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行ってらっしゃいの…
出かける間際の夫にじっと見つめられた。
何だろう?
首を傾げると、夫はおもむろに口を開いた。
「君は口紅をつけていないよな?」
……家の中でもきちんと化粧をしろという催促なのだろうか。
思わず眉間にシワが寄る。
最近会話が増えたのは嬉しいけれど、こういう要求は少し気が重い。
私は肌が弱いので、なるべく化粧は避けたいのだ。それに朝は色々忙しいので、化粧をするとなると更に早く起きなければならなくなる。
それでも夫がしろと言うなら…
ため息を吐いて渋々口を開いた。
「…して欲しいというならするけれど…」
予想に反して、夫は首を振った。
「いや、ただの確認だ」
そして一歩近づいた夫に顎を取られ唇が重なる。
え……?
目を瞬く。
今、何が起きたのだろう。
身体を離した夫を凝視する。
「色移りするのは少し困ると思っただけだ。行ってきます」
夫は颯爽と玄関から出て行った。
後には呆然とした私が残された。
キス…された…?
じわじわ頬が熱くなる。
別に夫とキスするのは初めてじゃない。初めてじゃないし、夫婦なのでそれ以上のことだってしてきたけれど。でも…
行ってらっしゃいのキス………
初めてのそれをようやく理解して、床にうずくまった。




