番外編:海へ行こう、生徒会!(前編)
「あっつい…」
長期休暇に入ってから、快適な冷房暮らしを堪能していた矢先。鷹原から一報が飛んできた。「明後日の火曜日、校門前に明朝の五時集合」とだけ。
まさか、海来るとは思わないじゃんか。現地で水着借りれたからよかったけど。
他の生徒会メンバについては先週から連絡が回っていたらしく、手荷物をほとんど持たずに集合したので変な顔をされた。各々、着替えや水着を持参しておりその場で膝から崩れ落ちる。持っていくものくらい言ってくれれば流石に用意するって。
「どうせ、鷹原が断らせないようにしたんだろ。気に入られてんのな、お前」
三宅をさらにマッスル化したような、筋骨隆々の逞しい体をしている三年の桑路霖之助という男。気に入られているのかはさておき、確実に巻き込もうとしていることだけは分かる。
「気に入られているとは、少し違う気がしますが…」
「まあ、何でもいいじゃねえか。せっかくだし、楽しんでこうぜ!」
胸を張り、ビシッと親指を真っ直ぐ立て、白い歯が太陽よりも眩しく煌めく。三宅をさらに暑苦しくしたような彼のおかげで、より気温が高く感じるのは気のせいだと思いたい。
「すまないな。信用していないわけではないぞ。うん」
「雫ちゃんも幸太郎くんも今日は楽しむのが目的だからね!」
それでも、連れてこられたことに文句を言わないのは理由がある。腐っても男、女性の水着姿を見て何も思わないなんてことはない。
親しく話しかけてくる輪島春は桑路と同じ三年。かなりフレンドリーで、分け隔てなく仲良くしてくれる。彼女の天井のない明るさも相まって、とても可愛らしい印象がある。
鷹原のスタイルもさることながら、輪島はより暴力的といって遜色ないだろう。そんな魅力が薄布程度で防げるわけもなく、胸元がしっかり開いたフリル付きのビキニスタイル。夏にぴったりのスカイブルーが眩しい。
「今日は楽しむのではなく、臨海合宿の下見が目的ですよ。先輩方も少しお控えください」
いま、ここはマッスルボディ二人と美女二人。そして、胸板の薄く、暑さにやられている貧弱人間の計五名がレジャーシートの上に集結しているのだ。
圧倒的アウェイ感。
「みやけんはいつもかたっ苦しいな!」
「その呼び方も控えていただけると有難いのですが…」
「固いねえ。もっと肩の力抜いてこうよ!」
三年二人にウェイウェイされている三宅もかなり珍しい。あまりこういうことに慣れていないと車の移動中に自白していたが、一番上がこのテンションなら誰でもこうなるに決まっている。
「まだ、君から水着の感想を貰ってないのだが。どうだろうか、似合っているかい?」
三宅が絡まれている間に、すっと距離を縮めてきた。白い肌に良く映える黒のワンショルダーと言われるタイプの水着。体のラインがしっかりと浮き出ており、どこに視線を向ければいいのか、小心者の俺にはほぼ拷問に近い。
「ええ、似合っていると思います…」
いつも流している黒髪は一つに結われ、露わになったうなじが色香を寄せる。普段とは違う魅力に当てられ、暑さにやられる前に限界を超えそうだ。頭の中を今日は生徒会の業務出来たのだと自己洗脳をして、今日を乗り切ることに集中しよう。
「とりあえず、ビーチバレーからだな」
鷹原と三宅、輪島と桑路で二人組を組む。俺と顧問の白崎は暑さをしのぐため、パラソルの下で得点を付けていた。
中々ボールが落ちず、白熱したものとなった。途中、思いきり打ち込んだ輪島のボールがあらぬ方向へ飛んでいき、俺は顔面で華麗に受ける。素材が柔らかいもので本当に良かった。もし硬球だったら顔が凹んでいたに違いない。
正直なところ、自身の視線が自動的により激しく動く一か所を意志とはかかわらずに見てしまっていた天罰に違いない。
「大丈夫?」
それ以上近づかないでください。耐性のない男子高校生へ、これ以上の接触は死へと至らしめます。
ただ、実施するにあたって周囲へ迷惑がかかること、学年単位で行うとそれこそ場所の確保が難しいとのことで、ビーチバレーは却下となった。いや、あんたらガチすぎるんだって。
「次はあれだな!」
桑路が指を差す先は小さな小屋の受付口。その横に綺麗に並んでいるバナナボートを指さす。当日はかなり込み合う人気アクティビティらしく、実際にやるとなったら事前予約が必要になるだろう。
「うん!全員乗れるね!」
有無も言わさず首根っこを掴まれる。流れるままに水上ジェットに乗せられ、抵抗する前にライフジャケットを着用した。どんどんと遠ざかっていく陸地。何も考えないようにしよう。この人たちには抗えない、物理的にも。
隣で同じ顔をしている顧問には物凄く親近感が湧いた。いや、あんたが嫌そうな顔するなら第一に止めてくださいよ。
「じゃあ一番前は三宅な」
三宅と桑路が先頭を切り、俺はその後ろに座った。全員の準備が整うと、水上ジェットが勢いよく走りだす。
全員でバランスをとり、なるべく落ちずにどれだけ耐久出来るかというのがこのバナナボートの趣旨らしい。座る順番を変えながら何度か挑戦したものの、2分も耐えられずに海へ放り出されてしまう。
「なんか、すっげえ疲れた…」
あれだけ激しく揺られていたのに、疲れた様子を見せないマッスル達。輪島に至っては片手を放して乗っていたものだから、たまに後ろから体重がかかってくる。こっちの気疲れは相当なものだ。
「アクティビティ自体は楽しかったですが、事前の予約が必要になるし、何より人数によっては予算が足りなくなる可能性があります」
「やはり、自由行動にして各々好きなことをやらせるのが一番だろうな。先生はどう思われますか」
「そうだねえ。俺個人としては先生の見回りがかなり大変にはなるからあんまり推奨はしないけど、決まりきったイベントばかりも生徒はつまらなく感じるだろうから。俺は自由行動に賛成」
先程まで無邪気に楽しんでいたかと思えば、目的を忘れることなくしっかりと話し合う。この切り替えや生徒会としての責務を全うし、先輩や教師に対して遠慮なく自身の考えや意見を言う三宅や鷹原のことを、素直にかっこいいと思ってしまった。
「結論は急がずに。まずは宿に戻ろうか」




