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全滅したパーティーを救うため、二周目は未来の知識で俺TUEEE……するはずが、敵が本気出してきちゃった件。  作者: 久喜崎


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第59話「予測を超える絆」

巨大な右の真実の鏡に映る、無数の鋭い爪を持つ化け物キメラ群れに完全に四方を囲まれ、大盾一枚でたった一人で血まみれになって必死に抗い戦うガルドの、泥にまみれた絶望的な姿。

 そして。神官の言葉と同時に、その反対側の壁にスーッと浮かび上がった巨大な左の別の鏡に映し出された、紫色の致死性の腐敗ガスが真っ白に充満し逃げ場の一切ない密室の小部屋で。美しい顔に苦痛を歪め、首を抑えて何度も激しく血を吐いて咳き込みながら床の石畳に倒れ伏している、セレナの絶体絶命の光景。


 レイドにとって自らの半身のように大切なその二つの命の生死の境界線の砂時計が、手出しのできない分厚い二枚の魔法の鏡の向こう側のモニターという密室の空間を通し、レイドの目の前でどこまでも残虐に、そして秒単位で冷酷なカウントダウンの音を刻んでいる。


『ふふふふっ。神は平等だ、今の君の手ではどうやってもどちらか片方の命の器しか救うことはできない。さあ、焦れ、急ぐがいい。早くあの重い扉を選ばねば、あの巨大な盾も一分後には砕け……そして両方とも過去の記憶のように同時にひどく醜い血の塊となって無様に死ぬぞ? あの一周目という君の記憶の絶望のシナリオの時のようにな』

 迷宮の奥深くに隠れた機巧の神官の、自分は完全に一切の安全圏にいながら高みから虫の心理を実験して楽しむような、最悪の意地の悪い冷酷な声が、レイドを閉じ込める狭い密室の回廊全体に嫌に響いて反響する。


 その言葉の悪意が毒のように脳に浸透し。レイドの脳裏の最深部に、忘れたくても決して忘れられない、かつての五年間の一周目の絶望の鮮明な記憶のフラッシュバックが、激しい頭痛とともに蘇って刃のように突き刺さる。

 自分の傲慢さや無力さのせいで。自分より弱い最愛の仲間たちが、順番に次々と目の前で冷たい骸と肉塊に変わっていった、あの絶対に手が届かなかった血みどろの光景たち。

 長剣の柄を握るレイドの手が、自身の無力感への恐怖と怒りでカタカタと激しく震える。指先から心臓の血の気が一気に足元へ引き、顔面が死人のように真っ蒼になっていくのを強く感じた。


「……俺は……どうすれば……」


 どちらの扉を、どちらの命を選ぶ?

 どちらの一人の腕を掴み、どちらの一人の命を確実に見殺しにする?

 ――そんなこと、天秤にかけるように簡単に割り切ってできるはずがない。俺は、アイツら全員の命を犠牲一つなく一つ残らずその手で完璧に救い、かつてのバッドエンドの悲劇を塗り替えるためだけに、一人で過去の地獄からここまで死に物狂いで戻ってきたんだ。


『おや? まだ自身の英雄としてのエゴに迷っているのかい。迷っている暇は一秒もないぞ。ほら、見てみたまえ。あの右の鏡のガルドの無骨な大盾が、ついに中央からメキメキと音を立てて砕けそうだ。……あぁ、そして左の鏡のエルフの女は、ついにガスの猛毒に耐えきれず、完全にピクリとも動かなくなり意識が途絶えた。残りの命は数十秒というところか』


「うるさいっ、クソ野郎がァァァァァァッ!!」


 レイドは自身の脳を真っ二つに引き裂くような絶望の葛藤から逃れるように。自らの限界の風の魔力を纏わせた全力の右手の剣の柄の底で、怒りに任せて力任せに左の壁の「セレナが倒れている映像の鏡」のど真ん中を横から全力で殴りつけ、その分厚い魔法の鏡面を粉々に音を立ててぶち割った。

 パラパラと鋭い巨大なガラスの破片が嵐のように周囲へ飛び散り、レイドの素手の指の関節のあちこちが深く切れ、ボタボタと真赤い熱い血が石畳へぼたぼたと流れる。


 だが。その自身の肉体の確かな鋭い「痛み」と自らの「赤い血」が、レイドの敵の言葉の暗示によって曇りかけ、過去に引っ張られそうになっていた英雄としての強靭な思考を。完全に今のこの冷たい迷宮の現実の時間へと、強烈な平手打ちのように引き戻した。

