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 地上に戻り、エリスの口から、事の一部始終が語られた。

 一方、同時刻に、隼と寺崎、深津を乗せた新幹線が、東京駅18番線ホームに滑り込んだ。

 やはり、今回のイベントには思うところがあった。

 というのも、トクハンが結成して間もなく、北海道で妖怪による列車強盗事件が起きていた。

 列車が舞台の犯罪として、この事件を捜査員は、連想せずにはいられなかったのだ。

 改札を抜け、エリスたちのいる控室に。

 ここで初めて、隼も、エリスの件を知った。

 「外部に、エリスの正体がバレてしまったか・・・」

 「ごめんなさい。

  私が・・・もっと・・・」

 あやめが、俯くエリスの肩を叩く。

 「あなたのせいじゃないわ。

  私だって、そんなことされたら、抵抗できないもの」

 「で、その倉田は?」

 「どこかに電話をかけているよ」と大介。

 「今日の式典に参加する声優さんは、確か4人だったね」

 「はい。

  篠乃木里菜、堀井初、川原麻里かわはら まり梶本裕太郎かじもと ゆうたろうの4名です。

  既に、控室に入っています。

  脅迫の方は、既に」

 「そうか・・・。

  この列車には、踊子高校の卒業生が4人乗車する。

  昨日、伊豆長岡温泉で国木田選手が殺害された直後だ。

  いつ、どこで襲撃を仕掛けてくるか分からない。

  慎重に、かつ大胆に、犯人の手から彼らを守るんだ」

 『了解』

 “大胆に”は、いらないのでは?

 まあ、それは置いておいて、相手はゴーレムの可能性が高い。

 人間では有り得ない行動を取る危険性は十分にあるのだ。

 列車の乗員にも限りがあるため、隼たちは列車に乗ることはできない。

 そのため、隼はヘリで、寺崎と深津はZ33を借りて、列車を追うとのコト。

 「ところで、昨日、君たちを襲った車なんだが」と寺崎

 「誰の車か分かったんですか?」

 あやめが聞く。

 「ラ・セード購入者から絞り込んだら、倉田の名前が出てきたんだ」

 「じゃあ、あの車は、倉田の?」と大介

 つまり、ゴーレムを操っているのは、倉田?

 確かに、それだけの頭脳を持ち合わせていても、おかしくはない。

 誰が、どの場所にいるのかも知っているハズ。

 「でも、仮に彼を犯人として、その動機は?」

 あやめが質問を投げかけた。

 「もしかしたら、過去を消したいのかも」

 不意に、エリスがしゃべった。

 「過去を?」

 「私の様に、誰かの弱みを握って、意のままにする。

  そういうことを、彼はしていたに違いないわ。

  弱みを握らなくても、傍若無人に」

 「で、ある時、何かは知らないけど、殺された幼なじみ―G7に逆に弱みを握られた。

  その弱みは、これから行われるアニメプロジェクトと、新しいレジャー施設建設の際に、非常に不利になる。

  だから、彼らを消そうとしている・・・そういうことだね?」

 大介の言葉に、エリスは頷く。

 「成程・・・だけど、その弱みだ」と隼

 「今までの物証からして、死亡した小林リョウ、ないしは熱海大火災に関連した何か」

 「俺が、まだ静岡県警にいた頃だ。

  被害者と、事件関係者を調べたが、全員に疑わしい動きは見られなかったよ」

 と、深津が言う。

 「私も、協力者を使って調査中よ。

  仏具にトラック、白装束・・・一体、何を隠しているの?」

 ここで考えていても、埒があかない。

 既に、時刻は9時半を回っている。

 式典は、10時半から。

 後、1時間。

 車両センターに赴いた神間からの連絡で、列車の準備が完了したことを知る。

 不審物も、ないそうだ。

 一方宮地、高垣両刑事の報告でも、駅に不審者らしき人影はいないそうだ。

 あやめと大介は、篠乃木里菜の警護へと向かった。

 エリスは、倉田との接触を避けるため、隼の傍に残した。

 やはり、イベント前だろうか、騒々しい。

 待合室に近づいていた時。

 「あやめさん」

 1人の女性が声をかけてきた。

 堀井初。

 「堀井さん?」

 「どうかしたんです?」

 彼女は、周囲を見回して、言った。

 「少し、気になることがあるんです。

  こんな事、疑いたくもないんですが・・・」

 彼女を察して、3人は、人気のない場所に移動する。

 「気になること?」

 「ええ。

  仏具が、ダイイングメッセージの様に置かれてるって、昨日聞いたんですが」

 「そうですよ」

 「もしかしたら・・・彼女、学生時代にいじめをしていたかも・・・って思ったんです」

 「いじめ!?」

 堀井が言うには、仏具と聞くと、地元で起きた事件を思い出すというのだ。

 それは、“葬式ごっこ”

