春待ちの公園
坂を上り、見上げると美鈴がいた。
彼女は、写真を撮っていた。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
「また、会いましたね。」
彼女に話かけた。
「富士山、綺麗ですね。」
「今日は、ひとりですか。」
「ええ。ひとりです。ここはひとりできたくて。」
「なぜです?」
「なんでかな。ただ、そんな感じがして。」
「もうひとつ、聞いていいですか?」
「どうぞ。」
「なぜ、今日、ここなんです?」
「天気がよかったから、富士山が綺麗にみえると思って。」
「すみません。言葉足らずの質問でした。小説では、この大崎公園が最初にでてきたはずですが。」
「あの小説のこと、よく知ってますね。最初にでてきたところだし、一番きてみたかったところのひとつです。ただ、なんとなくなんですが、ひとりできたかったし、ひとりでもこれるかなと思っていたところです。」
「逗子マリが見下ろせて、海と富士山、綺麗ですもんね。」
「はい。ところで、その丁寧な口調、やめてもらえません?」
「じゃあ。えへん。ねえ、知ってる?映画では、あのベンチのところにジャングルジムがあったの。」
「みたいですね。映画はみてないですけど。」
「僕も映画はみていない。」
美鈴が、くすくすと笑った。
「てっきり、見てるのかと。」
「でも、原作は読んだよ。」
「わたしもおんなじです。ベンチに座りません?」
ベンチに座ろうとして、僕は気がついた。
何十回とここにきているが、ベンチに座るのははじめてだ。
ふたりは、ベンチに腰をおろした。
美鈴は、バックパックからなにかを取り出そうとしている。
小説かな。
僕は、そう思った。
「これ、食べません?」
おにぎりだった。
手づくりの。
ふたりでおにぎり食べて。
いろんな話をして。
春を待つやわらかい日差しが、我々を照らす。
1時間近く、話をしていただろうか。
「これから、どこへ。」
「逗子マリに下りて、バスで鎌倉に行くつもりです。」
「どちらへ。」
「浪子不動をとおって逗子へ。もっとも海は歩かないけれど。」
「今度、海を歩いてみたいな。」
「5月だね。」
「5月かあ。」




