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全滅したパーティーを救うため、二周目は未来の知識で俺TUEEE……するはずが、敵が本気出してきちゃった件。  作者: 久喜崎


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第35話「理不尽な暴力」

頭上の空高く、まるで神のように浮かぶ『虚ろの魔女』の漆黒の瞳と。地上の瓦礫の上に立つレイドの視線が、見えない糸で引かれるように完全に交差した。

 距離にして百メートル以上は離れている。燃え盛る王都の屋根と、遥か天空という絶対的に隔絶された位置関係であっても、あの化け物が見つめている「獲物」が自分自身であることは、レイドの背筋を駆け抜ける致死量の殺意の圧力が、疑いようもなく鮮明に教えてくれていた。

 魔女の無機質な視線が、物理的な重さを持ってレイドの全身の毛穴を貫き、内臓を冷たく撫でる。たったそれだけで、肌が小さな無数の刃物で切り裂かれるような強烈な痛みの錯覚が走る。


 あの絶対者の瞳に殺意をもって射抜かれた者は、一切の例外なく灰の一粒すら残さずこの世から消滅する——それが、一周目の五年間で嫌というほど脳髄に刻み込まれた、抗えない絶対の経験則だ。


「……お前、たち……」


 レイドが、ガクガクと震えようとする歯の根を気力で無理やり噛み殺し、抑え込みながら微かな声を出した。

 口の中が恐怖でカラカラにひび割れたように乾き、舌が喉の奥にへばりついてまともに動かない。


「逃げろ。今すぐ、背中を見せて全力でこの場から離れろ」

「な、何言ってんのよレイド! あんな天上のおぞましい化け物、私たちじゃどうにも……体が動かないわ……!」


 リーネが瓦礫の上にへたり込み、腰を完全に抜かしたまま首を横にガタガタと振る。彼女の銀色の瞳は本能的な恐怖で限界まで見開き、その白い頬を絶望の涙がとめどなく伝い落ちていた。


「だから逃げろと今すぐ走れと言ってるんだ! あれは他の敵とは全く『次元の格』が違う! 俺たちが四人全員で束になって死ぬ気で飛びかかったところで、どうにかなる相手じゃない! さっき見たろ、王都最強の騎士が百人も一斉にかかっても、たった三秒の瞬きで文字通り消し飛ばされたんだ! いいから黙って俺の言う通りにしろ!!」


 喉が裂けるようなレイドの絶叫に、大盾を構えて前へ出ようとしていたガルドが、その巨体をビクッと震わせて顔をしかめた。


「俺たちを置いて逃げろって……あいつの魔女の狙いは一体何だ!? なんでさっきから、他の誰でもなくお前ばかりを蛇みたいに執拗に見つめてやがる!?」

「俺の世界線に対する干渉……未来の記憶の知識を使って歴史を本来の道から大きく変えた『原因不明の歪み』を、あいつのような神に近い上位の存在は、異常な波長として敏感に感知できるんだ。俺はあいつにしてみれば、この世界の『予定調和の美しい旋律を乱す、最高に不快なノイズ』なんだよ! この美しき世界を滅ぼすための、教団の何十年もかけた完璧なシナリオをぐちゃぐちゃに壊す、最も邪魔な存在のバグとして。今、他の何よりも最優先で俺だけを完全に排除しにここへ来ている!」


 レイドは、ついに心の奥に隠していた秘密の能力の言葉の半分を、嘘八百の未来視の話に混ぜて血を吐くように叫んだ。

 もう綺麗な言葉で取り繕う余裕など一秒たりともない。俺を化け物と思うのならそれでもいい。彼らを今すぐこの場から走って離れさせなければ、確実に全員が俺の巻き添えを食って死ぬ。


 自分だけがこの死地の場に残れば、魔女の猛烈な殺意の標的は完全に自分一人へと固定される。

 そのレイドが塵となるほんの数分の間に、三人が王都の入り組んだ地下水路の奥底にでもなんとか逃げ込んで息を潜めれば、少なくともパーティー全体の全滅だけは防げるはずだ。

