その15 キスの味
そろそろ家を出よっかな。先生に言われた通り学生証もしっかりと持った。靴紐を結びなおし、姿見で全身をチェックする。うん、大丈夫そうだね。行こう。
校門前には先生と佐々木がまた喋ってた。話題は多分抹茶味のチョコについてかな。なんでその話題で盛り上がれるのかは全くわかんないけど。
「したら行くか」
「あいあーい、山重さんおはさんです」
『うん、おはよ』
先生の奥さんが運転する車に乗り、駅まで行く。先生はずっと奥さんの尻に敷かれてるみたいだけど本気で奥さんのことが好きなんだなぁって思ったし、奥さんも先生のことを本気で愛してるんだなとも思った。私もいつか人を愛して、その人に愛されるのかな?佐々木の方をちらっと見る。
「どうかしました?」
軽く手を振る。佐々木は首を傾げた。
駅に着いた。奥さんはそのまま息子さんの試合を見に行くみたい。先生は私たちに2枚のチケットを渡した。
「お前らは指定席だ。くれぐれも喧嘩すんなよ。あと、お昼代だ」
3000円渡された。佐々木は流れるようにお金を財布に仕舞った。そして先生に蹴り飛ばされた。
「あれ?先生は?」
「俺は自由席だ」
「お金がないんですか?」
「おっさん1人は自由席の方がいいんだよ。後、お前のテストを作らんといかんから来るなよ」
「教員って忙しいんですね」
「ああ。なるんじゃあなかったぜ」
先生と別れ、新幹線に乗り込む。めちゃくちゃ混んでるってわけじゃあなさそうだけど、人はそれなりに多い。佐々木が通路側に座り、私は窓側に座る。
「お昼ご飯、何食べます?」
『佐々木は何が食べたい?』
「ウナギ!」
『ウナギは予算的に無理かな』
「がーん。山重さんは何食べたいんですか?」
『私は何でもいいけど、重たいものは嫌だな』
「ま、ついてから考えましょ。おやつ持ってきましたよ!」
佐々木はリュックからきのこの山を取り出した。
『私たけのこの方が好き』
「そう言うと思いましてなんと両方買ってあります!はい」
・・・無駄に用意がいいね。別にイジワル言いたかっただけだけど。佐々木は缶コーヒーを開けた。コーヒーの形容しがたい匂いがする。
『なんで缶コーヒーなの?』
「なんでって言われましてもねぇ」
『ペットボトルコーヒーの方がよくない?持ち運びできるし』
「いいですか、山重さん」
佐々木はやけに真面目な口調でこう言った。
「ペットボトルコーヒーと加熱式たばこは、どっちも偽物です」
何が言いたいの?
「缶コーヒーってのは、コーヒーが好きでちょっと高いなぁって思いながら飲むんです。ペットボトルコーヒーはエナドリが買えない時にマズさで目を覚ますための飲み物です」
『・・・私コーヒー飲んだことないからわかんない』
「え、そんな人いるんですか。1口いります?」
佐々木は飲みかけの缶を普通に渡してきた。え、でも、これって間接キスだよね。佐々木は気にしないのかな。も、勿論私はなんとも思わないけど。べつに、佐々木が飲んでても味は変わんないし。えいっ。飲んだ瞬間、私は吐き出しそうになった。
『まっず』
「帰れ!」
『なにこれ。コーヒーってこんなに苦いの?なんでこんな苦い飲み物を好んで飲むの?』
「ガキには早いさ」
『かっちーん』
もう1口、ゆっくり少量口に入れる。舌を圧迫するような苦みとコーヒーの臭いが口の中で暴れまわり、やっぱりおいしいとは思えなかった。
「ふんだ。山重さんはヤクルトでも飲んでてください」
佐々木は普通に私が口を付けた缶を飲んだ。私が気にし過ぎただけか。軽く唇を舐める。なんだか落ち着かない。カフェインのせいかな。




