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その1 初めまして

「・・・七星、お前ヤバいぞ」

先生は溜息をつきながら化学の俺の自慢の答案を投げて寄越した。

「俺さぁ、お前にさんざん教えたよなぁ。補習の時もなんなら追試前日に全問題教えただろ」

「はい、超助かりました」

先生は机を叩いた。

「助かったってんならっ!なんで11点しか取れねーんだよ!お前、馬鹿なのか!」

「・・・おっかしーな、採点ミスじゃあないですか?」

「ミスも何もほぼ解答すらしてねーじゃねーか!」

「いやぁ、シャー芯が尽きちゃって」

「んなわけあるか!何かしら書いてさえいれば部分点もあげれたってのに白紙で追試を終える馬鹿があるかぁ!」

「いやぁ、俺の親父がわからないことをわからないって言える人になれって教えられたもんで」

「お前の親父さんを連れてこい!どつきまわしてやる!」

先生はひとしきり怒鳴り散らかした後、溜息をついた。

「・・・今回は俺の温情で追試を受かったことにしてやる」

「えっ、いいんですか!?」

「いいわけねーだろ!」

先生は再び机を叩いた。ペン立てが倒れ、落ちてきたボールペンを空中で受け止める。ふっ、感謝しろ。

「・・・お前、次ないからな」

「いやぁ、ありがとうございます。それじゃっ」

「待て、どこに行こうと言うのだね」

「いやぁ、用が終わったなら昼放課ですし焼きそばパンが俺を呼んでます」

「ついてこい」

「喫煙所ですか?あいにくライターの持ち合わせはないですよ」

「んなわけあるかぁ!」


先生に陸上部の部室に連れてかれた。怖いなぁ。

「ちょっとここに座って待ってろ」

「ちょっとだけですからね」

先生は俺の座ってるパイプ椅子をわざわざ蹴った後、部室から出て行った。

5分程ハンガーにかかってるユニフォームを女性用と信じて臭いを嗅ぐか逡巡していると、先生が戻ってきた。

「待たせた。入るぞ」

「ノックしてから言いましょうね」

「黙れ」

またドアが開き、部室に女の子が入ってきた。

「・・・」

「紹介しよう、この子こそ我が陸上部のエース、山重だ」

山重と呼ばれた女の子はぺこりと頭を下げた。やべぇ、超かわいい。

「じゃあ、俺は書類を取ってくる、仲良くしてろよ」

先生は再度俺の椅子を蹴り、部屋から出て行った。足癖が悪いぜ。実はサッカー部の顧問って言われても納得しちまうぜ。

「えっと、初めまして。俺は佐々木七星。1年6組、学籍番号は11番、好きな食べ物はオムライスだ。嫌いな食べ物は甘いものと焼きそばだ。よろしく」

山重は何も言わず、ラインのQRコードを差し出してきた。最近の子は速いねぇと思いつつ連絡先を交換。とりあえずよろしくとスタンプを送ってみる。

『初めまして、山重です』

「ん?初めまして」

『私は生まれつき喋れません』

「初めて知ったぜ」

『ですので、私が佐々木さんに用がある場合はこうやってラインするか、紙に書いて渡します』

「なるほどねぇ」

『まぁ、私が貴方に用が生まれるとは到底思えませんけど』

「ん?どういうこと?」

『私は頭が悪い人が嫌いなんです』

「んだと!俺は卍超☆天☆才卍なんだぞ!」

『あと、敬語を使ってください、私は2年生ですよ』

「おっと、それは失礼」

『意外にも聞き分けがいいんですね』

「まぁ、親に年上は敬えって教わってますから」

『そんなご立派な親から生まれてきたご子息がそのザマですと、私は悲しくてたまりません』

「んだと!そんなこと言われて可哀想だと思わないですか!」

『そうですね、とても可哀想に思います』

「じゃあ、そういうこと言うのやめよーぜ」

『貴方ではなく、貴方の親に同情を禁じ得ないです』

「失礼だな!」

「おう、戻ったぞ」

「先生!山重さんが暴言吐いてきます!」

「うるさい、ホレ、入部届けだ」

「え、俺運動一切合切グッバイ宣言ですよ。」

「知っとる。だからマネージャーだ」

「は?」

「お察しの通り、山重は話せない。だが山重は大会とかにもよく出るスーパースターだ」

「はぁ」

山重さんを見る。確かに細めの足は素人目でもわかるほど張っていた。触ってみたいな。

『じろじろ見るな変態』

「なんだと!」

「まぁ、それで喋れないと大会で不便なんだ。ユニフォームにポケットなんてないからペンと紙も持ち歩けない。手話は誰もできないし。だから山重の専属のマネージャーになれ。これが今回の追試の合格条件だ」

「もし断ったら?」

「んー、アメリカの自由の女神のあのよくわからんとげとげをかっぱらって帰ってくるなら許そうかな」

「えぇ・・・俺はまぁ、別に構わないですけど山重さんはどうなんです?」

『別に気にしない。誰でもいい。みんなどうせ一緒だから』

「じゃあ、俺やりますよ。山重さん、これからよろしくお願いします」

俺は握手をしようと右手を差し出した。山重さんはハイタッチでそれに応えた。


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