ここ、どこ?
「ここ、ここ。」
「ここ、ここって、ここ、どこ?」
「あそこが北鎌倉の駅。ほら、スカ線見えるでしょ。緑の屋根が円覚寺。」
「ええと。ほんとだ。しかし、よくこんな道、こんな場所知ってたね。」
「ここきたのはじめてだよ。」
「そうなの?」
「うん。ちゃんとこれるか不安だったの。」
「不安って、どういうこと?」
「だって、小説に書いてあったから。」
「雑誌とかネットとかで調べてきたんじゃあないの?」
「うん。その小説、リアルだったから、ちゃんと実在するんじゃあないかと思って。」
「実在しなかったら?」
「そのときはそのとき。でも実在したし。トトロの森にでてきそうな場所もあったしね。」
「美鈴、小説の場所を確認するのに私を巻き込んだの?」
「ゴメン。京子、鎌倉詳しそうだし。」
「ゴメンって。まあ、楽しかったからいいけど。でも、どこ行くのかと思ったよ。鎌倉に遊びに行こうって連絡あったから、お寺巡りとか、スイーツ巡りとか思ってた。それなのに大船で待ち合わせだし。小学校の脇から怪しげな山道入っていくし。鎌倉、詳しいったってこんな道、こんな場所知らないわよ。」
「でも、楽しかったでしょ。」
京子は、美鈴の頭をコツンとたたいた。
この北鎌倉を見渡せる場所で人と会うことはあまりない。
散歩している地元の人を除いては。
僕は、彼女たちの会話をずっと聞いていた。
聞こえていたということがほんとのところだ。
ずっと話をしていた彼女たちがようやく僕に気がついた。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
ふたりが挨拶をする。
「こんにちは。」
と答える。
「これからはどこ行きますか?美鈴さん。」
京子が少しトゲのある言い方をする。
「ええとっ・・・」
美鈴はバックパックをおろし、なにかを取り出そうとする。
「源氏山ですか?」
僕が口をはさむ。
「そっ、そこです。」
と美鈴。
「源氏山?」
と京子。
僕は源氏山がすぐそこであること、そしてそこに行く道順をふたりに説明した。
京子は説明に何度もうなづき、ひとこと。
「丁寧にありがとうございました。」
あわてて、隣の美鈴が頭を下げて。
「ありがとうございました。」
「どういたしまして。」
暮れも押し迫ったとある一日。
ここで僕たちは出合った。
そして物語は始まった。