 一周目の記憶でもそうだった。あいつら大幹部の五柱は、「自身にとって脅威度や不快指数の高い標的」から優先的にピンポイントで処理する機械的な習性がある。


「悪い、ガルド。リーネ。セレナ。お前たちの命は俺が絶対に守り抜くって、あの洞窟で約束したばかりなのに。こんな、俺の未来の知識でも一切計れない理不尽の塊みたいなのが、この最序盤で出てくるとは思わなかった。……俺の、たった一人の奢りの計算が甘かったんだ」


 レイドが三人を庇うように一歩、前へ出る。

 肋骨の砕けた胸の激痛を、気力という名の狂気で強制的に完全に遮断し、ボロボロになった銀の長剣の切っ先を、天空の魔女に向けて中段に鋭く構えた。

 柄を強く握る戦士の手が、ひどくカタカタと震えている。夜の冷たい寒さのせいではない。あの圧倒的で理不尽な死の形に対する純粋な恐怖だ。

 だが、自分の命が理不尽に終わる覚悟など、一周目の『あの絶望の五年間』の地獄からずっとできている。五年間、仲間が肉片になる様を見せられ、毎日のように自分が死ぬ悪夢を見て、何度も心臓を恐怖で止めかけたのだ。今さら、ここで実際に一回死ぬことが何だと言うのか。

 せめて背後の愛する三人だけは、無傷で逃がす——それだけが、この満身創痍の身一つに最後にできる仕事だ。


「……愚かな人間たちの小さなおしゃべりは、もう終わりましたか?」


 天空の果てから、静かな声が降ってきた。

 優雅で、氷のように美しく、そして聞いただけで全身の血が凍りつく致死的な声。


 魔女がスゥッと、その白く美しい右手の一本指を空に向けて上げる。

 瞬間、彼女の周囲の夜空の空間で静止していた膨大な黒い魔力が、極限まで凝縮され、凄まじい硬度を持った無数の漆黒の投げ槍へと一瞬で変換された。

 一応に同じ形をしたその槍の数は、数十、いや百本をとうに超えている。

 たった一本一本が、先ほど重装甲の騎士団を十人まとめて消し飛ばしたあの黒い雷光の爆発に匹敵する、常軌を逸した異常な密度の魔力で構成されている。


 その無数の死の槍の切っ先が。まるで狩人が小さな獣に向けるように、屋根の上の四人に向けて一斉にピタリと放たれた。

 王都の夜空の星月が、漆黒の槍の縞模様で完全に埋め尽くされ、真っ黒な闇に沈む。その光景は、まるで空そのものが砕け散り、悪意の雨の束が一斉に降り注いできたかのようだった。


「後ろを振り向かずに行けェェェッ!!」


 レイドが背後の三人を思い切り背中で突き飛ばし、自らは全ての犠牲となって黒槍の雨の降る中心へと無防備に飛び込んだ。

 銀の長剣を、自身の肉体の限界を生贄にするような凄まじい目にも留まらぬ速度で振るい、頭上から迫り来る三本の重い槍を連続で天へ弾き落とす。

 一周目の狂った殺し合いの中で死に物狂いで磨き上げた、あらゆる剣技と反射神経の全てを出し尽くし、巨大な呪いの槍の塊を空中で切り裂いて軌道を散らす。

 だが、込められている魔力の絶対的な質量が違いすぎる。ただ剣で槍を横へ弾いただけで、レイドの両腕の筋肉の繊維が悲鳴を上げ、骨がミシミシと粉々に砕けそうなほど軋み、口の中に嫌な鉄の血の味がドッと広がった。


「ぐ、おおおおぉぉぉっ!!」


 さらに五本、十本と音もなく降り注ぐ絶望の黒槍。死に物狂いで弾いても弾いても、弾き飛ばしたそばから際限なく降ってくる。

 その中の一本がレイドの無防備な左の太腿を斜めに貫き、肉を引き裂き骨にまで達する深い貫通傷を穿つ。さらに間髪入れずにもう一本が、右肩の根元を深々と抉り取り、血肉が泥のように弾け飛んだ。


「がはっ……!」


 痛覚遮断の魔法の限界効力を超越し、肉を直接削られる激痛に、レイドの視界が完全に真っ白に飛ぶ。

 レイドは屋根瓦の上に力なく膝から崩れ落ち、大量の血を吐きながら痙攣し、それでも右手の指先と剣の柄を布で縛り付けたかのように、かろうじて剣だけは意地でも手放さなかった。