 ザシュッ、と自らのコートの裾を破り、血の流れる右手に強く縛って止血しながら、静かに深く、長く冷たい深呼吸を一つ。

 レイドはゆっくりと自身の黒い瞳を閉じ、かつて過去の王都に出戻ってきた最初の夜。あの薄暗い酒場の個室で、初めて三人の前で五大という未来の死の真実をすべてを打ち明け、涙を流したあの日の夜を、鮮明に思い出した。


 ――『レイド、私の自分の命の重さの使い道くらい、私自身で決めるわよ。あなたの駒になって、ただ守られて安い命を安全に長生きしているつもりは、元からこれっぽっちもないの』

 ――『お前がいなきゃ俺たちはとっくに死んでた。なら、お前を絶対に一人で死なせないのも……俺たち全員の仲間の立派な役目だからな!』


「……そうだ。本当に、その通りだ。……俺は、ずっと勝手に一人だけの記憶の中で、あいつらを俺の過去の一番弱い被害者という幻影として押し込めて……自分だけが全部責任を負うつもりで、思い上がっていた」


 レイドはゆっくりと、憑き物が完全に落ちたような澄み切った黒い瞳で目を開け。

 残った自分の正面の右の鏡の中に映る、相変わらず血まみれでもがき苦しんでいるような敵の用意した絶望的なキメラの映像を、一切の揺らぎのない氷のような眼差しで真っ直ぐに見据えた。


「――おい。聞こえてるか、どこかの暗闇に隠れて震えてる三流のハッタリ機巧神官」

 そのレイドの静かで低い底冷えするような声のトーンには、先ほどまでの迷いや恐怖、焦燥の心は、ただの一ミリたりとも微塵も残っていなかった。


『……ハッタリだと? 完全に絶望で頭がショートしたか。現実から目を背けて死ぬつもりか?』

「現実を本当に一つも見れてないのは、てめえのその頭の悪いポンコツの機械のレンズの方なんだよクソ野郎。俺の過去の一番痛いトラウマの情報を正確に収集してほじくり返し、最高のタイミングで究極の二択の精神攻撃を仕掛けるまでは、計算通りで相手の心を折る軍師として満点だった。褒めてやるよ。……だが、お前はたった一つだけ、この世で一番重大で決定的なエラーの勘違いをしている」


 レイドは鏡に向かって、いや、この迷宮の壁全体の向こう側で自分を見下して監視しているはずの、第三柱の神官の姿そのものに向かって、真っ直ぐに剣の切っ先を突きつけてはっきりと冷酷に告げた。


「俺が世界で一番愛してる誇高き仲間は……今のお前が見せてるそういうオモチャの幻覚みたいに、何かの一方的な被害者になってただ守られるためだけの、そんなヤワな雑魚で安い部品にはできちゃいない。……あいつらは、目の前に用意された絶対の死の運命の壁くらい、誰かを待つまでもなく『完全に自分たちの力だけで、自力で面白おかしく物理的にぶち壊せる最強の連中』だ」


 レイドのその全幅の信頼の言葉を、宇宙の真理として見事に完全に証明するかのように。


 バァァァァァァァァァァァンッッ!!!!!!


 レイドのいるその狭い一直線の迷宮のさらに遥か奥。空間全体の床と分厚い壁の石組みを何重にも根こそぎ震わせるような、桁違いの凄まじい物理的な大爆破の魔力音が、二箇所からほぼ同時に狂ったように響き渡った。


『な、なんだイレギュラーか!? 魔力炉の区画センサーが吹っ飛んだだと!?』

 ただの隔離空間であるはずの迷宮からの轟音に。完全に安全圏からレイドをただの実験動物として見下しきっていた完璧な神官の無機質な声に、明らかな大きな計算外の動揺と驚愕のノイズが走った。


 レイドの目の前の、監視カメラから送られているはずの右の鏡のライブ映像が激しいノイズと共にぐにゃりと乱れる。

 そこには、キメラの群れに囲まれて血まみれになって無様に防戦一方だったはずのガルドが。突如としてその背中に隠していた残っていた完全な無傷の大盾を、目の前に向かってくる群れのキメラの顔面ではなく……。迷宮の『この戦場を作っている空間の石の壁そのもの』に向かって。自らの全体重と魔力を乗せた全力の『究極のシールドバッシュ』を、ニヤリと笑いながら壁のど真ん中に重く叩き込み、分厚い壁を一枚丸ごと粉々に粉砕した、あり得ない痛快な映像がはっきりと映し出されていた。


