序幕
真っ黒な夜の闇に浮かび上がる、公衆電話ボックスがあった。その中で私は背伸びをしている。受話器の底に指先が触れるものの、完全に持ち上げる事はできなかった。
見かねたらしい大人が、私に話しかけてきた。
「見ての通りです。電話がしたいんです」
短く答えると、その大人は私から硬化を受け取って、私の言う通りの番号を押した上で、受話器を渡してくれた。
電話をしている最中も、その大人はずっと外から私を見ている。電話を終えてボックスの外に出ると、質問を多々ぶつけられた。
私はその全てに答える。
今は七才である事、妹が生まれた事、その妹は血が繋がっていない事、両親も血が繋がっていない事。電話の相手はその親代わりの人である事。金はやるから好きにしろ、と言われた事。
…………だから親元を離れて、この寮のある学園に来た事。
私は質問攻めに、うんざりし始めていた。
私ぐらいの子供なら身長から大体の年齢はわかる。そんな小さな子供が夜遅くに公衆電話にいるのは何らかの事情があるに決まっている。極めつけに、私は学園の制服と帽子を身に着けた上、足元に通学鞄もある。
要するに、その大人はわかりきった事しか――――当たり前の事しか、聞かなかったのだ。
それでもなんとか『よくできた子』を演じていたものの。
最後の質問。――――なぜ、誰かに頼ろうとしなかったのか――――それには。
「だって……。わたしの手、どこにでも届きますから」
つい嘲笑を返してしまった。




