語がみんな好んで使いますけど、俺は怪力乱神だとか光彩陸離だとか固い日本語を使いたいわけですよ」
佐々木は自慢げにそう語った。そしてコーヒーに口を付ける。
「・・・うっま」
・・・随分、中身のない感想だなーって思った。言わないけど。私も上のアイスクリームを食べる・・・うっま。




