陸の苦悩 琳子の気持ち
「……琳子、イッシャごめん……」
早朝 日が昇る前に琳子の家をこっそり抜け出し東の森へと向けて歩き出した……。
――
「はぁ、琳子心配しているかな……」
木の幹によりかかって座り、太陽の光が差し込む快晴な空を見上げる。
「けど僕が琳子のそばにいたら……っ!」
そう思い特に何も考えずただ離れようとして東の森へと来ていた。
そんな矢先、水汲みに来た琳子とイッシャとイツキが現れ慌てて木影に隠れ様子を見る。
「はぁ陸君どこにいったんだろう……」
「うん……」
「けっ! この森から出てったんじゃねぇの~」
イツキがいつもと変わらない口調でそう言い放つ。
「そんな、陸お兄ちゃんイッシャ達の事嫌いになったの?!」
「じょ、冗談だよイッシャ! 何か用事があったんじゃねぇの?!」
泣きそうになるイッシャを見て慌ててイツキがフォローする。
「うん、きっとそうだよね、夕方までにはきっと帰ってくるよ!。だから、待ってよ? イッシャ」
「うん……」
そうして琳子たち三人は水を汲み立ち去っていった。
「琳子たち心配してたな……」
二人の悲しむ顔を見て心が痛むが、帰るわけにもいかず木の幹によりかかりうつ向き続ける――――。
翌日、いつの間にか眠ってしまい顔を上げると雨が降りしきっていた。
幸い六月なので寒さは気にならなかった。
「はぁ……」
頭を雨が伝い考えがまとまらず、どうしていいかわからずに、ただ時間だけが闇雲に過ぎ去っていった。
「ここにいたのですか、陸様」
その時頭上に和傘が差し出され雨がさえぎられる。
「まったく心配かけおって」
「空狐さん、おしら様……」
頭を上げ見上げると空狐さんが笑って傘を差し出しており、呆れ顔したおしら様が立っていた。
「ほれ、小僧さっさと帰らぬか琳子が心配しているぞ」
「それはできません……」
「なぜじゃ?」
「――僕のそばにいる人間は昔から事故や事件にあったり不幸な目にあったりするんです」
「今回のイッシャも空狐さんだって僕のせいで……」
うつむいてそう言い放つ。
「私があの森を出たのは陸様のせいではありません、自分の意志です」
「そうじゃぞ、小僧、それにイッシャの病気は偶然じゃぞ」
「でも――」
「ええい、ぐだぐだ言っておらんで、さっさと行かぬか!この村から本当に追い出すぞ!」
そう言いおしら様が僕を足蹴りする。
「琳子がどれだけ心配して待っていると思うのじゃ、またあの子につらい思いをさせる気か!」
「おしら様……」
おしら様がそう怒鳴って言い放つ。
「それじやわしらは帰るからな、おぬしもすぐ帰るのじゃぞ」
「陸様風邪を引かれぬように」
「はい、空狐さんおしら様ありがとうございました」
空狐さんから和傘を受け取りお辞儀して立ち去っていく二人を見送る。
「僕も帰るか……」
重い腰を上げおぼつかない重い足取りで琳子の家へと向かう。
――――家の近くへと到着し、辺りが真っ暗で雨が降りしきる中、琳子が家の前で傘を持ち立ち尽くしていた。
「琳子……」
気まずい思いになりながらもゆっくりと琳子へと近寄る。
「陸君……っ!」
琳子が驚きこちらへと気づき視線をやる。
「ごめん……」
「馬鹿っ!」
「っ!」
琳子が傘を地面へと落とし手の平で自分の頬を力強くひっぱたく。
「私とイッシャがどれだけ心配したと思っているの!……」
琳子がそう言って涙を流し降りしきる雨と交わって頬をつたう。
「でも僕はここにいちゃいけないんだ……」
「え?……」
先ほどおしら様に話したようにも、自分の不幸体質を琳子に話す。
「それで周りは僕の疫病神や死神なんて呼んでさ……ハハッ……」
自嘲の笑みを浮かべてそう話す自分の話を琳子はただ黙って聞いていた。
「関係ないよ……」
「え?……」
琳子がポツリとそうつぶやいた。
「そんなの関係ないよ! 私は幸運を運ぶ座敷童子だよ?! 陸君が厄を運ぶって言うなら私が全部吹き飛ばすから! だから……ひっく……」
雨の中琳子が泣きながらそう叫び涙で声が詰まる。
「だから、出ていかないで……私は陸君のことが好きなんだから!」
「琳子……」
初めて聞く琳子の予想外の自分のことが好きだと言う言葉に驚き戸惑う。
「ごめん、もう出て行くなんて言わないよ、ずっとここにいる。それと僕も琳子の事が好きだ!」
「陸君……あっ――」
傘を手放しすっかり雨で冷え切った琳子の体を抱きしめ唇を交わす。
「ごめん! いやだった?!」
「ううん……」
慌てて口を離し後ろへと下がり、琳子が自分を見てうれしそうに首を横に振った。
「あ、雨やんだね♪」
「うん、そうだね」
琳子が空を見上げてそう言い自分も空を見上げる。
見上げた夜空には雨雲が晴れ星が光っていた。
「それじゃ陸君、晩御飯にしようか?♪ すっかり冷めちゃったけど……」
「あはは……ごめんっ」
琳子と家へと入り夕食をとることにした。
この後イッシャに泣きながら抱きつかれイツキにはこっぴどく怒られ殴られた。