 1980年代に全国の学校で横行した、いじめの手段。

 標的の生徒を、まだ生きているにも関わらず、死んだ事として、教室で葬式をあげるという行為。

 多くのケースは、教卓に遺影や仏具を置き、カセットテープで経文を流し、生徒全員が焼香するという、被害者に精神的苦痛を与えるもの。

 堀井の地元でも、この“葬式ごっこ”が行われている学校があったという。

 まだその時は小さかったが、小学校高学年になる頃には、先生から聞かされていたという。

 とある中学で、“葬式ごっこ”が行われ、標的となった生徒が数日後、建設中の高層マンションから飛び降りて自殺した。

 後の調査で、担任もいじめに加担し、教育委員会も事態を黙殺していたことも判明したという。

 「聞いたことがあります。

  確か、いじめ事件が社会的に注目された事件ですよね?」

 「そうです。

  もしかしたら、犯人は、彼らからいじめを受けた被害者じゃないでしょうか?

  篠乃木さんが言っていた、死装束の意味が、これだったら」

 「いじめの報復として、彼らを殺した?」

 「そうです」

 可能性としては、捨てきれなかった。

 町の名士の息子という盾を使って、倉田が高校内でいじめを行っていても不思議ではない。

 エリスが受けたのと同じように。

 過去にも、いじめの報復を動機とした、大量殺人未遂事件が発生している。

 「分かりました。

  どうも、ありがとうございます」

 「この事を、彼女たちには言わないでください」

 「安心してください。

  私も、大介も、口は堅いですから」

 そう聞くと安心して、控室へ戻っていった。

 「どう思うね?」と大介

 「ミニカーに付着していた血からして、仮にいじめが起きていたのなら、その被害者は小林リョウ。

  彼の復讐を、誰かが起こしている」

 「でも、彼はバスの転落事故で死んでいるんだぜ」

 「それが、隠したい過去。

  もし、そのバス転落事故が、運転手のミスじゃなくて、作為的に起きた犯罪だったら?」

 「!?」

 大介に戦慄が走った。

 「いじめのために、大勢の無関係な人間を巻き込んだのか?

  そこまでするとは考えられない」

 「そうかしら?

  人間にとって“いじめ”なんて麻薬同然、相手はただの“ピエロ”。

  麻薬に手を染めた人間は、標的ピエロを傷つけ、傷つけ、傷つけ・・・。

  “いじめ”によって得られる快楽は、被疑者と傍観者オーディエンスを絶頂へ押しやる。

  そのうち、“優しい”、“手加減”という感覚は麻痺し、更なる“残酷”を求める」

 「残酷?」 

 「始めは、ボールに乗り、おどけるピエロで満足する。

  でも、段々公演を重ねるたびに、それだけじゃ足りなくなる。

  自分で、柱に頭を打ちつけ、おどける。

  それでも、いつしか足りなくなる。

  最後は・・・」

 「最後は?」

 あやめは、自分の首に手刀を向けた。

 「おどけながら、自分の首にナイフを突き立てる。

  そうしたら、どうなると思う?」

 「・・・」

 「ほとんどのオーディエンスは、麻薬の効果が切れるのよ。

  自分の顔にかかった鮮血と、その臭い、真っ赤な血の池に倒れるピエロの死骸を見て、麻痺した感覚が戻ってくる。

  “罪悪感”と“後悔”という、とてつもないオマケをこさえてね。

   ああ、私の罪は悪臭を放ち、天まで臭う・・・とね」

 「・・・」

 「所詮、いじめの構図なんて、そんなもの。

  学校という、社会とは違ったコミュニティが形成されている空間は、大人たちには理解できない事態が、次々と起こるもの。

  その中に、誰しもが巻き込まれる」

 「この世界という広大な劇場は、我々が演じている場面よりもっと悲惨な場面を見せてくれる」

 「だから、私は異常には思わない。

  あの倉田たちが、いじめによる快楽のために、バス1台を葬ったとしてもね。

  最も、こんな能書き、あなたの前では何の意味も持たないわよね?」

 「まあ、そうだな。

  俺も、その劇場で踊らされた、ピエロの1人に過ぎないんだ」

 「そして、私も・・・」

 あやめの瞳は暗かった。

 この世の終わりが来るのではと思わんくらいに。

 一度閉じた瞳は、明るさを取り戻し、大介に姿を見せる。

 「兎に角、可及的速やかに調べる必要があるわね」

 「成程、可及的速やかにね」

 あやめは、ケータイを出すと、協力者へ再度、電話をかけた。

 倉田たちのクラスメイト、ないしは過去の卒業生を探すように。

 間もなく、イベントが始まる。

 大勢の人間を巻き込まんとする、この事件の構図が、彼らの予想通りなら。

 これほど、痛いモノがあるだろうか。

 不幸な時代の重荷は、我々が背負わねばならぬ。

 2人は、控室の前で、不審な人物を見張るのだった。

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