あれから
あの後まず、あの日の約束通り妻と一緒に花見に行った。
桜はまだまだ先だったので、萩という花が見頃だと聞いて、妻を連れて「萩まつり」と銘打っている寺に行った。
行ったのだが………
萩というのは想定外に地味な花だった…。
「すまない。こんなに地味な花だとは知らなかった」
和歌にも登場するくらいだ。きっと大輪の美しい花なのだろうと勝手に思い込んでいたら、なんというか花としての存在感に欠ける花だった。
妻を喜ばせたかったのに…。
落胆して肩を落とす俺を見て、妻はおかしそうに笑った。
「私は好きよ。こういう花」
本当だろうかと妻の顔をじっと見つめる。すると
「それに、あなたがここに連れてきてくれたことが嬉しいわ」
と柔らかく微笑まれた。
思わずその場で抱きしめたくなったが、流石に節操がなさすぎるだろうとグッとこらえた。
ここは寺だ。
代わりに、妻がチラチラと気にしていた野点に誘った。
妻は久々の茶の席が嬉しいのか、楽しそうに見えた。元々茶道や華道など一通り習っていた妻の仕草はとても綺麗だった。
楽し気な妻にほっとして心静かに茶の席から改めて眺めると、地味な萩の花も趣があってそれなりによく見えた。不思議なものだな。
一緒に茶を楽しんだ後、出てきた菓子が美味かったので店の名前を教えてもらい、帰りに寄って帰った。妻は喜んでいた。
別の日には公園に散歩に行って、妻がいつも世話になっている猫に挨拶をした。
友好的な猫でほっとした。
これからは週末に、妻と一緒にたまに会いに行くかもしれないからな。
結婚記念日には、花を買って帰った。
どの花がいいかわからなかったので、妻の好きな白い花をメインに花屋の店員に適当に見繕ってもらった。
ついあれもこれもと追加して、大きくなりすぎた花束を抱えて帰った俺を見て綻ぶ妻の笑顔が愛らしかった。
それ以外のクリスマスや互いの誕生日にも、残業はしないと決めた。
妻の誕生日はまだ先だが、接待で使ったレストランに予約を入れておいた。妻の好きそうな雰囲気だったから、きっと喜んでくれるだろう。
ただ、プレゼントに何を贈ったらいいのかわからなくて少し困っている。
それと、外泊が必要になるほどの残業もやめた。妻がまた一緒に食べてくれるようになったのに、家に帰らないという選択肢はない。
やめてみて気づいたのだが、そこまで働かなくても何とかなるものなんだな。
そして大抵の週末は、妻とのんびり過ごしている。あの日、そうしたいと願った通りに。
二人で茶を飲んで菓子をつついて、妻が毎日整えてくれているリビングでゆったりくつろぐ。
他愛もない話をしながら。
そういえば、最近俺は妻に甘えることを覚えた。
いや、前から精神的には無自覚に甘えていたが、膝枕を要求したりと、そういったわかりやすい甘え方を覚えた。
妻は顔を赤くして戸惑いを見せながらも頼んだ通りにしてくれるので、つい調子にのってしまいそうだ。
この前は、膝枕をしながら耳かきをしてもらった。
至福というのは、ああいうことを言うのだろうな。
あまりに気持ちがよかったので休日ごとにしてもらおうと思ったら、頻繁にやるのはよくないのだと叱られてしまった。
俺を心配する妻に叱られる。
これもまた至福だ。
…あのまま過ごしていたら、到底手に入らなかった幸せだ。