「テメェらの用意したこんなチンケな幻覚のキメラのオモチャ相手に、貴重な時間やスタミナを使って遊んでる暇はねぇんだよ! こんな過去の記憶みたいな安い幻を見せやがって。俺の誇り高い仲間は、このオレ自身は……こんなところじゃ絶対に、そんな簡単には一人で死なねぇ!!」


 鏡の中のガルドが、自身の最強の肉体で偽の事実を引き裂きながら、カメラの向こうの敵に向かって吠え猛った。

 彼は最初から、あのサンクトゥリアで五柱を真正面から打ち破った今の自分が、たかが十数匹のキメラごときに後れをとるわけがないことを知っていた。目の前に現れたこの強すぎる絶望の映像自体が、「離れた場所にいるレイドの心を遠隔で折るためだけの、教団側が用意したあまりにも精巧でリアルすぎる幻覚の罠と誘導」だと、純粋な戦士としての極上の直感で、すでに何分も前から完全に気づいていたのだ。敵の幻覚を完全に無視し、この迷宮空間そのものの物理的な破壊という単純な正解の暴力に出たのだ。


 さらに別の場所。カメラが切り替わったその映像の先。

 紫色の高濃度の猛毒のガス室の床の中で、窒息して完全に力尽きてピクリとも動かずに倒れていたはずのセレナの映像。

 ……倒れていたそのセレナの無惨な身体が、突如として蜃気楼のように風のように激しくブレて、数秒で完全にフッと空間から全くの無へと消え去った。

 それは彼女が倒れていたのではなく、高度な幻影の魔術によって本物そっくりに作り出された、ただのエルフの死を偽装する『完全なダミーの残像』。


「……あら、いくら私がか弱い弓使いの女だからって、ごめんなさいね。数百年生きる神聖なエルフの毒への耐久値と基礎の身体能力の高さを、あなたはずいぶんとバカにしてご丁寧に少し低く見積もりすぎなんじゃない?」

 ガスの影響を全く受けていない天井の迷宮の通風口の暗闇の隙間から、美しい身のこなしで音もなく飛び降りて余裕の笑みを浮かべた『本物』の無傷のセレナが。その白魚のような指先から放った見えない三本の不可視の銀矢で、自身の死を映像に監視して写し取っていた三つの鏡の中の「監視カメラのゴーレムの魔眼のレンズの中心」を、正確無比に三つ同時にガシャンと完璧に叩き割って破壊した。


「……最高の連中だろう? あいつらは俺より強いんだ。あんな過去にとらわれた子供騙しの底の浅い三流のギミックの箱庭で……あいつらが簡単に死ぬはずがない」


 レイドは、神官が自らの命のトラウマを弄んで悪質に用意した、ガルドのいる右の『最悪の二択の生存の扉』にも、セレナのいる左の扉にも一切向かうことなく。

 全く何もない、行き止まりのただの分厚い正面何メートルもある一番巨大な大理石の石壁に向かって、スッと長剣を構えて重心を極限まで低く落とす、必殺の抜刀の構えを取った。


 そこが、この空間の全体の強大な魔力の流れの「異常な一つの澱みと集中」――四人を監視し、弄んでいる神官の本体がいるシステム制御室の心臓部への最も無防備な最短距離の直線の裏側であることを、レイドの何百もの死線を超えて極まった『観の目』が、最初から完全に正確に暗闇の奥に捉え見抜いていたからだ。


「俺はアイツらの強さを心の底から完全に信じてる。だから……アイツらも絶対に、俺がこんな安い鏡の幻の挑発に乗って一人で勝手にパニックにならず、四人の最大の壁と脅威である『お前の本体』を真っ直ぐに一番乗りで叩き斬るって、そう信じて俺に背中を預けてそれぞれが動いてる。……それが、五年間一人だった俺たちがここで手に入れた、俺たち四人の絶対の『信頼』という強さの刃だ!」


 風の精霊の魔力のすべてを、限界点を超えて極限まで白く圧縮した長剣の刃。

 レイドは、神官への冷酷な殺意と、三人を絶対の未来まで信じ抜くという揺るぎない覚悟と祈りとともに。自身の立ち塞がる迷宮の分厚い十メートルの石壁ごと、敵の心臓のコアを両断する渾身の奥義である絶技を、ただ真っ直ぐに正面の壁へと深く解き放った。

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