「……ほう。ただのゴミのような人間風情が、私の魔法に一秒でも肉体を残して抗うとは。やはりお前は、この私ですら無視できない『運命の狂った不快なノイズ』のようですね。少々目障りにつき、ここで灰も残さずに一刺しで確実に消去しておきましょう」


 魔女が冷酷で残酷な微笑みを唇に浮かべ、まるで見えない手すりのある不可視の階段を降りるように、ゆっくりと虚空から三十メートルの高さまで降りてくる。

 漆黒の喪服のようなドレスの裾が不気味に夜風に靡き、彼女の周囲の空間の空気だけが、世界の法則に従わずにグニャリと歪んでいるのがレイドの目にも見えた。

 その白く細い指先には、先ほど王都の第一部隊百人を一瞬で消し炭の灰の山に変えた『極限圧縮された黒い光の雷光』の魔力が。今度はただ一人のレイドの心臓に向けて、小さな一滴にまで極限まで収束されて光を放っていた。


「これでお別れです。愚かで醜い、イレギュラーなる者よ」


 無音の中、絶対的な死の光線が指先から放たれた。

 回避不能。防御不能。この世界に存在するあらゆる人間の手段と盾では絶対に防ぐことのできない、完全な絶対の消滅の閃光。


 レイドは静かに目を閉じた。

 もう一ミリも体が動かない。折れた剣を空へ突き出し、構える力すら一滴も残っていない。

 『頼むから、せめてリーネたち三人だけは無事に水路に逃げ込んでいてくれ……』とそれだけを心の中で神に祈った。

 それだけが、俺がこの世に残す唯一の、最後の願いだった。


 ——だが。


 ガガァァンッ!!


 耳の鼓膜を全て破り裂くような激しい金属の悲鳴音と。相反する絶対的な魔力同士が真正面から反発する凄まじい大爆発音が、レイドの閉じた目の数センチという至近距離で烈火のように炸裂した。

 熱い爆風の衝撃波がレイドの全身の砂を叩き払い、瓦礫の破片が四方八方に飛び散る。

 自分がもう死んで灰になったのかと錯覚したレイドが、そっとおそるおそる目を開けると。


 そこには、地獄の炎を遮る、広くて安心する、見慣れた『分厚い鋼鉄の壁』があった。


「——俺たちを見捨てて、誰に背中向けて逃げようとしてんだよ、このボロボロの病み上がりが」


 頭から大量に血を流しながら、折れた両足で片膝を深く瓦礫につきながらも。

 真新しいはずの特注のミスリルの大盾を全力で構え、死を覚悟したレイドの真正面に絶対に動かない壁として立ち塞がった、大きな赤い巨体。

 盾の表面は黒い雷光の直撃の熱で溶解してドロドロの真っ赤に灼け溶け、盾を構えて踏ん張る彼自身の右腕の肉からも、ジリジリと焦げる白い煙が上がっている。


「ガ、ルド……!?」


 レイドが信じられないというように大きく目を見張るその前で。

 ガルドは猛烈な熱の炎と魔力の嵐に全身を焼かれ皮膚を炭化させながら、それでもなおレイドを振り向き、あの日の酒場と同じ豪快で屈託のない笑みを強く浮かべてみせたのだ。

 全身から焦げる煙が上がり、治癒途中のギプスの左腕が痙攣してガタガタと震えているのに。彼のその瞳の奥の色だけは、完全に魔女への死の恐怖すらも超越した、『お前を守る』という絶対的な戦士の覚悟の光にだけ満ちている。


「俺のこのパーティーでの役割は……どんな理不尽な化け物が来ようとも、お前の前で絶対に抜かれねぇ『最強の盾』になることだって、洞窟の夜に俺とお前で約束したよなぁ!?」


 魔女の放った、世界を終わらせる致死の雷光の圧力を。

 たった一人の人間の血の通った筋肉と、絶対に仲間を死なせないという魂の意志の力強さだけで。ガルドは両足の骨を真っ二つに折りながらも、レイドの前で一歩も引かずに真正面から受け止めきっていた。

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